(立花 志音:在韓ライター)
「あっママ、あの車!うちもあの車がいいな。ヒジュンのママがうちまで乗って来た車。この間、ジヌのパパも、あの車で幼稚園まで来てたんだよ。私も“いつも”あの車に乗りたい」
娘が、すれ違う車を見て言った。
立花家は長男が小学1年生になる1年前の2012年に、日本から韓国の西南部に引っ越してきた。あれから10年の歳月が流れ、その間に、3人だった家族は5人になった。春には次男が小学校4年生、娘はピカピカの1年生になる。なんとも感慨深い。
その娘が欲しいと言ったのは、韓国の自動車メーカー、起亜の「カーニバル」という、日本のオデッセイに似ているバンである。
娘が「“いつも”あの車に乗りたい」と言ったのは、家族で旅行に行く時に「カーニバル」をレンタルして乗っているから。要するに、いつでも乗れるように買ってくれということである。
筆者が初めてソウルに来た2000年代にはセダンしか走っていなかった韓国の自家用車も、ここ10年ほどで多様性を帯びてきた。SUVやコンパクトカーもだいぶ見かけるようになった。
コロナとノージャパンの前は、日産のキューブがかなりの人気だった。
筆者には左ハンドル仕様のキューブがとても新鮮に見えて、後方の窓も左右反対の非対称に作られているのを見てひとりで感動していた。夫はそんな筆者を見ながら、「当たり前のことにそんなに感動できる君を尊敬するよ」とあきれていた。
残念ながら、そんな日産も3年ほど前に撤退してしまった。当時のノージャパンは非常に激しく、自動車メーカー以外にも、化粧品のシュウウエムラやDHC、うどん専門店の丸亀製麺など多くの日本企業が撤退した。
ユニクロはかろうじて残ったが、姉妹ブランドの「GU」は全店舗を閉鎖して、ユニクロネットストアの中のみでの販売になっている。
ところが、去年からなぜか韓国では日本製の車、特にトヨタ車が飛ぶように売れている。2023年末に公開された資料によると、年初から7月末まででも1万2643台と、前年同期比77.1%の増加である。
韓国でハイブリッド車が売れ始めた理由
韓国で販売されているトヨタ車の90%以上がハイブリッド車である。
コロナの頃から「環境にやさしい」とかいうキャッチフレーズで、電気自動車のブームが巻き起こった。田舎の農家には補助金を出して電気の軽トラックを推奨。マンションの駐車場や大きな公共施設に電気自動車用の充電スペースが次々と作られた。
車ライフの環境が変わっていくのを見ながら、新しいもの好きの韓国人の購買意欲が刺激され、道行く電気自動車はあっという間に増えた。
筆者はヒルトンホテルが好きで、理由もなく気分転換に泊まりに行くことがあるのだが、ホテルの駐車場には、テスラ専用の無料充電スペースがある。テスラに乗ってヒルトンホテルに行く人は、帰りの分のガソリン代ならぬ充電料金が無料になるのだ。
企業同士のコラボというか、顧客の囲い込みというか、リッチな人にはリッチなホスピタリティーがあるのだなと少し嫉妬した。
ただ、バッテリー交換やメンテナンスに目が飛び出るような費用がかかることがネット上で話題になった上に、電気代の暴騰もあり、最近のトレンドは再びハイブリッドカーになっている。
トヨタディーラーの前を通ると、新型の黄色いプリウスが展示されている。1年近く待たないと買えない代物だそうだ。最近は「お金をどれだけ持っていっても売ってもらえないクルマだ」とネット上で話題になっている。
こういう文句を見ると本当に韓国人らしいと思う。別に待てばよいだけの話ではないか。それをまたお金を積んでも、などと表現するのはいかにも成金思想と言えるのではないか。
高級車に乗りたがる韓国人
去年の6月にハイブリッドのアルファードがモデルチェンジして発売されるという発表があった。約1000万円という価格にもかかわらず、12月の新車出庫分の予約が、わずか1カ月ほどで受付中止になったという。夏以降は「来年来てください。来年どうなるかも全く未定ですが」という状態だった。
今年はクラウンが韓国にもお目見えするとの話だ。筆者が子供の頃に聞いた言葉、いつかはクラウンの「いつか」が満を持して、到来である。
もともと韓国人は高級車に乗りたがる。運転が下手でも堂々と2500ccを超えるセダンにドヤ顔で乗るのがステイタスだ。やはり大きくて高級な車には条件反射的に魅力を感じるらしい。韓国におけるトヨタのブランド力の大きさを再認識した。
それにしても、この掌の返しよう、変わり身の速さはいったい何なのだろうか。撤退を余儀なくされた日産は関係者はどう思っているのだろうか。新型キューブを目にすることができなくなったキューブファンの筆者の気持ちも考えてほしい。
日本製品の不買運動が激化していた頃のソウル。「ボイコット・ジャパン」の旗がはためいている(写真:YONHAP NEWS/アフロ)© JBpress 提供
アルファードの話題とともに、娘がミニバンに乗りたいと言っている話を夫にしてみた。夫の愛車は10年以上たったトヨタのカムリで、車は日本製のセダンが一番だと思い込んでいる。
日産が撤退する時に、大幅に割引しているのを横目で見ながら「今はまだ子育て中だから新車は我慢」と言い聞かせながら今の車を廃車するまで乗って、次はレクサスを買おうと狙っている。
当たり前のことだが韓国では日本車は「外車」である。いろいろと高いのだ。だからトヨタを買うなら、もう少し背伸びをしてレクサスを買ってしまいたいようだ。
日本車の新モデル旋風に思うこと
夫と一緒に新型アルファードの広告動画を見たところ、内装は高級仕様で1年生と4年生というやんちゃな子供を乗せてレジャー目的で使うような車でないことは確かだった。
以前からトヨタが北米で生産しているミニバンに「シエナ」がある。台湾や韓国でも定期的に売れているがやはりお高い。日本で「ノア」の価格がいくらかを知っている我が家では絶対に買う気になれない。
筆者は女性の割に車が好きだ。でも、普段は移動手段としか考えていないので、乗って進むのなら文句は言わない。子育て真っ最中なら、韓国産の中古のミニバンで十分ではないかと思ったりする。子供が大きくなるのがあっという間だと言うことは、長男で経験済みである。
日本車の新モデル旋風の最中に、娘と一緒に国産中古車のリサーチを始めようとする筆者であった