マンション住人は避難所に入れない…いつ襲われるかわからない大地震「マンション住民の備えと覚悟」

東京都の「避難所の収容人数」は318万人、マンション・共同住宅で暮らす人は900万人… 

震度7の大地震に襲われ、東京都とほぼ同じ面積の能登半島が壊滅状態だ。1月31日現在でも、1万5000人ほどが避難所生活を送っているそうだが、首都圏で大地震が起こったら、どうなるだろう。

東京都によると、’22年4月現在、都内には約4700ヵ所の避難所があり、収容人数は約318万人。一方、マンションなどの共同住宅で暮らす人は約900万人。これではマンション住人はおそらく避難所に入れない。

日本防災士会理事の山本賢一郎氏も

「マンションで暮らしているなら、在宅避難を強くおすすめします。介助が必要な災害弱者の中には、避難所に行ったほうがいい人がいるでしょう。けれど、そうでなければ避難所に行くべきではないと、私は思います」

と言う。

’81年6月以前に建てられたマンションは倒壊の危険も…マンションの備蓄品の確認も重要

山本氏によると、在宅避難をする場合も、確認しておかなければならないことがあるという。その一つはマンションの耐震性や免震性。’81年6月以降に建てられた、新耐震基準を満たしたマンションなら、震度6強~7程度の地震では倒壊しないような設計になっている。

’81年以前に建てられ、耐震補強をしていないマンションは気をつけたほうがよさそうだ。

そして、備蓄品の確認。 

「備蓄倉庫の位置を確認するのも大事です。高層マンションの備蓄倉庫が1階だったら、高層階の住人は利用することができません」

山本氏がマンションの備蓄倉庫にぜひ備えてほしいというのが、発電機だ。

「備えただけで安心して、何年もチェックしないままにしていることがあります。避難訓練というと、火災を想定して行うことが多いようですが、地震のときのことも考えて、ぜひ備品のチェックをしてほしい。発電機を動かしてみる、ガソリンが入っているか、ガソリンの劣化も含めて確認する。肝心なときに動かなかったらたいへんですから」 

マンションによっては、しっかりした防災計画を作っているところもあるが、こうしたものも毎年チェックする必要があると山本氏は言う。

「10年前に、とてもしっかりした防災計画を作ったマンションの管理組合がありましたが、それっきり確認していなかった。10年たてば住人の年齢も変わり、必要なことも変わります。防災計画を作ったら、それも毎年見直してください」 

高層マンションにぜひ備えてほしいと山本氏が言うのは、ソリ。

「20階以上の部屋から、介助が必要な人を背負って階下に降ろすのは無理。そのようなときのために用意してほしいのが、災害現場向けの大型ソリです。介助者をこれに乗せて階段を滑らせるようにすれば下層階への避難誘導に便利です」

マンションではエレベーターの中に閉じ込められる危険性もある。

「エレベーターの中には組み立て式の簡易トイレを設置しておくことをおすすめします。組み立てておいて、中に懐中電灯や充電器、水や非常食、アルミ保温シートを入れて、使わないときはカバーをかけておく。用を足したくなったときは、アルミ保温シートをかぶればいいのです」

水や食料は基本的には個人で最低3日分を用意しておく。水は1日1人3ℓだから、3日分で9ℓ。それを人数分用意しておく。

「私はこれらを旅行や出張で使うスーツケースに入れておくことをおすすめしています。防災バッグを用意する必要はありません。スーツケースの中に水や食料、歯磨き、歯ブラシ、救急用品、衛生用品など日常で使うものを入れておいて、その中から使うようにローリングストックする。ふだんから非常時のことを考えながら生活すればいいのです」 

「長周期振動」で高層階は窓が割れ、室外に落下する危険も

’81年6月以降に建てられたマンションは震度6強~7程度なら倒壊しないとされているが、安心はできない。とくに高層階は長周期振動で大きく長く揺れることが知られている。

「建物が大きく揺れると家具が大きく動き、それによって窓ガラスが割れてしまうことも考えられます。高層階では風が強く、窓ガラスが割れることで家具が落下したり、家具につかまっていたら家具ごと落下する危険性もあります。強化ガラスを使っていたら割れないかもしれないけれど、建物がゆがんだことで窓枠ごと落ちる可能性もあります」

住居の中で比較的安全なのは玄関、バスルーム、トイレだと言われる。出入口を確保することも重要だ。揺れを感じたら、とくに高層階の住人は玄関などに避難するのがよさそうだ。

「防災はイマジネーションが大事です。日ごろから、どのようなことが起こるか考えておく。廊下にものがたくさん出ていたら通路が塞がれてしまうかもしれない。近くに川があったら堤防が決壊して地下の電気室が浸水してしまうかもしれない。そのときどうするか。日ごろから考えておかなければなりません」

いつどこで起こるかわからない地震。勤務中かもしれないし、移動中かもしれない。つねに「ここで起こったら」と考えるくせをつけてほしいと山本氏は言う。

マンション1棟で“地区”。在宅避難で役所からの支援を得るためにも「地区防災計画」の申請を

マンション住人に山本氏がすすめるのは、「地区防災計画」を作り、役所に申請すること。

「ここでいう“地区”とは、自治体の“地域”とは違って、住民が任意で作ることができます。近所の方と“地区”を作ってもいいし、マンション1棟で申請することもできます。マンションでは避難訓練を行っていると思いますが、そのマニュアルを『地区防災計画』とタイトルを変えて提出すればいいのです。そうすると役所からアドバイスがもらえるし、役所も支援しやすくなり、公助を受けやすくなります」 

在宅避難をしていると、給水車はいつ来るのか、街はどうなっているのか情報が入らないと不安だが、「地区防災計画」を申請しておけば、在宅避難しながらマンション管理組合などを通じて役所からの情報も入手しやすくなるという。これは申請しておいたほうがいいかもしれない。

「立地も違えば、住人の年齢構成も異なる。それぞれのマンションに合った『できること』の計画を立てればいいのです。住人の方の考え方も違う。防災計画に正解はありません。自分たちに合った計画を立ててください」

山本賢一郎 日本防災士会理事。(株)andBOSAI代表取締役。日本大学理工学部砂防防災工学非常勤講師。事業構想修士(MPD)。大学卒業後、建設コンサルタント会社に入社。その後、NPO法人土砂災害防止広報センター理事長を経て、現職。日本防災士会には8500人が所属し、災害の現場にボランティアを送っている。

取材・文:中川いづみ

タイトルとURLをコピーしました