中国人の海外脱出が急増中!「潤」で日本移住→タワマン爆買い・インター入学する“新しい中国人”とは?

最近、街で中国人が増えたと思ったことはないだろうか?観光客ではなく、日本に住んでいる中国人だ。これは気のせいではなく、在留資格を得て日本に中長期滞在する中国人が増えている。さらに、中国人が増えているのは日本だけではない。今、続々と中国人が中国を出て海外へ移住しているのだ。どんな人たちが、どんな理由で中国を脱出しているのだろうか?(中国・ASEAN専門ジャーナリスト 舛友雄大)

中国人富裕層・知識人が、日本へ移住するケースが増えている

 ここ数年、従来とは違う、新しいタイプの中国人が日本へ移住するようになってきた。都内のタワーマンションを“爆買い”して話題になったり、インターナショナルスクールに子どもを入れたりと、中国人富裕層や、言論や表現の自由を求める知識人・文化人が、中国を離れ、日本に移り住むケースが増えてきているのだ。

 こうした経済的に余裕のある中国脱出組に特に人気なのが、外国人企業経営者向けの在留資格「経営・管理ビザ」だ。法務省が発表する在留外国人統計によると、日本でこのビザを保有する中国人は2022年6月に約1.4万人だったのが、2023年6月は約1.8万人になった。22%増というのは、これまでにない急な増え方である。

 経営・管理ビザは外国人が日本で起業するための在留資格を得られるビザだが、日経新聞などが昨年10月に「外国人の企業誘致へ要件緩和 出資金なしで2年滞在可能」と報じたように、2024年度にはさらに要件が緩和される見込みだ。そしてこのビザの取得者の約半数を、中国人が占めているのだ。

 中国人が海外へ移住する~これはいわゆる「潤(ルン)」と言われる動きで、今後ますます加速していくと思われる。さらにこれは世界的な現象で、中国人の脱出先は日本だけではない。今後、日本がこうした人々をどのように受け入れるのか考える上でも、世界の趨勢を把握することが不可欠だ。

「潤う」+「run(逃げる)」のダブルミーニング習近平時代に増え、2022年の上海ロックダウンが後押し

「潤」とは、先進国など、より豊かな国へ移住することだ。「潤」の字を中国の発音表記(ピンイン)で表記するとrunであることから、原義の「潤う」と英語のrun(逃げる)でダブルミーニングとなっており、お金を稼ぐ(潤う)ために海外で働くというだけでなく、国内の状況悪化に伴い海外へ逃げ出すというニュアンスがある。

 本格的に流行するようになったのは、2022年に中国随一の国際都市・上海で厳しいロックダウンが実施されて以降だ。さらに、中国政治の集権化、経済減速が鮮明になってきたこともこの動きを加速させる要素となっている。また、「潤学」という言葉もあり、こちらは「潤」の考え方を体系的に学んだり、具体的な方法を研究したりすることを意味する。

 そんな「潤」の実態が垣間見えるのが、「潤学綱領」という、「潤」を実践する有志によってまとめられたサイトだ。

「潤は中国人にとって唯一の真の宗教であり、唯一の真の哲学といえる。それは物理的な救済を信じる宗教であり、その実質的な価値は、精神的な救済を追求するキリスト教徒に匹敵するものである。潤の人たちはまだ潤していない人たちを助けることを喜びとし、彼らを現実の『地獄』から救う」とうたう。

 その上で、中国15億人(筆者注:中国政府発表の人口は14億人あまり)のうち、年収12万人民元(約244万円)超が1億人ほどおり、そのうち約1000万人が「情報封鎖」を突破し、外部ネットワークにアクセスする条件を備えており、さらにそこから200万人の特権階級や既得利益者を除く800万人が潜在的な「潤」だと推計する。

政治体制で変わる中国人の国外流出状況

 実際、中国人の国外流出が鮮明になってきていることは国連の統計からはっきり読み取れる。

 中国への移民から中国からの移民を引いた合計純移動数は、2012年にはいったんマイナス12万4641人まで縮小しており、つまり流出は縮小傾向にあった。だが、習近平時代が始まって以降、流出増の方向に転じた。国家主席の任期を5年×2期、10年を上限とする憲法の条文を削除する憲法改正を行なった2018年には、マイナス30万近くまで急増し、コロナ禍で上海ロックダウンが起きた2022年にはさらに増えてマイナス31万を記録。そして2023年は前年を上回るスピードで流出が続いた。まさに「中国人は足で投票している*」と言ってもいい状況になっているのだ。

*足で投票する…自分が住みたい政治体制や国家の方向性によって、国内外に出たり入ったりすること。

 中国脱出の動きは資産家階級でも加速している。投資移住コンサルティング会社ヘンリー&パートナーズは、2023年6月に公表したリポートで、2023年、中国の富裕層(100万米ドル超の投資可能資産を保有)の国外流出は1万3500人で世界最多になると予測した。

金持ちか、逆に貧しいか……「潤」をする人々にもヒエラルキーがある

 そんな「潤」の形態は多種多様だ。

 日本に移住してきたばかりのメディア関係者の郭さん(仮名)は、「日本には移民国家のイメージはないが、意外に入りやすい。ただ移民に関連する情報を希望者自身で収集するのは難しく、独自の情報源が必要だ」と語る。確かに、私が接触した多くの「潤」の人々は、移民コンサルやSNSの情報で糸口をつかんだ人が多かった。

 郭さんによると、「潤」する人にもヒエラルキーがあるという。大富豪は脱出する方法がさまざまあるが、最も悩みが多いのは、ある程度資産があり、かつ今後の現地社会での収入源を考えなければならない中流階級なのだそうだ。ヒエラルキーの最下層は逆に選択肢が限られており、“バックパック一つで出て“いけばいいので、悩む必要はないと解説する。

自分の足で歩いて中米数カ国を抜けアメリカへ入国する「走線」ルート

 その最下層が主に選ぶのが、「走線」と言われるルート。日本語では「徒歩でいくルート」といった意味になる。一番有名なのが中米から数カ国を経て、最終的にメキシコ国境からアメリカ入りするルートだ。今や、YouTubeやSNSで「走線」の経験をシェアする人も増えており、専門のコンサルさえ誕生している。

 BBC中文版は1年前に、この「走線」について詳報している。

 コロナがまだ猛威を振るっていた2021年夏にこの路線でアメリカへ脱出した、武漢出身で「90後(1990年代生まれ)」の楊金(正しい漢字は「金」が3つ)さんを取材した記事だ。もともとカメラマンで、コロナに関係する撮影をしていたところ、公安によって派出所に連行され、殴打されたことで脱出を決意したのだという。中米に渡った楊金さんが、一番つらかったと話すのは炎天下の密林地帯。雨にさらされたり、夜には気温が急に下がって寒くなったり、足には虫にかまれた痕が無数にできたり……と大変な困難の末にアメリカへ脱出した。アメリカで暮らすようになってからも配達員の仕事に就くなど苦労の絶えない楊さんだが、「ここに来たことを後悔していません。中国にいた方が後悔したでしょうね」と語っている。

 実際、米国税関・警備局によると、2023年1月~9月にかけて、米南西部国境から不法入国した中国籍の人々は2万4000人超おり、前年の11倍以上の急増となっている。

シンガポールやタイへ…東南アジアでも「潤」は増えている

 日本やアメリカだけではない。「潤」の動きとしてはシンガポールやタイへ移る動きも活発化している。

 シンガポールはコロナに関する入国規制をいち早く撤廃したこともあり、中国人の脱出先として注目を集めた。中国人が高級コンドミニアムなどを「爆買い」するケースが相次ぎ、現地で家賃上昇の一因ともなった。そんな中、シンガポール政府は2023年4月に、不動産を購入する際の印紙税を引き上げ、外国人に適用される税率は従来の2倍の60%とした。この政策が導入されて以降、中国人による「爆買い」はようやく一段落した。その他にも、中国からシンガポールへカネが流出する動きを反映して、超富裕層向けに投資や税務などを一括で取り扱うファミリーオフィスの数が2020年の約400社から2021年には約700社へと急増した。

 他にも、タイ北西部に位置するチェンマイには中国人知識人のコミュニティーが誕生しており、著名作家の野夫氏などが滞在している。また、タイ在住の中国人事情通によると、まず到着ビザでタイ入りし、その後トルコを経由して、脱出する方法が一時期確立していたものの、最近では「潤」と分かると搭乗拒否に遭うケースも出てきたとのことだ。

 去年東京に移住してきたばかりの40代の中国人男性は「トルコや小国のパスポートを買う人もいます。CRS(共通報告基準、加盟各国の徴税機関が相互に自国民の銀行口座の取引記録を閲覧できる制度)非加盟国だと脱税ができますし、コロナ期には自由に出入りできる安心感を求めてマルタなどで生活する人がいました」と話す。

 さらには、北朝鮮からの「脱北者」さながらの現象も起きるようになってきている。2023年8月、30代の中国人男性活動家が水上バイクで中国を脱出。山東省から黄海を隔て、320キロメートル離れた対岸の韓国・仁川の海岸にたどり着くという事件が起きた。

 ゼロコロナ政策が引き金となり、中国のあらゆる階層で、「海外で自由に動けるベースを確保する」ことが最重要課題となってきている。「潤」は世界各地で同時に起きている一大潮流なのだ。中国、そして世界各国の状況を踏まえつつ、日本はどのように彼ら彼女らと向き合うのか。本格的に議論すべき時がやってきているといえそうだ。

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