日本で本当の意味で「人口減少」が始まったのはいつか…どうにもできない現実と閉じこもる高齢者たち

人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 【写真】意外と知らない、人生がうまくいかない人の「決定的な間違い」とは…?  100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021 年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。

実質的な“人口減少元年”は2011年

 コロナ禍は、人口減少を加速させることになったが、同時に付け焼き刃的な人口減少対策を浮き彫りにした。  日本の総人口がピークを迎えたのは2008年の1億2808万人であるが、実質的な“人口減少元年”を調べてみると、東日本大震災が起こった2011年である。この年を境にして前年の人口を上回る年は見られなくなったからだ。  しかしながら、各企業が人口減少に危機感を覚えたのはもう少し前であっただろう。消費や働き手の中心世代である「生産年齢人口」(15~64歳)が1995年の8716万人を頂点として減り始めたためである。その後、生産年齢人口は下落傾向が続き、2020年10月1日(概算値)は1995年と比較して、1250万人も少ない7466万人にまで落ち込んだ。  総人口に占める生産年齢人口の割合も1992年の69.8%をもって下がり始めている。2018年にはついに6割を切る水準にまで下落し、2020年は59.3%(概算値)となっている。  こうした急速な内需の縮小や人手不足を補う打開策として、企業が目を付けたのが、  (1)高齢者マーケットの掘り起こし (2)「24時間営業」の拡大・普及 (3)外国人の受け入れ拡大  という三本柱であった。いわゆる人口減少対策三本柱である。  しかしながら、コロナ禍に直面して、そのいずれも行き詰まりを見せているのである。

毎日外出する人は62.8%から35.3%に

 人口減少対策三本柱のうち、コロナ禍によってまずメッキが剥がれたのは「高齢者マーケットの掘り起こし」であった。  これは言うまでもなく、勤労世代(20~64歳)の減少に伴う消費市場の縮小を、増え続ける高齢者の消費を喚起することでカバーしようという取り組みである。  社人研の推計によれば、総人口は減少していくが、高齢者については2042年に3935万2000人でピークを迎えるまで増え続ける。2043年以降は高齢者も減り始めるが、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は、2065年の38.4%に達するまで増加傾向が続く。  つまり、2043年以降も、国内マーケットにおいては、年を経るごとに高齢者の存在感が増していくということである。大多数の企業は少なくとも、高齢者数が増え続ける今後約20年間において、高齢消費者のニーズに応える商品開発やサービス提供をしておかなければ生き残れない。  どの業種も国内マーケットの縮小には危機感を募らせており、総人口が本格的に減り始めた2011年頃から、高齢者を重視する姿勢が目立つようになった。最近では、80歳を超えても加入できる生命保険商品まで登場しているというから驚く。  しかしながら、コロナ禍はこうした高齢者マーケットの開拓努力に水を差し始めている。高齢者の重症化リスクが高いがゆえに、新型コロナウイルス感染症に“過剰な警戒心”を持つ人が増えたからだ。これまで盛んだった会食や旅行をためらう意識が強く働き、対面型のサービス以外でも高齢者の消費マインドを必要以上に冷え込ませてしまったのである。背景にあるのは「社会の老化」だ。  もちろん、高齢者を批判しようという意図はない。命の危険と隣り合わせの高齢者が“自衛”の意味で慎重に行動するのは無理からぬ話である。  感染状況について丁寧な情報発信をしない政府や地方自治体にも責任がある。どういうシチュエーションで感染したのか、詳細をつまびらかにしないから、恐怖心だけがいたずらに膨らんでいくのだ。ウイルスを正しく恐れながら、「withコロナ」の生活を上手にこなしている高齢者もいる。すべての人が“過剰な警戒心”を持ったわけではないが、行動範囲がかなり狭まったという高齢者は少なくない。  東京都医師会が、東京大学高齢社会総合研究機構のデータを紹介しているのだが、感染拡大前後で西東京市に住む高齢者の外出頻度を調べたところ、毎日外出する人は感染拡大前の62.8%から、感染拡大後は35.3%に減った。「週に1日程度」か「もっと少ない」という、“隠遁生活”のように閉じ籠もってしまった人が18.3%もいた。  厚労省の「国民生活基礎調査」(2019年)によれば、高齢者がいる世帯は2558万4000世帯で全世帯の49.4%を占めるが、このうち単身世帯は736万9000世帯、夫婦のみの世帯は827万世帯だ。こうした高齢者のみの世帯が増加していることが、より警戒心を強めさせている可能性もある。

河合 雅司(作家・ジャーナリスト)

タイトルとURLをコピーしました