民放AMラジオ44局が2028年秋までにFM化へ、在京3局はAM停波も目指す

「ワイドFM(FM補完放送)対応端末普及を目指す連絡会」幹事局(TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送)は2021年6月15日、AMラジオのFM転換に向けたロードマップを発表した。それによると、民放AMラジオ47局のうち44局が2028年秋までにFM局となることを目指す。民間AMラジオ局がFM転換の意向やロードマップの発表を行うのは今回が初めて。

FM転換へ、民間AMラジオ局がロードマップを発表

FM転換へ、民間AMラジオ局がロードマップを発表

(出所:ワイドFM(FM補完放送)対応端末普及を目指す連絡会)

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 AM放送のFM転換については、日本民間放送連盟(民放連)が「FM補完中継局制度を見直し、遅くとも2028年の再免許時までにAM放送事業者の経営判断によってAM放送からFM放送への転換や両放送の併用を可能とするよう制度を整備する」「2023年の再免許時をメドに一部のエリアで実証実験として長期間にわたりAM放送を停波できるよう、必要な制度的措置を行う」ことを総務省の有識者会議で要望、報告書の提言に反映された。

 総務省は、この有識者会議の提言を受ける形で、2020年10月に「民間ラジオ放送事業者のAM放送のFM放送への転換等に関する『実証実験』の考え方」を公表、いよいよFM転換が具体的になってきていた。この考え方では、「AM転換は各社の経営判断により行われるもの」「転換の時期について画一的に定めるものではない」といった方針が示された。

 AMラジオ各社の経営判断を尊重する形で制度設計が行われる見通しとなったが、各社の取り組みがバラバラだとリスナーに対し不親切であり、ワイドFM対応端末の普及が進まないことも懸念される。そこで、AM各社の意向を集約し、大くくりなロードマップをできるだけ早期に明らかにする必要があると考えて、この日の発表が行われた。

 ロードマップでは、「日本全国の民放AMラジオ47局のうち、44局は、2028年秋までにFM局となることを目指す」とした。北海道と秋田県を除いて、全国の民放AMラジオ局がこの宣言に参加した。なお、2028年秋にFM局となっても、直ちにAM停波を行うことを意味しない。一定数の局はAM波を補完的に活用し続ける予定で、AM併用の形となる。

 さらに、在京3社(TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送)は一歩踏み込んだロードマップを示した。早ければ2028年秋の再免許時でのAM停波実現を目指し、3社で協力して様々な課題解決に努めるとした。

 2023年秋の再免許以降に開始される予定の「総務省 AM停波の実証実験」については、AMラジオ47社中、21社が参加を予定する。そのうち、親局の停波を含めた形で実証実験への参加を予定するのは7社、中継局の停波のみの形では14社が参加を予定する。

そもそもAMとFMの違いは?

ラジオにはAM放送とFM放送がありますが、どのような違いがあるのかおさらいしておきましょう。

AM放送のメリット・デメリット

AMは「Amplitude Modulation(振幅変調)」の略称で、音波を広い範囲に安定して飛ばすことができ、障害物などの影響を受けにくい点がメリットです。そのため災害時のラジオ放送は、基本的にAM放送で行われています。デメリットとしては、音波の混合などによってノイズが入りやすく、音質が低い点があげられます。

FM放送のメリット・デメリット

FMは「Frequency Modulation(周波数変調)」の略称で雑音の影響を受けにくく高音質なのがメリットです。そのため、FM局は音楽中心の番組が多くなっています。デメリットはAMに比べて放送範囲が狭く、障害物の影響を受けやすい点です。

AM放送が終了する理由は?

総務省によると、AM放送が終了する主な理由は「設備更新や維持にかかるコストによるもの」とされています。AM放送の設備更新にかかるコストを削減することなどを目的として、遅くとも2028年(令和10年)再免許時までにAM放送事業者は、段階的にAM放送からFM放送への転換やあるいは両放送の併用を進めています。

このような背景の中で、2024年2月1日~2025年1月31日までの期間で、試験的にAM放送の休止を行うことが発表されています。この施策は、AMラジオが無くなることによる社会的な影響を検証することを目的に実施されます。なお、休止を発表している放送事業者は13社、AM局数は34局。すべてのAMラジオ放送が休止する訳ではありません。

出典:総務省「AM局の運用休止に係る特例措置

AMラジオの番組も聴けるワイドFM(FM補完放送)とは?

AMラジオの番組も視聴できるワイドFM(FM補完放送)とは?

AM放送の終了で注目を集めているのが、ワイドFMと呼ばれるラジオ放送です。

ワイドFMとは、AM放送が入りにくい場所でも聴けるよう、新たに周波数を割り当てられた補完放送のことです。ビルに囲まれた場所や山間部など、これまで受信が難しかった場所でもAMラジオの番組を聴くことができるため、難聴対策や災害対策として注目されています。

災害時のためにワイドFMに対応したラジオの準備を

AM放送の終了後、災害時にラジオを聴くには、ワイドFMに対応した端末が必要になります。ワイドFMを受信するには、FM放送用の周波数「76.1~89.9MHz」に加えて、ワイドFMの周波数「90.0MHz~94.9MHz」に対応したラジオが必要です。

FMを受信できるラジオを持っていても、90MHz未満の目盛りしかなければ受信できないため、災害時に備えて早めに端末の確認と準備をしておきましょう。

まとめ

2028年にAM放送の終了が予定されています。AM放送の終了による細かな影響は、2024年2月1日~2025年1月31日までの試験的な休止期間で検証されますが、特に問題視されているのが災害時にAMラジオが聴けなくなる点です。現在、一部放送局では「AM局の運用休止に係る特例措置」によりAMラジオ放送を停止している局もあるので、気になる方は総務省や放送局の情報を確認しましょう。

今回紹介したように、災害時にラジオを聴くにはワイドFMを受信できる端末が今後必要になってくることが想定されます。万が一に備えて、ワイドFMを受信できる端末の準備など早めの確認・準備を行ってください。

2022年12月27日、総務省から「AM局の運用休止に係る特例措置に関する基本方針(案)」が提示されました。本案は民間のAMラジオ放送事業者が、AMラジオ放送(中波放送)からFM放送(超短波放送)への転換、およびFM放送への転換を行わないAM放送局の廃止を検討する際に適用される特例措置の内容、要件、手続き等を記した基本方針案に対する一般公募意見を募集するものです。

リンク:AM局の運用休止に係る特例措置に関する基本方針(案)に対する意見募集
<https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu09_02000300.html >

AMラジオという単語を久しく忘れていましたが、地方の田舎育ちの私は、通学中の車の中などでよく聞いていたこともあり、懐かしさを感じます。今回はこちらをテーマに取り上げさせて頂こうと思います。

AM・FMラジオ放送

ラジオは最もシンプルな情報受信媒体であり、携帯電話が生まれる前は最も普及した携帯型の情報媒体でした。ラジオは、放送局が音声を電気信号に変え、電波に乗せたものを受信。受信した電波を音声に変えて流す仕組みであり、現在の携帯電話機器と似た通信方式となります。

AM放送とFM放送では飛ばす電波(変調方式)が異なっており、AM放送は「Amplitude Modulation:振幅変調」方式、FM放送は「Frequency Modulation, 周波数変調」方式を採っています。
AM放送は中波(300kHz – 3MHzの周波数)と呼ばれる周波数のうち、波長約200~600m、周波数約526kHz~1.6MHz帯の電波を使った放送形式です。振幅変調方式は電波の外枠の形に音声信号の情報が乗っており、音声信号をそのままの電波の強弱として伝達しています。

特徴として到達範囲が非常に広く、日中であれば地表に沿って伝わる電波(地表波)により数10km~数百km。紫外線の影響が無くなる夜間帯は、上空50~500km程度に存在する電離層(主に90km以上に存在するE層)が中波を反射するため、数百km~数千km伝搬します。
一方、波長が長いことにより、電気雑音(電化製品等の電源装置)が入りやすいデメリットがあります。また、建物内に電波が届きにくくビルの多い都市部では、難聴エリアが多数存在します。(参考①②参照)

【参考①:AM放送とFM放送の電波の波形】
【参考①:AM放送とFM放送の電波の波形】

【参考②:AM放送のサービスエリア】
【参考②:AM放送のサービスエリア】

出典:総務省  AM放送とFM放送
<リンク:https://www.soumu.go.jp/main_content/000216453.pdf 
一方、FM放送は超短波(30 – 300MHzの周波数)のうち、波長約3~4m、周波数約76~94.9MHzの電波を使用します。90MHz~94.9MHz帯の周波数は、テレビで利用されていた地上アナログ放送1ch~3ch(90MHz~108MHz)の枠を「FM補完中継局(ワイドFM)」としてAM放送のFM転換用周波数として用意されたものです。そのため、古いラジオでは90MHz帯以上の周波数に対応していない場合もあります。

FM放送の電波は、送信所からの直接波と大地反射波により伝搬し、送信所から見える範囲(数10Km~100km程度)が範囲となります。AM放送と逆の特性を持ち、遠くまで届かない分、電気雑音による影響は少なく音質はクリアです。ただし、LED照明(屋外型LEDディスプレイ 等)による電磁影響を受けることが判明しています。(参考③④参照)

【参考③:FM放送の電波伝搬サービスエリア】
【参考③:FM放送の電波伝搬サービスエリア】

【参考④:AM放送とFM放送の一般的な特性と特徴】
【参考①:AM放送とFM放送の電波の波形】

出典:総務省「AM放送とFM放送」
<リンク:https://www.soumu.go.jp/main_content/000216453.pdf 

FM放送への移行背景

AM放送からFM放送へ移行する背景には、「難聴対策」、「災害対策」が挙げられます。
前段の通り、AM放送はビル屋内等の密閉された空間ではノイズが入りやすく、音質も良くありません。更に電波が届きすぎるため外国波混信による影響もあります。

また、AM放送の送信局設置には高さ100Mクラスのアンテナが必要で、広い敷地が必要となります。そのため、川辺等の広い敷地(平野部)に集中しており維持費も高額です。昨今の集中豪雨・地震災害等による都市平野部での被害発生時に、安定して情報発信を行うためにも、FM放送波の有効活用が求められている状況なのです。(参考⑤参照)

【参考⑤ワイドFMの特徴】
【参考⑤ワイドFMの特徴】

出典:総務省 放送政策の推進「ワイドFM」
<リンク:https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/housou_suishin/fm-seibi.html  

ラジオ放送事業の事業状況について

令和4年に公開された情報通信白書 放送・コンテンツ分野の動向によると、現在のラジオ事業に関わる事業者(単営)の推移ですが、FM放送に関わる事業者数は2019年頃までは毎年10前後の事業者(コミュニティ放送事業者)が増加しています。

尚、コミュニティ放送とは地域の活性化等に寄与することを目的に制度化された地上基幹放送で、「行政、観光、交通・防災」などの放送地域に特化した情報を配信する、地域密着型メディアとなります。映像コンテンツが主体となった昨今においても、ラジオ放送のプラットフォームはまだまだ現役だと感じられます。(参考⑥参照)

【参考⑥民間放送事業者数の推移】
【参考⑥民間放送事業者数の推移】

出典:総務省 令和4年版情報通信白書  放送・コンテンツ分野の動向
<リンク:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/pdf/n3300000.pdf 

特例措置に関する基本方針について

今回提示された基本方針(案)の要点を抜粋すると以下の通りとなります。

  1. 特例措置期間を2023年11月から2025年1月31日までとし、特例措置の適用を受けるための要件を定める。
  2. 期間内において、要件を満たすFM転換、およびAM局廃止を検討するAMラジオ事業者は、6か月以上に及ぶAM局の運用休止を認める。

電波法によると、無線局が6か月以上正当な理由なく運用休止した場合、免許取消事由に該当すると定められていますが、今回の特例措置は、申請した事業者に対しては制約が適用されないことを明文化したものとなります。特例措置の適用期間についても、終了後も延長を希望し総務総が必要と認める場合は、延長が可能と柔軟な案となっています。

特例措置を受けるための要件は以下の計10項となります。

【特例措置を受ける要件一覧】

(1) 特例適用局が適切に選定されていること
(2) 特例適用局の運用休止の影響を受ける住民への周知広報を行うこと
(3) 地方公共団体等への周知及び災害時の対応に関する調整を行うこと
(4) 問合せ窓口を設置すること
(5) 特例適用局の運用休止の方法を選定すること
(6) 特例適用局の運用休止による影響を検証すること
(7) 特例適用局の運用休止に関する報告書を作成すること
(8) 特例適用局の運用休止の結果を公表すること
(9) 特例適用局の運用休止に関する適切な実施体制を確保すること
(10) 特例適用局の運用休止に関する実施計画を作成すること

(1)~(3)の要件に詳細記載がありますが、大前提としてAM放送を停止しても代替手段(FM放送、ケーブルテレビ 等)で放送区域をカバーすることが必要で、ラジオが視聴できなくなる地域住民に対しては停止期間・代替手段の事前通知義務が生じます。
また、地方公共団体と災害時のラジオ放送に関する取り決めがある場合はそちらの調整も必要となります

最後に

2021年には、日本全国の民放AMラジオ局47局のうち44局が2028年秋までにFM局となることを目指すことを表明しており、既に多くのAM局ではAM・FM両方の周波数帯で放送するサイマル放送を開始しています。
2028年のタイミングで全てのAM放送が停止することは想定されておりませんが、コストを考慮すると、徐々に廃止の流れが続くことは予想されます。(参考⑦参照)

【参考⑦ 民間AMラジオ放送事業者における放送ネットワークの類型】
【参考⑦ 民間AMラジオ放送事業者における放送ネットワークの類型】

出典:総務省 AM局の運用休止に係る特例措置に関する基本方針(案)
<リンク:https://www.soumu.go.jp/main_content/000844715.pdf 

多くの民放AMラジオは既にFM放送で視聴可能となっていますので、昔AMラジオを視聴されていた方は、一度ご視聴してみてはいかがでしょうか。以下にFM局一覧のリンクを記載します。

参考リンク:総務省 全国民放FM局・ワイドFM局一覧
<リンク:https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/housou_suishin/fm-list.html 

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