「人の意見を聞かない」「話がくどい」40代でも要注意、職場や家庭に増加する“マイルド老害”

「老害」とは周囲の人の意見を聞かず、迷惑をかける高齢者の振る舞いを指す。しかし、「たとえ40代、50代であっても、ちょっとでも自分の意見を押しつけたり、過去の小さな体験話をするなどすれば、老害認定されるケースも」と専門家。「最近の若い人は……」なんて言おうものなら一発アウトと心す、べし!

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40代後半から60代前半の「マイルド老害」

 電車で席を譲ろうとしたら、「老人扱いするな!」と怒鳴る。スーパーやコンビニのレジで「セルフレジなんてわからない」と店員に文句を言うなど。“キレる高齢者”の様子がSNSで拡散され、“老害”と呼ばれてしまうこともしばしば。

 自分は高齢者ではないし、むしろ老害に迷惑している側だと思っている高齢者手前の世代でも、すでに若者に“老害認定”され、いずれ本格的に老害化してしまうおそれがあると専門家は言う。

「老害とは、若者の活躍を邪魔する高齢者や、わがままな振る舞いで周囲に迷惑をかける高齢者を指します。が、20代から30代の若い世代からすれば、40代後半から60代前半であっても、地味に若者にイヤな思いをさせてしまっていたり、不必要な家事育児のアドバイスで相手を辟易させていれば老害予備軍として、周囲から疎まれている可能性が」

 と話すのは、老害問題に詳しい、日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さん。

「この40代後半から60代前半の老害予備軍は、いわば『マイルド老害』。人前で怒鳴る、理不尽な要求をするなど際立った行動はないが、じわじわと若者に煙たがられる言動をしてしまう。物事に対する考え方や価値観が、時代とズレてくると始まり、やがて身体の衰えが重なり、本格的な老害となる危険性があります。“今どきの若い子は……”が口癖の人は、マイルド老害に突入しているかもしれません」(安藤さん、以下同)

 老害になるのには、明確な要因があるという。

「老害は3つの因子によって引き起こされると考えています。その因子とは、自己顕示欲、執着、孤独感です」

 特に子育てや早期退職で、人生の役割を一つ終えた50代以降は、自己顕示欲や執着が目立ってくる年代だという。

「今までは会社や家族の役に立つことで満たされていた自己顕示欲が満たされなくなり、孤独を感じるようになる。また、『今まではこのやり方でうまくやってきた!』という経験に執着するようになり、新しい便利な道具や方法も受け入れられなくなってきます。

 すると、自己顕示欲を満たそうとおせっかいに拍車がかかったり、変化が受け止められず自分が正しいと思う子育ての方法を押しつける厄介な“マイルド老害”になってしまう」

 そこに体力的、認知機能の衰えが次第に重なることで「スムーズに動けない、頭が働かない」イライラが重なって爆発し、本格的な老害になってしまうのだ。

変わることを良いと思えないのがマイルド老害

 マイルド老害になりやすい人は、「変わることができない・変化が苦手」な人。

「変わることを良いと思えないのがマイルド老害。今の自分の価値観のまま生きていけたら、と思った瞬間から老害は始まっているのです」

 マイルド老害が厄介なのは、自分は変化に対応できていると信じて疑わないところ。

「マイルド老害世代は、ふつうの老害世代とは異なり、現役で働いている人も多いですから、新しい価値観に対して理解を示すことができていると思っている。しかし、それは思い込みで、実際のところ理解ができていないことが多い。

 いつも同じスーパーで買い物、同じテレビ番組を見て、同じ環境の人が集まるコミュニティーに参加、こうした行動をしている人は変わることが苦手、周囲からすでにマイルド老害認定されている可能性も」

 わかりやすい例は、職場のお局さまだ。

「“私が新入社員のときはこうだった、この方法でうまくやってきた”とマウントをとりたがるお局さま。年下に説教をしますが、本人は説教だという自覚がありません」

 自分は正しいと思い、他人からも正しいと思ってもらいたいという価値観の押しつけは、自己顕示欲の1つ。変化に対応できないのは、その強さが大きく影響している。

「“子どもは厳しくしつけないとダメよ”など、求められていないのに自分が行ってきた子育てを、子や子のパートナーに教えるのも自己顕示欲。“求められていない”というのがポイントで、いわゆる“おせっかい”もマイルド老害です。自分はおせっかい気質だと思う女性は、腫れ物扱いされるお局になる前に、早い年代から“兆候”が出ていると自制したほうがいい」

 また、「年末年始は家族全員集まらないとね」、「お彼岸はみんなでお墓参りに行きましょう」 と、子や子のパートナーに強要するのは、昭和の常識や世間体に執着しているがゆえに出てくる発言。

「反対されて引き下がれればいいのですが、悪気はなくとも自分の常識に従わせようとするのは要注意。昭和の世間体は、現代には無用です」

 では、そんなマイルド老害を予防・改善する方法とは?

「変化を受け止める練習をすることです。いつもの習慣やルーティンをしているだけよ……と思うかもしれませんが、それは“私の人生に変化はいらないし、譲らない!”という老害マインドが進んでいる証拠。気が乗らないかもしれませんが、小さなことから始めてみましょう。例えば、毎朝、違うテレビ番組を見るなど、日々の生活に小さな変化を入れるだけでも、脳が刺激されて柔軟な考え方を持つ訓練になります」

 いつもの友人との付き合いに固執せず、異なる価値観を持つ人が集まるコミュニティーに参加するのも効果的。

「若者や立場が異なる人たちの話を聞く、多様性を受け入れ知見を広げていくことも重要。凝り固まった考えが刺激され、老害化が防げます」

 ついつい、自分の話ばかりしてしまう人は……。

「説教、昔話、自慢話はNG。自分のことは話さない、人に自分の経験を教えない、といった日を週に1日つくって実行してみてください」

カスハラをする年代は、40代から60代が全体の8割を占める

 また、マイルド老害に拍車がかかると、若い店員などに対して執拗な言動や威圧的な態度でクレームを入れる、“カスハラ(カスタマーハラスメント)”をする人になってしまう危険も。

「ある調査で『カスハラをする年代は、40代から60代が全体の8割を占める』という結果が出ました。まさにマイルド老害世代で、男性のほうが圧倒的に多いです」

 出先でカスハラをする夫なんて見たくない……と思ったら、夫婦で一緒に老害化を防ぐ対策を試してみてほしい。

「マイルド老害」にならないためには?

・説教、昔話、自慢話はしない
・同じことばかりしない、
・思い切って変えてみる
・若者や違う立場の人の話を聞き、知見を広げる

取材・文・イラスト/ますみかん

安藤俊介さん 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。著書に『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)など他多数。

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