新築マンションの値引きはどれくらい可能なのでしょうか。コロナから始まった新築マンション価格の高値は、新築マンションの供給減少や地価の上昇、円安と原料価格の高騰などを背景に依然として継続中。買い手としては厳しい環境です。そこで主要なデベロッパー(住友不動産、三井不動産など)の懐具合をあらわにしながら、どのくらい値引き交渉にのってくれるのかを明らかにしていきます。(住宅ローン・不動産ブロガー、千日太郎) 住友不動産のマンションは、なぜ販売戸数トップなのか?
高騰続く新築マンションを値引きしてもらうには?
今年のトピックとしては植田日銀の大規模金融緩和の正常化でしょう。マイナス金利政策が解除されると、変動金利は上昇していくことが予想されます。 これから新築マンションを購入する我々としては、高づかみしないようにしなければなりません。そこで重要になってくるのが値引き交渉ですが、引き続き不動産会社の売り手市場が続いています。 しかし、それでも値引きしてもらって買う人が一定数いることは確かです。そこで新築マンションの主要なデベロッパーの懐具合から、値引きにどのくらい対応してくれそうなのか、会社ごとに2024年の値引き交渉の傾向と対策を考えてみましょう。
新築マンションの実勢価格はピークを過ぎたか?
統計の表面的な数値では依然として価格高騰が続いているように見えますが、潜在的には2022年からピークを過ぎてきています。 あくまで私見ですが、本来であれば2023年から販売価格が下がってくることを見越して、デベロッパーは販売戸数をあえて絞ることで人為的に品薄感を作り、価格の低下を遅らせていると見ています。 不動産経済研究所の発表によると、2022年の新築マンションの販売価格は前年比0.1%(㎡単価では1.1%)の上昇とほぼ横ばい。首都圏では東京23区で0.7%減、近畿圏では大阪府で1.6%減、兵庫県で1.7%減となっています。 価格は微増ですが、販売戸数は首都圏で前年比12.1%減、近畿圏で5.8%減と明らかに減っています。 そして、2023年1月~6月の上半期では首都圏の新築マンションで、平均価格 8,873万円、㎡単価132.1万円と最高値を大幅に更新したことが話題となりました。 しかし、勘ぐって見ますと供給戸数は前年同期比17.4%減と絞られており、東京 23区のシェアが46.7%と高水準となったことも平均価格を押し上げているため、ある程度意図して作られた価格水準のように見えます。 加えて、冒頭で述べたマイナス金利政策の解除も新築マンションの価格に影響します。住宅価格は土地開発と建築コストの積み上げで際限なく上がるわけではありません。 住宅を購入する一般消費者がいくら払えるのか?がキャップとなるわけです。住宅ローンの金利が上がれば住宅購入者の融資上限が下がるため、住宅価格には下方圧力がかかることになります。
新築マンション販売戸数上位ランキング(全国、首都圏、近畿圏)
まず、新築マンションの販売戸数の上位にどんな会社が名を連ねているのか見てみましょう。不動産流通推進センターの統計調査結果から過去3年間(2020年度から2022年度)で常に上位20位以内に入っているマンションデベロッパーの平均販売戸数で順位を付けました。(図表1) 図表1のランキングにおいて、トップ3は長らく旧財閥系で占めていたのですが、新興のプレサンスコーポレーションが2019年から急伸。2022年から2年連続でトップとなっています。 次に首都圏をみてみてみましょう。 首都圏ランキングには、プレサンスコーポレーションは入っていません。首都圏では、まだ旧財閥系が強いですね。マンションは用地取得が重要となってくるため、なかなか首都圏で新興企業が食い込むのは難しいようです。 最後に近畿圏のランキングです。 近畿圏は、全国とガラっと変わります。全国ランキングで1位のプレサンスコーポレーションは近畿圏で大半の物件を販売しているということです。2位から下はエスリード、関電不動産開発、日本エスコン、阪急阪神不動産、和田興産、日商エステム、近鉄不動産となっており、全国ランキング、首都圏ランキングに出てこなかった会社です。関西の地場で強い業者ということです。
各社の値引き傾向は、「販売用不動産÷分譲売上高」で丸裸になる
これらランキング上位の会社の「値引き傾向」を反映するもの、それは決算書の数字です。「分譲売上高」(※1)と「販売用不動産」(※2)に注目します。 (※1)「分譲売上高」は文字通り、売上高です。マンションが完成して、購入者に鍵を引き渡した時点で計上されます (※2)「販売用不動産」は在庫です。完成して、まだ売れていないマンションの原価が計上されます このルールは全ての会社に共通のルール(会計基準)です。つまりこういうことが言えるのです ・「販売用不動産÷分譲売上高」が高い ⇒ 売上高に対して多くの在庫を抱えている ・「販売用不動産÷分譲売上高」が低い ⇒ 売上高に対して少しの在庫しか持たない そこで、マンション販売戸数上位ランキング上位の会社を、「販売用不動産÷分譲売上高」を横串で比較してみましょう。 同じような大手の不動産会社であってもその会社よって全然違うということが見えてきます。 そして、その会社ごとにみると、年度によってそれほど大きな動きはありません。つまり、当該会社の営業方針が如実に表れているのです。 ここで上図の見方をご説明しましょう。実は、在庫が多いマンションデベロッパーほど売り急がない傾向があります。 かつては「在庫」は悪ととらえられていました。在庫が膨らめばそれだけ金利の支払いも多くなり、財務を圧迫するからです。 しかし、2008年の不動産バブル崩壊により、財務状態が悪いデベロッパーはほとんど破綻してしまい、現在は財務状態が良好なデベロッパーだけが残っているという状況です。こうなると、売り急ぐ必要がなくなり、完成後もじっくりと販売していくデベロッパーが増えています。 一方で、在庫はほとんど持たないというデベロッパーも存在します。在庫を持たない方針を明確にしているデベロッパーは、期末に売れ残り物件があれば、比較的容易に値引きに応じます。
デベロッパー別の値引き交渉の傾向と対策
そこで、2024年における、デベロッパーごとの値引きの難易度をS、A、Bの3つにランク分けしてみました。参考にしてみてください。 図表5 デベロッパーごとの値引き難易度【2024年版】 それぞれのデベロッパーごとに、どんな販売方針を持っているデベロッパーで、2024年にはどの程度、値引き交渉の余地があるのか、ワンポイントアドバイスを書きましょう。 住友不動産 値下げしなくても売れる 新興のプレサンスコーポレーションが台頭してくるまでは、旧財閥系のトップ4社の中で長くトップを維持してきたのが住友不動産です。最近は販売戸数の順位がダウンして4位に甘んじており、売上に対する在庫の割合は3期連続で増加してきています。売れずに困っているのでしょうか? いいえ、その反対です。特に住友不動産が大型のタワーマンションを販売する場合は、売上高を平準化させるために完成後から数期に分けて販売する方式をとっています。 完成在庫をあえて持ち、数期間に分けて販売していることが理由です。供給を絞ることで価格を高く維持する戦略は住友不動産のお家芸であり、最近は他の大手デベロッパーにも広がってきています。 野村不動産 大幅な増収増益、完成在庫も減少傾向のため売り急ぎはない 2023年第2四半期の決算短信では、住宅部門の売上高は17.5%の大幅増加、事業利益も64.7%増と、大幅な減収増益となっています。完成在庫割合も減少傾向にあり、契約進捗率は中間期で91.6%とかなり順調なので、売り急ぐことはないでしょう。 三井不動産 業績過去最高で売り急ぎはない 2023年第2四半期の分譲事業の営業利益は33.4%の大幅増加となっており、売上高、営業利益、経常利益、四半期純利益はいずれも第2四半期(累計)における過去最高を更新しています。 完成在庫の割合は増加傾向となっていますが、これは冒頭で述べているように供給を絞ることで価格を高く維持する戦略と考えられます。売り急ぐことは無いでしょう。 三菱地所 決算前の3月までが狙い目 三菱地所は、基本的に完成在庫を嫌うタイプの会社ですので決算前には値引きを期待できます。上期の住宅事業は3期連続で減収減益となっています。前年同期比で売上戸数が減少しているためです。 通期経常予定の売上の96.7%が契約済みとのことですが、未達であり、他のデベロッパーが売上を伸ばす中で比較的低迷していると言えます。完成済み物件に的を絞って決算月の直前(2月まで)を狙って値引き交渉することをお勧めします。 プレサンスコーポレーション 完成物件は値引きする可能性あり 近畿圏(関西)でトップのプレサンスコーポレーションについては、ここ数年で販売戸数を急激に伸ばしており、とうとう全国でも1位となりました。 売上は増加傾向で在庫は横ばい減少傾向にあります。もとから完成在庫を持たない傾向の強い会社ですから、あえて供給を絞って価格を維持する戦略は採っていないと見ています。完成物件については値引きの可能性は比較的高いと言えるでしょう。 大和ハウス工業 増収増益で値引き難易度は高め 大和ハウス工業は、タイプとしては住友不動産に近いタイプで、値引きが困難な部類に入ります。さらに2023年第2四半期のマンション事業は売上高で25.1%増の増収、営業利益で84.1%増の大幅な増益となっています。 売り上げ以上に完成在庫が増えているのですが、これは冒頭で述べているように供給を絞ることで価格を高く維持する戦略と考えられます。売り急ぐことはないでしょう。 東急不動産 完成在庫は値引きを期待できる 住宅分譲では、分譲マンションの計上戸数減少により住宅分譲売上高は前第2四半期574億円から当第2四半期は160億円に減少しています。通期予想は902億円ですが、前期の955億円を下回る見込みとなっています。 売上の減少以上に完成在庫が減少傾向となっており、価格維持のためにあえて供給を絞るというよりは、完成在庫を早く完売したいという傾向が見て取れます。完成在庫については値引きを期待できるでしょう。 タカラレーベン 値引き対象となる完成在庫は残っていなさそう タカラレーベンは、基本的に完成在庫を持ちたくないタイプの会社です。2023年上半期の不動産販売事業の売上高は前年同期比で減少していますが、竣工戸数が下半期に偏っているためであり、通期では増収増益を予定しています。 契約進捗率も91.9%と順調です。値引き対象となるような、完成在庫はあまり残っていないと思います。 あなぶき興産 販売好調であり値引きに応じない あなぶき興産も、基本的に完成在庫を持ちたくないタイプの会社ですが、新築マンション事業においては売り上げ増となっており、2024年6月期の第一四半期では通期販売戸数1,947戸のうち未契約住戸は198戸となっています。 前年同期の未契約住戸は90戸でしたので、販売速度は若干鈍化しているとはいえ、好調であり、値引きに応じる可能性は低いでしょう。 エスリード 販売好調であり値引きの難易度が上昇中 エスリードは、ほぼ近畿圏(関西)のみでマンションを販売している会社で、近畿圏ではプレサンスコーポレーションに次ぐ2位です。 2023年上半期の売上は前年同期比で48.7%増、利益は201.8%増となっています。売上増加率より利益の増加率の方が大きいということは、値引きせずに売り上げを増やせているということです。値引きの難易度は高いでしょう。 一建設 大和地所 明和地所 新日本建設 積極的に値引き交渉したい これらは首都圏を中心として戸建てとマンションを供給している会社です。一建設は売り上げに対して多額の在庫を抱えています。旧財閥系のように、高いブランド戦略をとって供給を絞っているとは考えにくいので、売却が進んでいないためと考えられます。 セオリーとして滞留在庫を減らしていかなければならない財務状態であることは確かです。 大和地所、明和地所、新日本建設は3年間の平均しても在庫の割合が少ないです。これは方針として完成在庫を持たず、完成が近づいたら値引き販売していることを意味します。売り出しから随時交渉していくべきでしょう。 和田興産 2月決算に向けて滞留在庫を値引きで売る可能性あり 和田興産は、近畿圏(関西)でマンションを販売している会社です。基本的に完成在庫を持ちたくないタイプですので決算月まで待つことなく、物件の完成月までにはほとんどの部屋を売り切りますので、随時値引き交渉をすべき会社です。 第2四半期の分譲マンション販売は前年同期比でほぼ横ばいとなっていますが、完成在庫は前年同期比で27.3%増となっています。おそらく滞留在庫が増加している状況ですので、2月の決算に向けて値引きが期待できます。 阪急阪神不動産 高いブランドイメージに加え販売好調につき値引き交渉は難しい 阪急阪神グループは関西では絶大なブランドイメージを誇ります。電鉄系のデベロッパーの特徴として、鉄道というインフラ事業から安定的な資金が供給されるので、在庫を抱え続ける資金力もあります。 ここ3年は右肩上がりに販売戸数と売り上げを伸ばしています。基本的に値引き交渉は難しい部類ですが、物件によっては数百万円の値引きをしてもらえたという情報もあります。
『早くしないと売れてしまいますよ!』~この心理戦に勝つ方法
新築マンション価格はバブル期並みに高騰していますが、そろそろピークを過ぎてきた兆候が見えてきました。しかし売り手としては、下がる前にできるだけ高く売り抜けなければいけないためそんなそぶりは一切見せないはずです。営業マンにこんな風に言われて背中を押される人は多いです。 営業マン 「早くしないと売れてしまいますよ」 確かに売れてしまう可能性もありますが、過度に焦ったり迷ったりすれば誤算を誘発します。こんなはずじゃなかった…。そんな失敗をしないためには、一度立ち止まって視野を広く持ち、またいろいろな角度から見る必要があります。 そして、こうして決算から見ると全ての不動産会社が好調というわけでもないことが見えてくるかと思います。交渉するうえで参考にしてくださいね。