都内の高級寿司店と女性の間でのトラブルがSNS上で大きな話題を呼んでいる。そもそも、SNS上に無断で“他人の写真をさらす行為”に法的な問題はないのだろうか。
【女性が投稿した内容を見る】
険しい顔で身を乗り出す「大将の顔写真」を無断で投稿
大将に殴られかけたので共有します――。
1月20日、東京・南麻布の高級寿司店を訪れた女性がX(旧Twitter)に投稿した内容が話題となった。詳細は以下のようなものだ。
寿司店の大将が、客からもらった白ワインを女性の目の前に置いたところ、女性は「2日酔いで、目の前に白ワインがあると気持ち悪くなってしまうので反対側に置いていただけますか?」と、大将に頼んだ。しかし大将は「お客さまから頂いたものなので」と返し、不機嫌に。
雰囲気が悪くなり、女性は「こんなお寿司屋さん初めて」と口にしたところ、大将に殴られそうになった……というものだ。
この投稿には、険しい顔で身を乗り出す大将と、それを止めようとする弟子の姿を捉えた写真も一緒にアップされている。投稿は、23日時点で2.8億インプレッションを記録し、大きな反響を呼んだ。
この投稿に関して、SNSでは議論が勃発。
「勝手に他人をさらす行為をするのはまともではない」「このシチュエーションでスマホを向けているのはありえない」など、投稿主が無許可で大将の写真をさらしたことに関する批判の声が多数上がったが、「客に殴りかかるのはさすがにNG」といった声もあった。
また、投稿主の女性はラウンジ嬢で、過去に港区にいる男性への私見を述べる投稿などをしていたことから、「ラウンジ嬢」「港区女子」などのワードもトレンド入りした。
「勝手に顔写真をアップ」法的問題点は?
昨今、SNS上で他人の顔写真を勝手にアップする投稿が相次いでいる。これらの投稿はインプレッション稼ぎのユーザーによって拡散され、さらに大きな話題となることもある。
そもそもSNSに無断で“他人の写真をさらす行為”に法的な問題はないのだろうか。エンターテインメント系の法務に詳しい尾崎聖弥弁護士に聞いた。
尾崎弁護士「SNSに勝手に他人の写真を載せた場合には、肖像権侵害にあたります。ただし、撮影の目的や撮影した場所、その必要性などによっては、肖像権侵害とならない場合もあります。例えば、街中で撮った家族写真の背景に、偶然誰かが映ってしまったようなケースはSNSに写真を載せても問題ありません」
“映りこんでしまった”などのケースであれば、SNSにアップしても問題ないという。では、今回のように、明らかに大将を撮影したうえで、勝手にアップしたケースはどうか。
尾崎弁護士「犯罪現場での写真など、SNSにアップする必要性が十分に認められるならば問題ありません。しかし、自分から相手を挑発して違法行為を誘発したような場合や、実は冤罪(えんざい)であったような場合は論外であるということは言うまでもありません」
今回の寿司店の騒動では、女性が大将を挑発していたかのような情報も出てきている。いまだに真偽不明の状況だが、仮に女性がうそを言っている場合には、肖像権の侵害にあたる可能性があるようだ。
「私人逮捕」「世直し系」“正義感”で他人をさらすSNSユーザーたち
SNS上では「他人を勝手にアップする」行為が後を絶たない。その台頭となっているのが、「私人逮捕」「世直し系」と称し、YouTubeなどで活動する人たちだ。
「一緒に警察行きましょう!」
彼らは、自身の“正義”のもと、痴漢やチケット転売などの迷惑行為をした相手を突撃し、問い詰める様子を撮影。その動画をSNSで拡散している。
それらのほとんどは、真偽不明の情報である。にもかかわらず、さらされてしまった人は、SNS上に一生デジタルタトゥーとして残り続けるのだ。
「世直しのため」
「同じ被害にあわないために」
「皆さんに共有します」
聞こえのいい言葉とともに、あたかも“誰かのため”として、他人の顔写真をさらすSNSユーザーたち。
彼・彼女らは、一見すると被害者側の人間に見えることが多い。しかし安易に他人を“さらす”行為によって、自身が加害者側になる可能性があるということを心得る必要がある。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
取材協力:尾崎聖弥 プロフィール
第一東京弁護士会。エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク所属。企業に対するコンプライアンス研修などを担当している。
(文:毒島 サチコ)