「いままで夫を甘やかしすぎていた」…日本を衰退させている日本人に「刷り込まれた思想」の正体

人生の楽しみは喜怒哀楽の総量で決まる。  「還暦からの」と銘打ってますが、還暦未満のあなたにもきっと役立つ。 人生100年時代をパワフルに行動するための出口流初の人生指南!  【写真】「日本が低学歴社会化している」という「衝撃の事実」 こんな時代だからこそ、元気にいきましょう!  『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』には出口さんのように元気に生きるヒントが満載です。  ※本記事は2020年に刊行された出口治明『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』から抜粋・編集したものです。

男女差別が日本を衰退させている

写真:現代ビジネス

 次世代のため、社会の持続可能性を考えると、少子化対策は必要不可欠です。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」では、総人口は2015年の1億2709万人から2065年には8808万人に減少するという推計を出しています(出生中位、死亡中位推計)。およそ3割の人口減です。  3割も人口が減ったら企業の売上は減少し、多くの企業やお店は潰れてしまうでしょう。人口減少問題への対応は、日本にとって極めて重要な課題です。総合的に判断して少なくとも1億人の人口が必要だという政府の方針は間違っていないと思います。  人口減少の一番の原因は何かといえば、出生率の低さです。なぜ日本は出生率が低いのか。それは根底に男女差別が存在し、育児のみならず家事、介護が全部女性の手に委ねられているからです。こんなに多くの負担を押し付けられて、誰が赤ちゃんをたくさん産もうと思うでしょうか。  ある若い女性がフェイスブックに投稿した、次のような話があります。  最近は子連れ出勤OKの会社が増えていて、赤ちゃんを職場に連れていけるようになっている。赤ちゃんが泣いて仕事の邪魔になるのではと思いきや、むしろ生産性は高まる。なぜなら授乳サイクルと脳が仕事に集中できる時間は2時間でほぼ一致しているので、授乳して、仕事に集中して、また授乳するというサイクルは頭を使う仕事に合っていてまったく邪魔にならない――。  このような内容の記事を読んだ夫が、「お前、本当に赤ちゃんを職場に連れていけるか」と聞いてきたので、その女性は次のように言い返しました。「あなたが職場に連れていくのよ」。夫は「俺が連れていくのか!」と仰天し、その女性は大いに反省したそうです。いままで夫を甘やかしすぎていた。今日からしばき倒して子育てさせなければいけない、と。  この女性の夫に悪気はないのでしょうが、無意識に育児、家事、介護は女性がやるものだという思い込みが刷り込まれているわけです。男性はそれを手伝えばいいだけだと。しかし、手伝うという発想自体が、育児、家事、介護は本来、女性が担うものだという偏見の上に立脚しているのです。この思い込みが日本の男女差別の根源にあります。  男女差別をなくすには、『還暦からの底力』第2章で触れたクオータ制の導入が一番です。時限立法的なクオータ制を徹底して導入すれば、男女差別は解消の方向に向かいます。  ところが、クオータ制の導入には反対する学者もいます。その主張は「若い女性にアンケートをとってみると、管理職にはなりたくない、専業主婦になりたいという人がたくさんいる。だからクオータ制は現実離れしている」といったものです。  しかし、そうした学者はクロード・レヴィ=ストロースを知らない不勉強な人です。レヴィ=ストロースが人間の意識は社会構造がつくると指摘しているように、育児も家事も介護も全部女性に押し付けられ、男はそれが当然だと思っている社会に育った女性が、「管理職になっても辛い思いをするだけ」、「専業主婦のほうが楽でいい」と考えるのはごく当たり前のことです。  社会構造が意識をつくるのですから、先に男女差別をなくさない限り、少子化問題の解決も社会の進歩もありません。  男女差別をなくして出生率をあげようというと、「若い女性の実数を考えれば、出生率をあげたくらいで子供は増えない。だから移民を受け入れるしかない」という反論が飛んできます。しかし、これも不勉強な話です。  確かに、短期的に見れば若い女性の人口が減っているので、出生率を上げてもそれほど人口は増えません。でも長期的に見ると、移民を受け入れたところで赤ちゃんを産みにくい男女差別のある社会では、移民も赤ちゃんを産みません。結局、男女差別にメスを入れなければ、人口は減るばかりで社会は衰退していくしかないのです。  *  さらに【つづき】〈「日本が低学歴社会化している」という「衝撃の事実」…大学に入っても勉強しない、大学院生が就職できない〉では、「飯・風呂・寝る」の日本の低学歴社会について、くわしくみていきます。

出口 治明(ライフネット生命創業者・立命館アジア太平洋大学(APU)学長)

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