レンタルをなくして「場所貸し業へ変わったのか」と落胆も多い渋谷TSUTAYA、じつは”復活の序章”になる可能性も?

渋谷TSUTAYAのリニューアル案が波紋を呼んでいる。  渋谷TSUTAYAは、今年4月のリニューアルを目指して昨年10月から休業していた。渋谷スクランブル交差点の正面にあって人の出入りも多く、TSUTAYAの旗艦店の一つであるだけに、その動向を注視する人も多い。 【画像・写真で見る】SHIBUYA TSUTAYAのリニューアル後の概要と現在の建物の様子  そんなTSUTAYAのリニューアル案。どんなものだったかというと、基本的には「IP」、つまり漫画やキャラクター、デザインなどの知的財産に関係するショップを展開する「スペース貸し業」のようになるらしい。

 近年では、キャラクターのコラボカフェや、期間限定のポップアップストアが流行っているが、そうしたショップを多く並べることができる空間になるのだ。  また、全館で約500席を有するカフェ&ラウンジも併設され、今までの「レンタルビデオ屋」としてのTSUTAYAから大きな変貌を遂げようとしている。  このTSUTAYAの大規模リニューアルについて、今回は、運営元であるCCCの歴史や企業理念を踏まえて解説したい。

■レンタルビデオ店としてのTSUTAYAを惜しむ声も多いが…  こうした大胆なリニューアルについては、多くの意見がある。中でも多いのが、かつてのレンタルビデオショップとしてのTSUTAYAを懐かしむ声だ。  リニューアル前の渋谷TSUTAYAの大きな見どころが、館内にぎっしりと詰まった豊富なレンタルCD・DVD。中でも、VHSは他店では手に入らないマニアックなタイトルも揃えていて、多くの映画ファンに愛されている場所でもあった。

 しかも、このことはTSUTAYA側も意識していたらしく、2020~2021年時のリニューアルでは、「日本最大級の映画ミュージアム」と称して20万本の旧作を取り揃え、さらにVHSだけのコーナーを新設したのだ。それだけに、映画ファンからしてみると、このたびの再リニューアルは「ハシゴを外された!」と思ったに違いない。 また、「ヴィレッジヴァンガード」の業績不振が話題となり、ブックオフが「本」に限らない総合リサイクルストアへと変貌を遂げつつあるいま、「TSUTAYA」「ヴィレヴァン」「ブックオフ」という「平成カルチャーチェーン三銃士」の凋落を嘆く声も相まって、このリニューアルはどことなく悲観的に受け止められている。

■同社のミッションはカルチュア・インフラを作ること  しかし、である。  私は、今回のリニューアル案を肯定的に語りたい。なぜ、私が今回のリニューアルを肯定的に捉えるのか、それは「TSUTAYAが『カルチュア・インフラ』という、創業からの企業理念を明確に意識している」と思ったからだ。  どういうことか、TSUTAYAの歴史を探りながら解説したい。  もともとTSUTAYAは、創業者の増田宗昭が大阪・枚方に作った店が始まりである。1980年代に誕生したこの店は、本だけではなく、CDやDVDなども同時に扱い、まさに「カルチャー」をその商材とした。当時、ジャンルを越境してコンテンツを扱う店は少なく、1号店は大きな評判を博す。

 創業者である増田宗昭は、その著書のなかで、繰り返し「CCCの存在意義は『カルチュア・インフラ』を作ることである」と述べている。ガスや水道と同じように、文化を地方・郊外まで全国に広げていくことがその存在意義だというわけだ。  実はこの「カルチュア・インフラ」という言葉、今回の渋谷TSUTAYAリニューアルでも顔をのぞかせている。新しい渋谷TSUTAYAのロゴについての説明だ。 このロゴは、[…]これまでにない新しい「カルチュア・インフラ」をつくっていくことをイメージしています。

 増田やCCCにとって、この言葉が持つ重要性がわかるだろう。今回の渋谷TSUTAYAのリニューアルでは、この「カルチュア・インフラ」が一歩進んだ形で提示されたと私は考えているのだ。そのことを考えるためには、これまで、「カルチュア・インフラ」がCCCによってどのように体現されてきたのかを見ていく必要がある。 ■インフラ機能をサブスクに奪われて  現在TSUTAYAを運営しているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)は1985年に誕生し、レンタルビデオ事業「TSUTAYA」のフランチャイズ本部として設立された。

 現在CCCは「蔦屋書店」や「蔦屋家具」など多種多様な事業を行っているが、まず第一に思い浮かぶのがレンタルビデオショップとしての姿だろう。  実際、TSUTAYAはレンタルビデオショップとして、全国にその店舗を広げてきた。一時期は1000店舗を超える店舗数を誇っていた。北は北海道、南は沖縄まで、郊外のロードサイドで「TSUTAYA」という、でかでかとした看板を見かけたことがある人も多いと思うし、読者の中には「TSUTAYA」に行って、DVD5枚で1000円のDVDで何を選ぶのか、日が暮れるぐらいまで考えた人もいるかもしれない(筆者もその一人だ)。

 明らかに、TSUTAYAはある段階において全国に「カルチャー」を届けた。そして、それはまさに「インフラ」のようであった。  しかし、そんなTSUTAYAに、もっと強大な「カルチュア・インフラ」が現れる。インターネットと、そこで展開する各種サブスクサービスだ。CDやDVDを通して音楽や映画を全国に広めるのがTSUTAYAの「インフラ」整備だとしたら、私たちはネットで少し検索すれば、全国どこにいても好きな音楽や映画をその場で見ることができるようになった。

 いわば、本物の「インフラ」が開通したのである。  そして、これがTSUTAYAに大打撃を与える。すでに多くのニュースで報じられているように、近年TSUTAYAの数は急激に減少し、最大手のフランチャイジーであった株式会社トップカルチャーが、レンタル事業から撤退するという動きも起こっている。 ■CCCの次なる変化は、企業ミッションに沿っている  では、新しい「カルチュア・インフラ」のカギはどこにあるか。TSUTAYAはそれを「文化を通じて交流できる場所」を作ることに求めているようだ。そこで、今回のTSUTAYA渋谷にやっと辿り着く。

 TSUTAYAの強みは、リアルな空間を持っている、ということだ。これまではそのリアルな空間にコンテンツを並べ、それを全国に広げることが「カルチュア・インフラ」を作ることだったが、その役割がサブスクサービスに取って代わられるいま、企業のミッションを改めて見つめ直し、「リアルな場所」における新しい「カルチュア・インフラ」のあり方を模索したのが、今回のリニューアルだと私は思う。  具体的には、こういうことだ。今回メディアに発表された概要では、「5階・6階・7階の3フロアは、[…]コンテンツのファン同士がつながっていけるラウンジや書店、カフェを展開いたします」とある。

 「ファン同士がつながっていける」というのが重要だ。近年、「推し」カルチャーが全盛だが、この流れを受けて、キャラクターカフェやポップアップショップ、また、アイドルによるインストアイベントなどが流行している。こうした試みが成功をおさめているのは、SNS上でのつながりを補完して、リアルな場所での「交流」を可能にする機能を持っているからだ。  SNS上では自分と推しを共有する人とコミュニケーションを取ることができるが、リアルで会える場所は、全国に少ない。コンテンツがたくさん揃っていても、リアルな場で「カルチャーを通じて交流する」場所は、まだまだ少ないのである。ここに「インフラ」を作る余地がある。

 別にこれは、いわゆる「推し」カルチャーで想像されるような漫画やアニメなどに限らない。映画や音楽、あるいは小説などのファンダムでもいい。コンテンツの内容はなんでもよくて、とにかくそのファンが集まり、交流する場所を作ることに鉱脈がある。  言い換えれば、「モノ」消費を前提とする意味での「カルチュア・インフラ」はサブスクサービスに取って変わられたが、「体験」を軸にする消費を前提とする意味での「カルチュア・インフラ」は、まだまだ開発の余地があるということだ。

 そして、この業態が成功して全国に広がれば、それは間違いなく新時代の「カルチュア・インフラ」になるのだ。 ■渋谷TSUTAYAの実験は成功するか?   絵空事にすぎないが、もし渋谷TSUTAYAが成功して全国に渋谷TSUTAYAのようなスペースが増えるのだとしたら、その拡大はわりあい簡単だと思う。というのも、ポップアップストアにしてもイベントスペースにしても、「空間」があればよいのであり、店舗開発には大きなコストがかからないからである。

 「居抜き」での店舗開発も進むかもしれない。どちらかといえば、そのスペースをどのように運営していくのか、そのノウハウのほうが渋谷TSUTAYAにおいては重要になってくるだろう。その状況によっては、CCCは新しい「カルチュア・インフラ」を全国に展開していけるかもしれない。  このように、「カルチャーを通じて集まれる場所」を全国に作ることは、現代の文化の状況に対応した取り組みだといえる。そして、その取り組みの実験を、この新しい渋谷TSUTAYAで行うのではないだろうか。おまけに渋谷と言えば、たくさんの訪日客が訪れる場所でもある。そこで新たな「カルチュア・インフラ業」をするのは、日本文化を世界へと届けるうえでも、小さくない可能性を感じさせる。

 そういえば、かつての渋谷TSUTAYAは、レンタル事業における新しい実験を行う「実験型店舗」として誕生したのがはじまりだった。そう考えると、今回のリニューアルは、CCCの原点である「カルチュア・インフラ」を新時代に即したものにするための「実験」を行う店舗なのだともいえそうだ。  渋谷TSUTAYAがどのようになるのか、まだ誰もわからない。しかし、近年業績が低迷するCCCにとっては、その企業理念を見直し、新しく生まれ変わるチャンスなのかもしれない。

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