熊本の半導体・経済安保拠点が一変 TSMCの出荷開始まで1年切る

熊本県に国内初工場を建設中の半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が生産を開始するまで1年を切った。建屋は完成し、生産設備の搬入が進む。周辺では関連企業の集積も加速し、従業員向け住宅は不足。政府が経済安全保障の重要拠点と位置付けた地域は一変した。

 2021年11月に熊本進出を表明したTSMC。2022年4月から24時間態勢の急ピッチ工事が始まり、東京ドーム4個分を超える菊陽町の約21ヘクタールのさら地は今、白い外壁やガラスで覆われた巨大な建物が存在感を放つ。運営子会社「JASM」の看板も目に付く。

 ソニーグループとデンソーも出資したJASMの投資額は約86億ドル(現在の為替レートで約1兆2千億円)で、このうち国が最大4760億円を助成。オフィス棟の一部は昨夏にオープンし、工場棟は2023年に完成した。1700人を雇用し、2024年末に製品を出荷する予定だ。担当者は「計画通り」と話す。

 熊本県企業立地課によると、TSMCの進出公表後、2023年11月末までに県と立地協定を結んで県内に新増設を決めた半導体関連企業は39社。JASMとは別に、新規雇用見込みは計1700人に上る。

 「事務員を含めてとにかく人が足りないので紹介してほしいとの相談が増えた」。肥後銀行(熊本市)半導体クラスター推進室の佐藤岳雄(さとう・たけお)室長は「サプライチェーン(供給網)企業の拠点整備の動きが活発化している」と語る。

 地元不動産大手コスギ不動産の小杉竜三(こすぎ・りゅうぞう)取締役は「11月だけで台湾企業から居住相談が100件以上寄せられた。対応できるのか」と不安顔だ。希望の部屋数も多くなり、本格的な人流増加や投資拡大を肌で感じるという。

 JASMでは台湾からの400人の出向者が働く計画で、その家族も合わせ約750人が順次来日している。台湾でレストランや結婚式場を展開する企業の幹部は2023年の年の瀬の12月27日、熊本市を訪れて空きテナントを見学。現地の食事や物産品を販売する「台湾タウン」を創設したいと意気込んだ。

 JASMは新卒初任給をメガバンクより高い最大28万円と設定し、人材獲得に奔走。24年春には約250人が入社予定だ。異例の好待遇は地元企業の賃金相場を押し上げ、他産業の人手不足に拍車をかける側面もある。

 TSMCは熊本県で第2工場の建設を検討中で、第3工場も取り沙汰されている。半導体生産には大量の水が欠かせず、周辺の豊かな地下水の減少や汚染に対する市民の懸念も根強い。経済安保の最前線拠点は劇的な変化に揺れている。

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