中国では再生可能エネルギー発電の急拡大に伴い、電力を一時的に蓄える「蓄電システム」が高度成長期を迎えている。ところが、蓄電システム業界の生産能力が需要を超えるペースで拡大し、早くも過当競争を引き起こしている。
「2023年に新たに運転を始めた『新型蓄電システム』の設備容量は、前年の4倍の46.6GWh(ギガワット時)に達した。また、2023年末時点で運転中の新型蓄電システムの総容量は74.5GWhと、前年の2.5倍超になった」
業界団体の中関村儲能産業技術連盟(儲能連盟)の副秘書長を務める岳芬氏は、1月8日に開催された業界向けフォーラムで2023年の状況をそう振り返った。
再エネ発電所に併設義務づけ
「新型蓄電システム」は、昔からある揚水式の蓄電システムを除いた蓄電技術の総称だ。電気化学蓄電、圧縮空気蓄電、溶融塩蓄電など複数の方式があるが、現在はリチウムイオン電池を用いた電気化学蓄電が主流になっている。
中国各地で進む太陽光発電所や風力発電所の建設プロジェクトでは、(再エネ発電の出力の不安定さを緩和するため)発電設備容量の5~20%に相当する蓄電システムの併設を地元政府が事実上義務づけている。このことが、蓄電システムの急速な需要拡大の背景だ。
そんな追い風が吹いているにもかかわらず、蓄電システム業界はすでに(供給過剰による)過当競争に突入している。「業界の生産能力拡大が急すぎて、競争の激化を招いた。資金力や技術力が足りない企業は生死の境目に追い詰められている」。前出の岳氏はそう指摘する。
蓄電システムの生産能力過剰は、各地のプロジェクトの競争入札で落札価格の急落を招いた。儲能連盟のデータによれば、2023年12月の平均落札価格は蓄電システムの設備容量1Wh当たり0.79元(約16円)と、1年前のほぼ半値に下落。大手電力会社が実施した競争入札では、1Wh当たり0.6元(約12円)未満で応札する業者も現れたという。
中国で新設される再エネ発電所には、蓄電システムの併設が事実上義務づけられている(写真は太陽光パネル大手、隆基緑能科技のウェブサイトより)
「1Wh当たり0.7元(約14円)を下回る応札は、どう見ても原価割れだ」。中国の大手電池メーカーで蓄電システム事業を担当する幹部は、財新記者の取材に対してそう顔をしかめた。
値下げ競争が体力奪う悪循環
儲能連盟の説明によれば、落札価格の大幅な低下は、一面ではリチウムイオン電池の原材料相場の急落に連動したものだ。電池用炭酸リチウムのスポット取引価格は2022年11月の1トン当たり約60万元(約1220万円)をピークに下落が続き、2023年末時点では同約10万元(約203万円)と6分の1になっている
本記事は「財新」の提供記事です
だが同時に、蓄電システムの需要拡大を当て込んで新規参入が増加したことも、値下げ競争の火に油を注いだ。一部の企業は安値応札で受注を確保しようと必死だが、利益を削れば技術力の向上や新製品開発に資金を回す余裕はなくなる。その先に待っているのは淘汰の道だ。