被災地にトイレ運んだから気づいた 「想定外」に備えた余力の大切さ

南海トラフ巨大地震の津波の被害想定で、人口31・6万人の高知市は、中心部の市街地が長期間浸水するとみられる。

【写真】南海トラフ地震に備え、山の集落へ「疎開」訓練する高知市二葉町の住民

 そのため、避難所の収容人数の不足が大きな課題だ。さらに、災害対策を担当する市職員が能登半島地震の被災地を訪れた際、新たな問題にも直面した。

 市防災政策課の防災政策担当係長、大野賢信さん(41)は、市消防局の武内陽平さん、五十川潔さんとともに1月10日、トイレ不足が伝えられた被災地に向けて市所有のトイレトレーラーを牽引(けんいん)し、高知市を出発。11日午後、石川県輪島市の市立輪島病院に設置した。2/7締切【日経電子版2カ月無料】

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 その後、被災地の状況を知るため、市内の輪島消防署を訪問した際、大野さんは署長から意外な言葉を聞いた。

 同署では大津波警報が発令された際、2階の会議室に一時、約350人の住民が避難した。

 しかし、10日以上たった大野さんらの訪問時も避難所になっており、被災者が寝泊まりしていたという。

 大野さんが注目したのが、寝泊まりする被災者のなかに、自宅が被害を免れた被災者も含まれることだった。署長からは「夜間の余震が怖く、宿泊のためだけに利用する人もいる」との説明を受けた。

 高知市は南海トラフ地震の際、発生1週間後の想定で避難所の収容不足は約4万人(昨年末時点)。その不足の解消を目標に、市外への広域避難や避難所の洗い出しなどを進めてきた。

 だが、想定する避難の対象者は、自宅が倒壊するなどして、住むことが難しい物理的な被災を受けた人々だ。自宅が無事だった「避難所外避難者」は約9万人を見込み、避難所の収容者数には入れていない。

 トイレトレーラーは当分の間、輪島市に貸し出し、大野さんは12日に高知市役所へ帰庁。被災地で見聞きし、感じたことを庁内で共有した。

 また、避難所の設置トイレに明かりがないため、避難者は夜中、スマートフォンの光を使って利用している状況だった。ソーラー発電機能があるトイレトレーラーは人気があり、南海トラフ地震対策では、夜間使用を想定したトイレ対策も必要だと伝えた。

 大野さんは「収容不足の人数は最大限を想定しているが、不安や恐怖といった精神的な被災で避難所を利用する避難者数をどう想定し、対処すべきか。限られた予算の中で想定外に対応できる余力を持つ必要を感じた」と話す。(今林弘)

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