日本では電気自動車が売れないのが現状だ。それはなぜなのか? 「2024年春に出てくる電気軽商用車が我が国における本当の意味での普及スタートになることだろう」と予測する国沢光宏氏が日本でEVの売れないワケを解説する。
文/国沢光宏、写真/ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部、トヨタ、日産
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■日本でEVが売れない理由とは?
売れ行きが伸び悩んでいる国産EVのうち、半数は日産SAKURAと三菱eKクロスEVといった感じ© ベストカー 提供
売れ行きが伸び悩んでいる国産EVのうち、半数は日産SAKURAと三菱eKクロスEVといった感じ
改めて書くまでもなく我が国は電気自動車の売れゆきが伸び悩んでしまっている。2023年の販売台数8万8535台で、電気自動車比率わずか1.7%。しかもSAKURAとeKクロスEVが半分といったイメージ。
登録車にかぎっていえば1%にも満たない。欧州は14.6%。アメリカも大幅に伸びて8%となった。数字を見て、新聞など大手メディアはメーカーを電気自動車の出遅れを厳しく攻める。
だったら電気自動車を日本に導入している海外メーカーが好調な売れゆきを見せているかとなれば、まったく違う。むしろ大苦戦中! メルセデスもBMWもVWもステランティスも多数の電気自動車を日本で販売しているけれど、売れていない。
ヒョンデアイオニック5と筆者。日本では479万~599万円という価格設定になっている© ベストカー 提供
ヒョンデアイオニック5と筆者。日本では479万~599万円という価格設定になっている
世界規模で高い評価を受けているBYDやヒョンデだってリーズナブルな価格をつけている。なんで日本は電気自動車が売れないのだろうか?
私は3つほど理由あると考えています。それぞれ説明していきたい。
■1)日産の初代リーフが悪いイメージを残した
2010年12月に登場した初代日産リーフ。日産のユーザーへのフォローがなかったと筆者は指摘している© ベストカー 提供
2010年12月に登場した初代日産リーフ。日産のユーザーへのフォローがなかったと筆者は指摘している
リーフを買った人たちは「アーリーアダプター」と呼ばれる、新しいものを積極的に受け入れる人たちだ。初代プリウスを買った人の多くが満足し、次もプリウスを選んでいる。
本来ならリーフを買った人たちはリーフに乗り替える潜在客だと思う。なのに、買った皆さんは「もう電気自動車はこりごりだ!」と逃げていった。日産がまったくフォローしなかったからだ。
電池性能はドンドン落ちていく。交換用の電池の供給もでたらめ。結果的に10年もすればゴミになってしまう。中古車相場が落ち、二束三文のリセールバリューになった。
アーリーアダプターから支持されなかった新しい技術、徹底的に評判落ちる傾向。日産が初代プリウスのような顧客満足度の高いアフターフォローをしていればずいぶんイメージ違ったことだろう。
■2)国が優遇策を設定していない
日本には「カンパニーカー」制度がないばかりでなく、国からの優遇策が少ない点もEVの普及を妨げていると筆者は主張する© ベストカー 提供
日本には「カンパニーカー」制度がないばかりでなく、国からの優遇策が少ない点もEVの普及を妨げていると筆者は主張する
欧州で電気自動車を買っている主体は「カンパニーカー」と呼ばれる社用車。日本の住宅手当と同じく、欧州の優良企業は通勤用にクルマを与える。欧州は電気自動車をカンパニーカーとして出している企業に対し、補助金を含めてさまざまな援助をしていると同時に、電気自動車をカンパニーカーとして導入していない企業に対するプレッシャーをかけている。
企業としては素直に電気自動車をカンパニーカーとしたほうが企業イメージを含めてすべての点でメリットが大きいという寸法。カンパニーカーとして電気自動車を出してもらった人も、高いガソリンを入れるより安価な電気のほうがありがたい。
ちなみに欧州では、「ふつうにクルマを買う人」は皆さん電気自動車を選んでいないのだった。スペインのようにカンパニーカー制度の少ない国も電気自動車は売れてない。
■3)性能のいいハイブリッド車が安い
トヨタのヤリスクロスハイブリッドモデルは欧州だと400万円以上だが、日本では229万5000円から買えてしまう© ベストカー 提供
トヨタのヤリスクロスハイブリッドモデルは欧州だと400万円以上だが、日本では229万5000円から買えてしまう
こらもう日本ならではの事情だ。そもそも日本はクルマが安い。欧州でヤリスクロスのハイブリッドを買うと405万円もするのだった。
ガソリンだって欧州はリッター300円するのに、日本170円。リッター20km/L走るハイブリッド車なら電気自動車より便利だし、リーズナブル。加えてハイブリッド車は安くて車種豊富。積極的に電気自動車を選ぶ気持ちにならない。
つまり、日本だと電気自動車は補助金を使っても高価かつリセールバリューが悪く、10年くらいでゴミになってしまう。それでいてアメリカのように朝晩の渋滞時は専用レーンを走れるなどの優遇策もなし。
決定的なのはハイブリッド車のほうが便利で総合コストも安いこと。そんな国で電気自動車を買おうという人は1.7%しかいないということです。
■国が真剣にEVの優遇策を打ち出すべし!
BYDのドルフィン。中国では政府からの補助金はなくなったが、ガソリン車購入に高いハードルが課されている© ベストカー 提供
BYDのドルフィン。中国では政府からの補助金はなくなったが、ガソリン車購入に高いハードルが課されている
カンパニーカー制度がなく、充電インフラも整わず(今でも羽田空港の200V普通充電器は5つしかない。外出先で充電したらハイブリッド車の燃費より割高な電気を買わされる)、かといって中国のようにガソリン車を買おうとすると200万円以上のナンバー取得料金を払わなければならないようなこともない我が国は普及の見込みなし。
とはいえ国際公約により2050年からガソリンが買えなくなることは決まっているし、それによって2030年代の半ばくらいからエンジン車を買う人はいなくなると思う。
遠からず日本も電気自動車に乗らなければならない時代はやってくることだろう。やがて国が真剣に優遇策を打ち出すに違いない。そうなったら電気自動車も普及すると考えます。