東京・池袋に出店している宮城県のアンテナショップ「宮城ふるさとプラザ」が来年2月に切れる賃貸借契約を更新せず、2024年度中に閉店することが決まった。県産品の販売や郷土料理の提供を通じ、2005年のオープン以来、同県のPRの役目を果たした18年を超す歴史に幕を下ろす。年間の支出は家賃など1億3000万円に上るのに対し、県が負担金として出店側から得る収入は1000万円にとどまり、毎年1億2000万円の支出過多になっているが、県は県産品の売り込み、情報発信などのメリットがあるとして存続させてきた。従来型の1店舗集中運営では社会情勢の変化にアジャストできないとして閉鎖の方針を固めた。
「急速な社会環境変化に対応した柔軟な事業展開を可能にすることが重要」。村井嘉浩知事は昨年12月の記者会見でアンテナショップの閉店理由をこう述べた。昨年1月から存廃議論を重ねた県の「首都圏アンテナショップ在り方検討懇話会」が、新型コロナウイルス感染症に伴う外出自粛などで消費動向が多様化し、実店舗販売の限界が見えたとして、閉鎖の方向性を打ち出した。県によると、これからはオンライン販売のほか、OMO(オンラインとオフラインを融合させるマーケティング)にシフトするという。徳島県がコンビニエンスストア大手のローソンの商品棚を借りて県産品を販売する取り組みに見られるような「ショップ・イン・ショップ」も検討している。
県は収支の不均衡を閉店理由にしていない。村井知事が会見で「(収支の)差額を別のほうに振り向けることでもっと大きな効果が出る」と触れた程度にとどまる。22年限りで東京のアンテナショップを閉じた群馬県が「売上、来店者とも減少しているのに対し、維持管理費などの負担が増している」とシンプルに費用対効果を挙げているのと好対照で、閉店理由としては群馬のほうが明らかにわかりやすい。
宮城ふれあいプラザの運営を受託している宮城県物産振興協会によると、店舗のこれまでの売上は80億円。22年度も5億1000万円と、コロナ禍の一時的な落ち込みを乗り越え、コロナ前の水準に回復した。来店者も延べ1260万人に上り、22年度も63万人と好調だ。売上、来店者とも比較的順調に推移していることから、閉店を惜しむ声は少なくなく、仙台市出身のお笑いコンビのサンドウィッチマンの伊達みきおさん(49)も昨年12月のニッポン放送のラジオ番組で「俺の中では大ニュース。ショックだよ。オンラインで買えるからいいとか、そういうもんじゃない。天下の宮城がアンテナショップがないのは駄目ですよ」と訴えた。その上で「村井知事、聴いてるかな。誰もやんねえなら、俺やろうかな」と運営に名乗りを上げた。これを聞いた村井知事は「もしやっていただけたらすごいこと。お金以外の支援は全力でさせていただきたい」と返している。同協会も伊達さんの発言を「すごい応援」と歓迎。「後継の店舗を開設できないかと検討している」と運営継続の道を模索し、存続に向けて一縷(いちる)の望みが残されている。
地方の自治体のアンテナショップ出店を支援している地域活性化センター(東京)によると、東京都内に独立店を構える自治体は36道府県、26市区町村の計62店。出店先は銀座や有楽町、八重洲など東京駅周辺に集中している。担当者の話では、出退店の動向はコロナ禍で一時休店する所があったが、コロナ禍の落ち着きとともに営業を再開する動きが出ているという。
アンテナショップ出店の効果
宮城県や群馬県のアンテナショップ経営の収支は実質的には赤字だったとみられるが、それでも自治体が税金を投入して都市部でアンテナショップを運営するのは、どのような目的からなのか。国学院大学観光まちづくり学部教授の井門隆夫氏はいう。
「自治体がアンテナショップを運営する目的は利益を出すことではなく、地元への観光客の誘客、ショップに出品した地元企業・店舗への誘客、ブランド力の向上など、自治体によってさまざまです。最近では、来店をきっかけに『ふるさと納税』の納税先に選んでもらうことや、SNSを通じたコミュニケーションづくりを通じて自治体のファンを増やすというのも目的の一つになり得るかもしれません。出店の意図がわかりやすい例としては、高知県が銀座に出店しているレストランがあげられます。『かつおのたたき』など多彩な高知の特産物を食べることができ、来店したお客に『本場で食べてみたい』と思ってもらうことで観光で足を運んでもらおうという明確な意図を持っているように感じます。
自治体側としては、ショップに来店してくれたお客がその後、どのような行動をして、どのような効果をもたらしてくれたのかを定点観測・効果測定して、今後の観光客誘客や地元の活性化に活かしていきたいという考えもあるでしょう」
アンテナショップの出店場所にも、各自治体の狙いが透けて見えるという。
「宮城県が出店していた池袋は若者が多く、埼玉県在住者の流入も多いため、それほど年収が高くない若者層への訴求を狙っていたと考えられます。一方、銀座や日本橋は比較的年収が高めのシニア層が多く、コロナ禍が明けた後にすぐに旅行などをしやすい層なので、こうしたエリアにショップを持つ自治体は、一定の効果を得られた可能性もあるでしょう。一方、東京のアンテナショップを閉店した群馬県は、東京に近く同じ関東エリアなので、新規顧客獲得という意味では出店の効果は薄い。これが大阪など離れた都市への出店であれば、より効果が出たかもしれません」(井門氏)
ではアンテナショップ出店の実際の効果はどうなのか。
「自治体にとって、地元の郷土性を人々へアピールできるアンテナショップのような場所が都市部に『あったほうがよい』のは確かですが、自治体が県民から集めた税金を使ってまでやる必要があるのかというのは議論が必要でしょう。民間企業が主体的に取り組んだほうが、より合理的に行えるのではないでしょうか」(井門氏)
(文=Business Journal編集部、協力=井門隆夫/国学院大学教授)
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