奥能登の奇岩「窓岩」、変わり果てた姿に 地震で崩れ、穴なくなる

石川県輪島市町野町の曽々木(そそぎ)海岸にある景勝地「窓岩」が能登半島地震の影響で崩落している。板状の岩山の真ん中に直径約2メートルの穴が開いた奇岩で、日本海に沈む夕日が岩穴に収まる瞬間の絶景が見られる。奥能登の観光名所として知られるが、地震で岩の上部が崩れ、岩穴も姿を消した。 【写真】日本海に浮かぶ「ゴジラ岩」も陸続きに 能登地震で地盤が隆起か  「まだぼうぜんとしていて理解できない」  曽々木海岸の目の前に住む堀井利治さん(76)は、変わり果てた窓岩の姿に肩を落とした。  2006年春、京都市から45年ぶりに生まれ育った曽々木に戻り、自宅を改装して喫茶店を開いた。店内からもガラス越しに窓岩が眺められる設計にした。  「(窓岩は)曽々木のシンボルでもあり、自慢でもあり、誇りでもある。すべてだった」  子どもの頃は、弟の正行さん(74)と岩の上に登って遊んだり、近くの岩場に潜ってサザエやアワビを捕ったりした。京都に移り住んでも、帰省するたびにホームビデオで窓岩を撮り続けた。故郷に戻ってからは、夕日が岩穴と重なる時期(9月中旬~3月中旬)は、外出などの用事を入れずに欠かさず撮影してきた。地震2日前の12月30日にも、神秘的な瞬間を映像に収めたばかりだった。  元日の地震は、近所の寺で初詣を終えて帰宅した直後だった。経験したことのない激しい揺れが襲い、外の方が安全だと思い、家を飛び出した。真っ先に目に入ったのが、崩落した窓岩だった。  「えらいこっちゃ。だけど今の状況も撮って残そう」  瞬間的にそう思い、家の中に戻ってビデオカメラを手にし、いつもの場所から撮影を始めた。25秒間だけ回した後、近所に声をかけながら高台に避難した。  近くの避難所に身を寄せている間は曇天が続いたが、4日になると天候が回復。  「今日は晴れてるな。夕日が見られるぞ」  一時帰宅して再びビデオカメラを持ち出すと、夕日が落ちるのを待った。  崩れていても、本来の岩穴の位置は分かっている。  「どんな感じで入るんやろう?」  やがて、崩れた岩と土台の岩の隙間から夕日が差し込んできた。岩穴から黄金色の光が広がって、窓岩がシルエットで浮かび上がる、いつもの神秘的な光景ではなかった。  「これが現実だ。受け入れなければ」。そう自分に言い聞かせた。  曽々木海岸でも地震で地盤が隆起し、水深4~5メートルだった場所はいま、海面にむき出しになっている。窓岩の周りも、かつて海中にあった部分が海面に顔を出し白っぽくなっている。  町野町内では17人(27日現在)が亡くなったというが、曽々木では犠牲者がひとりも出なかった。  「曽々木の人にとって、窓岩は家族のようなもの。身代わりになって守ってくれたんや」  正行さんはそう受け止めるようにしている。(上田潤)

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