ラジオ離れとコスト増で民放ラジオのFM転換進む 東日本3局が一部AM送信所を休止

AMラジオ放送局でリスナー(聴取者)が減少し、経営が厳しくなる中、放送をコスト負担が重いAM(中波放送)から、比較的負担が軽いFM(超短波放送)へ転換する動きが進んでいる。令和3年、全国の民放AMラジオ47局のうち44局が10年までにFM局への転換を目指すと発表。総務省はこの動きに対応した特例措置を用意し、東日本からは岩手放送、茨城放送、新潟放送の3局が適用に名乗りを上げた。その舞台裏を探った。(本田賢一、三浦馨、石田征広)

AM放送を休止

特例措置は、FMへの転換などを視野に入れるAMラジオ事業者を対象に2月から最長来年1月末まで、AM放送を休止できるというもの。適用を受けた放送局は休止の影響を検証し、同省に報告する。

新潟放送(BSN、新潟市)は2月5日から9月1日まで、長岡、柏崎両市にあるAMラジオ送信所(中継局)の運用を休止。休止エリアの放送は、新潟市内にある基幹のAM送信所(親局)とFM送信所の電波でカバー。エリア内の99%強が休止後も放送を聞くことができる。

新潟放送の局舎=新潟市中央区(本田賢一撮影)
新潟放送の局舎=新潟市中央区(本田賢一撮影)

FMで聞く場合、高い周波数(90~94・9メガヘルツ)に対応したラジオが必要だ。

厳しい経営環境

BSNを含めた全国のAMラジオ事業者13社が特例措置の適用を受ける背景には、大きく2つの要因がある。若い世代を中心にラジオ離れが進み、特にAMラジオが経営的に厳しい状態にあることが一つ。もう一つは、AMは電波の特性からFMに比べ、コスト負担が大きいことだ。

BSNの樋ノ浦重嗣技術部長は「業界全体でラジオ離れが進み、当社もラジオ単体でみた場合、10年間でかなり売り上げが落ちている」と明かす。

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苦境の元凶ともいえるラジオ離れについて、樋ノ浦氏は「コアなファンが少なくなった気がする。ラジオを聞いているタクシーやトラックのドライバーも減った印象がある」と明かす。

BSNは「2028(令和10)年までにFMがメインのラジオ局を目指す」としている。

FMへの全面移行も視野

茨城県で唯一の民間放送局である茨城放送(水戸市)は、土浦局と県西中継局(筑西市)の2つのAM中継局を2月1日から休止。35市町村が放送エリアだが、同社は、「既存のFM水戸局とつくば局でエリアをほぼ全部カバーできる」とする。

リスナーは50代が35%、40代と60代が各25%と中高年中心。会社員が半数を占め、車で移動の多い県内事情から、約6割が自動車で聴いているという。

休止については放送内や関係市町村の広報紙などで告知。反響や意見は特に寄せられていないという。

同社幹部は「AMの施設更新には莫大な費用がかかる。設備の初期投資や維持管理費も安いFMに転換せざるを得ない」と話す。

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2つの中継局は来年1月末までの休止を予定。残るAM水戸局に関して、同社は「総務省が次の放送免許更新(令和10年)までに再び特例措置を実施すれば、運用休止を検討する」と全面的なFM移行も視野に入れている。

受信に問題なし

岩手放送(IBC、盛岡市)では、田野畑村にあるAMの田野畑ラジオ中継局を2月1日から来年1月31日まで休止する。

同中継局は、野田村、普代村、田野畑村、岩泉町の小本地区、宮古市北部の一部をカバー。田野畑村が難聴対策で整備した鉄塔やアンテナ、局舎をIBCとNHKが運用してきた。

同村内には、テレビの難視聴対策で同村が整備した施設をNHKと岩手放送を含む民放4局が利用している中継局があり、IBCはここにリスナーの代替受信手段となる田野畑FM中継局を昨年11月に開局している。

休止するAMの田野畑中継局の代替受信手段として、昨年11月に岩手放送(IBC)が開局したFM中継局=岩手県田野畑村(IBC提供)
休止するAMの田野畑中継局の代替受信手段として、昨年11月に岩手放送(IBC)が開局したFM中継局=岩手県田野畑村(IBC提供)

AMの田野畑ラジオ中継局については、将来の廃局も視野に入れている。IBCの若林高行メディアセンター長は「局員の現地調査では従来の受信エリアで難聴の問題はなかった。問い合わせがあれば詳細に調査する」としている。

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