能登半島地震の偽情報 海外から多く “インプレゾンビ”が

能登半島地震の偽情報 海外から多く “インプレゾンビ”が

2024年2月2日 18時22分 令和6年能登半島地震

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能登半島地震の発生直後に旧ツイッターのXで相次いだ偽の救助要請などについて、NHKが分析したところ、多くは海外から日本語で投稿されていて、閲覧された回数は合わせて1100万回以上に上ることが分かりました。

発信者の中には、Xで多く閲覧されることで収益を得る「インプ稼ぎ」の方法を教える動画を投稿している人物もいて、偽情報の拡散にXの収益化の仕組みが影響している実態が浮かび上がりました。

能登半島地震の発生直後、Xでは石川県の被災地からの救助要請が投稿された一方、実在しない住所を挙げたり、無関係の画像をつけたりした偽情報も相次ぎました。

このうち、最も多く拡散した偽情報の1つで、石川県珠洲市の同じ住所で別の場所の動画を付けて救助を求める偽情報を投稿していた24のアカウントをNHKが分析したところ、半数の12は居住地がパキスタンとなっていたほか、日常的にアラビア語やパキスタンの主要言語のウルドゥー語で投稿しているものが少なくとも9つありました。

これらのアカウントでは去年10月以降、確認できるだけで日本に関する投稿があわせて3000近くに上っていて、▽能登半島地震に関する投稿はおよそ160あり、合わせて1100万回以上見られたほか、▽羽田空港で起きた航空機どうしの衝突炎上事故については、およそ70の投稿が合わせて250万回以上見られていました。

Xは去年夏以降、課金しているユーザーが一定の「インプレッション」を獲得すると、収益が得られる仕組みを導入しています。

偽の救助要請を投稿した人物の中には、▽Xで一定の閲覧数=「インプレッション」を獲得すると収益が得られる仕組みやそのための方法を教える動画をYouTubeに出しているケースや、▽Xで収益を挙げたことを報告しているケースもあり、日本で多く使われているXで拡散している投稿をコピーするなどして「インプレッション」を稼ぐ「インプレゾンビ」と呼ばれるアカウントが広がっているとみられます。

Xで収益を得る方法を指南するYouTube動画

取材に対して “インプ稼ぎ”の人たちは…

Xで得た収益を報告している投稿

日本で拡散した投稿をコピーし、感情を刺激しそうな動画や画像を添付するなどしてインプレッションを稼ぐ行為は、南アジアや中東地域を中心に広がっていると見られています。

このうち、能登半島地震のあと、東日本大震災の際の写真を今回の地震のものだとして投稿していたパキスタン在住だという人物が、Xのダイレクトメッセージを通じたNHKの取材に応じ、投稿の目的は収益を得ることだったと認めました。

そして「日本の人たちへの共感を示すことで、日本の状況をまわりの人たちに知ってもらおうと投稿したが、今後はそのような投稿はやめます」と釈明しました。

パキスタン在住だという人物の投稿

Xが収益を分配する際の決済システムはパキスタンでは公式には使えないとされていますが、そうした中でも収益を受け取る方法がSNSを通じて広がっているとみられます。

インプレッションを稼ぐ方法をXで指南していた人物は、能登半島地震に関連して、▽地震発生時の動画とともに「今、北陸のホテルにいます」などと書き込まれた投稿や▽東日本大震災の津波の動画を今回の地震であるとする投稿など、日本語での投稿を繰り返していました。

ウルドゥー語で返答した人物の投稿

この人物はメールを通じたNHKの取材に対し、ウルドゥー語でこう返答しました。

「1年の最初の日に巨大な災害にあった日本の人たちの苦しみを共有したいと思いました。博士号を取得しようと日本の大学を探しているので、こうした投稿をしました。もし私の投稿で誰かが傷ついたなら謝罪し、今後このような投稿はやめます」

厳しい経済状況下 SNSで収益目指す

偽の救助要請などの投稿の発信元の1つとみられるパキスタンでは、深刻なインフレに見舞われるなど厳しい経済状況が続いていて、専門家は「仕事のない若者が多い中、SNSを通じて収益を得ようとする人が増えている」と指摘しています。

パキスタンでは2022年に「国土の3分の1が水没した」ともいわれる大規模な洪水が発生し、農業などの主要な産業が打撃を受け、その後も経済が混乱した状況が続いています。
▽ことし1月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて28.3%上昇するなど、インフレに直面しているほか、▽ILO=国際労働機関は、去年(2023年)の失業者の数は、2021年と比べ150万人増加していると推計しています。

建設作業などの日雇いの仕事を探す人たちが訪れる首都イスラマバードの通りには、今月1日も、朝早くからシャベルなどを持った多くの人たちが集まっていました。
このうち21歳の男性は「地元から仕事を探すためにここにきて、3、4日がたちましたが仕事はありません。状況は悪くなっています。両親を実家に残しているのに仕事がなく、悲しいです」と話していました。

厳しい経済状況のなか、SNSを使って収益を得ようと考えている人もいます。

土木技師として働く26歳の男性は、数か月前からSNSに目を引くような動画を投稿して収益を得ようとしていたということで「最近は景気が悪く、ガソリン代も大幅に値上がりしています。みんなお金を必要としていて、SNSを使って収益を得ようとしています。仕事をしながら副収入を得ることができると思います」と話していました。

パキスタンのSNS事情に詳しい専門家は「雇用の状況が悪く仕事のない若者が多い中で、SNSを通じて収益を得ようとする人が増えている。より多くのインプレッションを得るために国外の情報や言語も使用している」と話していました。

専門家 「情報空間を汚染」

桜美林大学 平和博教授

フェイク情報に詳しい桜美林大学の平和博教授は対策の必要性を指摘しています。

「人の命がかかった大災害でも大事故でも、一部のユーザーにとってはインプレッションをあげる要素でしかないということだ。日本のニュースについて投稿するとインプレッションが集まることから『これはお金になる』という認識が急速に広がっていった可能性は十分にある。こうした行為はインプレッションを稼ぐ『インプレゾンビ』と呼ばれていて、自動で投稿するプログラムが流通していると考えるのが妥当かもしれない」

「自分でウェブサイトを立ち上げる必要もなく、Xだけで収益につながる仕組みが導入されたことによって、偽情報を発信するハードルは一気に下がったといえる。これまでネット上で収益を得ることに無関係だったようなユーザーたちも参入し始めた可能性が十分あり、情報空間の汚染がより深刻になっているのかもしれない。明確に収益をねらって、今回のような非常時や選挙などの際に情報空間を汚染しようとする行為は社会を揺るがすリスクをはらんでいるので、何らかのしっかりした対策が必要になってくるだろう」

Xは規約で自然災害などを収益化に利用することを禁じていますが、平教授は「現状の対応には疑問があると言わざるをえない。プラットフォームが利用規約に従って、許容できないコンテンツについては、しっかりと対処し、情報公開をしっかりしていくべきだ」と訴えました。

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