定年間近の「バブル世代」、25年の追跡調査から見える“新たなお金の使い道”とは?

昭和の終わりから平成にかけ、好景気を経験したバブル世代。いよいよ定年を迎えたり、孫を持つ人が出てきたりする年齢となったことで、彼らの消費の形も変容しているという。彼らをターゲットとした新たなマーケティング戦略に迫った。本稿は、林 裕之『データで読み解く世代論』(中央経済グループパブリッシング)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 人付き合いを重視するバブル世代 「会社関係」から「趣味・旧友」にシフト  筆者が所属するNRI(野村総合研究所)では、過去25年にわたって同一設問・項目の「生活者1万人アンケート調査」を実施している。この中で、バブル世代(NRI調査では、1960~1970年生まれを指す)は社会人生活中盤の27歳~37歳(1997年調査時)から終盤の51歳~61歳(最新の2021年調査時)までとなる。この間におけるバブル世代が持つ価値観・行動の特色および変化を追っていきたい。  バブル世代といえば、消費において積極的でパワフルであるといわれる。お金を持っていることがステータスであり、身に着ける服や車、海外旅行ではどこに行ったか等を含めて、他人から見て分かりやすい形で自分自身を主張する風潮があったと見られる。  人からどう見られるかを意識するだけあって、他の人との付き合いを大事にするのもバブル世代の特徴である。現在50代で現役時代の後半の時期を送るバブル世代は、「会社・仕事を通じて知り合った人」とプライベートでも週1回以上付き合う割合が高くなっている。  一方で、そろそろ定年を控えた年齢でもあり、役職定年等により生活に時間的な余裕も生まれ始めてきたのか、NRIの2018年調査では「趣味や習い事などを通じて知り合った友人」との付き合いをする人の割合が上昇の兆しを見せており、2021年調査では「学生時代や子どものころに知り合った友人」との付き合いが上昇している。  コロナ禍においてデジタル活用が進んだことを背景に、Zoomなどオンラインコミュニケーションで会話できるツールを使って、久しぶりに連絡の取れた「学生時代や子どものころに知り合った友人」と会話できることを踏まえると、中高年層において「学生時代や子どものころに知り合った友人」との付き合いが増えたことは合点がいく。  バブル世代においては、現在は会社関係の仲間とのつながりがメインであるが、今後定年を超えるにつれて趣味・習い事を通じた仲間、学生時代の友人などとの「つながり志向」が消費のキーワードとなるだろう。  現在のバブル世代は社会人現役時代の最後の生活を送り、人によっては時間にゆとりも生まれ、会社や仕事関係の付き合いから、共通の趣味等でつながった人との付き合いが始まるころである。  バブル世代は、人からどう見られるかを意識する傾向があり、人との付き合いを大事にする中で支出も促される可能性がある。共通の趣味友達とうまく出会えるネットワーク作りの支援が肝要だ。

 バブル世代ではスマートフォン保有率は9割に迫っており、SNSを活用する人は増えてきている。地域に閉じた人間関係を築くだけではなく、SNS等の活用により、より広い人間関係を築く可能性はある。  ただし、バブル世代におけるツイッターやフェイスブック等のSNS利用は自ら情報発信するのではなく、閲覧のみという人が多い。SNSは情報収集・共通の趣味友達作りのきっかけとしてとらえ、リアルなつながりにつなげていく工夫が必要である。  つながり消費においては、特にバブル世代女性の消費力が上がってくることが予想される。「1カ月当たりに自由に使えるお金」の変化では、バブル世代において、特に女性について景気が回復し始めた2012年以降から大きく伸び始め、男性と比べるとまだ伸びる可能性がある。  バブル世代の品質や見栄えのニーズを踏まえると、特に女性においては友人とのつながりという目的で良いものを求めようとする購買力の高さに期待が持てるため、今後はバブル世代女性をターゲットとしたマーケティングがより重要になるものと想定される。 ● シニア予備軍であるバブル世代 少子化で「孫消費」が活性化  また、現在50代や60代に入ったバブル世代は、子どもがさとり世代や(社会人になった)Z世代に該当するため、すでに孫がいる人もいるだろう。シニア予備軍であるバブル世代には「孫消費」が重要なキーワードになる。  長年、出生率低下が問題になっているとおり、子どもの数は減っている。団塊ジュニア世代やポスト団塊ジュニア世代の頃は子どもの数が多かったため、兄弟はもちろん、いとこの数も多く、そのためお年玉の金額は数千円ほどであった家庭も多かった。  しかし、現在は若年層の人口減少に加え、結婚しない人も増え、結婚しても子供を作らない選択を取る人も増えており、子どもの数は圧倒的に減っている。夫側の両親、妻側の両親含め孫が1人しかいない状況を生じており、昔よりも相対的に孫の価値が上がる(孫が大事にされる)世の中になっている。  お年玉の金額も小学生低学年から1万円をもらえたり、祖父母の家に訪れる度にいろんなものを買ってもらいやすくなっている。  このような状況は、親世帯と子世帯の住む場所の関係が変わってきたことも物語っている。

 世帯形成した子の、親との居住関係の時系列推移について、この20年間の長期トレンドとしては、少子化が進み、1つの子世帯が、夫側・妻側両方の親世帯の面倒を見(あるいは面倒を見られ)る割合が増えたこと、ボリュームゾーンである団塊世代が集団就職により大都市に出て「ニューファミリー」として世帯形成し、親世帯の住む家が集合住宅などの同居に向かない住居形態である割合が増えたこと、子世帯のボリュームゾーンであった団塊ジュニアが、自分の部屋・自分の空間を与えられながら育った個人主義の強い世代であること、などを背景に、同居割合が減少していた。  親との同居割合は団塊ジュニア世代からバブル世代が子世帯としてのボリュームゾーンを構成していた頃の1997年の35%から大きく下落し、2021年には19%となった。代わりに増えたのが、「徒歩圏内」、「交通機関を使って1時間以内」で行き来できる「近居・隣居」である。  NRIでは、親世帯と子世帯が片道1時間以内ぐらいで行き来できる距離に住む形態を取っている家族を、日常的に緩やかにつながりながら経済的・精神的にも支え合うような関係性であることから、「インビジブル・ファミリー(見えざる家族)」と呼んでいる。  過去四半世紀に及ぶ経年調査では、この「インビジブル・ファミリー」は増加を続けている。「インビジブル・ファミリー」は一見、別世帯であるが、消費活動は共同で行うことも多い。  孫のために祖父母がランドセルを買うといった消費は想像しやすいと思う。親世帯と子世帯で一緒に外食やレジャーに行くことを考えて多人数乗りのミニバンやSUVを購入する、遊びにくる孫のためにゲーム機を祖父母の家に用意しておくなども親世帯・子世帯間の共同消費の例である。この共同消費の金額は馬鹿にできない。  人からの評価やブランド志向が高いバブル層は、良いものを孫に与えよう、という気持ちが強く、これまで以上に「孫消費」の単価が上がることが想定され、シニア消費の重要性が高まるだろう。  孫へのランドセルやプレゼントといったモノだけでなく、旅行や外食といったコトも含め、こうした「孫消費」ニーズの傾向は世帯単独で見るだけでは捉えることはできない。マーケティングには世帯間の緩やかなつながりを意識したターゲット像の見直しやニーズの再整理が求められる。  特にシニア予備軍となるバブル世代に向けては、子どものため、孫のために何をしてあげられるか(何を買ってあげられるか)をうまく理由付けし、後押しすることで、今後の消費はさらに活性化されるだろう。

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