ジム・ロジャーズ氏「人口減少、高齢化、借金大国…日本が豊かさを取り戻すのに必要なもの」

———- ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並んで、「世界三大投資家」と称されるジム・ロジャーズ氏。最新刊『2030年 お金の世界地図』を発表した彼は、これから10年で「沈む国」のひとつに日本を挙げている。大の親日家として知られる彼が、なぜ日本の没落を予測するのか? 本人みずから解説してもらった。 ———- 【写真】ジム・ロジャーズ氏「これから伸びる『国・産業・投資商品』を教えよう」

「人口減少」「少子高齢化」が止まらない

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 第二次世界大戦後の日本では、勤勉な国民が懸命に働き、高品質の製品を送り出してきた。1970年代から80年代にかけての日本は世界の先進国を追い抜き、世界で最も成功した国だった。バブル崩壊後の90年代も、まだ致命的な状況ではなかった。  しかし、私が日本を訪れた1990年頃から、日本は長期的な問題を抱えるようになり、小さなほころびが、少しずつ目立つくらいに大きくなってきた。  私は日本が好きであるが、日本が再び大国の地位に返り咲くのは、おおよそ非現実的であると考えている。問題を解決できなければ、将来的に日本語という言語が消滅することになるかもしれない。日本人は生き残ったとしても、彼らは中国語を話している可能性があるということだ。  一つの問題は人口減少である。  日本の人口は、第二次世界大戦後から増加が続き、1967年には1億人を突破したが、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じている。このペースでいけば、56年には9965万人、70年には8700万人まで減少すると見込まれている。  日本の出生数は7年連続で減少しており、2022年は過去最少の前年を下回る77万759人となり、80万人を初めて割り込んでいる。  日本が人口を維持する人口置換水準(人口維持のための合計特殊出生率)は2.07人から2.08人とされているが、22年の合計特殊出生率は過去最低の1.26で、すぐに人口を増やすのはおおよそ不可能だ。  また、日本では高齢化も大きな問題となっている。日本の高齢化率(65歳以上の割合)は29.1%(2023年)と過去最高を記録し、世界一となっている。もはや「3人に1人」が高齢者という状況に近づいているのだ。

日本はこうして「借金大国」になった

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 加えて、日本は借金が急増している。  産業や経済が発展するために必要なのは投資であり、投資するための資本である。  かつての日本は製鉄所の開発や自動車工場の建設に大規模な投資を行い、世界が必要とする製品を作り、輸出することで大きな成功を収めた。  当時は鉄鋼生産能力が国力の源泉であり、鉄鋼業は自動車産業はもちろん、建設業、エネルギー産業、食品業といったさまざまな産業を支え、経済発展の基盤となっていた。  投資する資本があった時代の日本経済は、世界的にも稀といえるほどの成功を収めることができた。  しかし、国が資本を使い果たしたときに状況は一変することとなる。日本は1965年に初めて赤字国債を発行。75年に再発行したのち、94年以降は発行を繰り返し、やがて高度経済成長期は終了し、国の借金は右肩上がりで増え続けることになった。  今や国の借金は1000兆円を超え、国民1人あたり1000万円に迫るまでに増加している。債務残高はGDPの2.5倍以上あり、主要先進国と比較して最も高い水準にある。もはや経済が発展するために投資できる資本は失われてしまっている。  歴史を振り返って、人口が減少し続け、借金が急増し続ける国に発展がもたらされた例など存在しない。長期的に人口が減少し、負債が増加している日本が衰退を余儀なくされるのは当然といえる。  日本が好きな身として、このようなことを言いたくはないが、冷静に考えれば日本の将来が明るくないことは自明である。  この悲観的な見解に対しては、次のような反論が寄せられるかもしれない。  「今はデジタルテクノロジーがイノベーションの源泉であり、昔のように大がかりな工場を建設するコストは不要になっている。日本はアメリカや中国と比べて資本が少ないのはたしかだが、発展のチャンスがないとは言い切れないのではないか?」  もちろん、頭脳があればイノベーションを起こすことは可能だ。しかし、優秀な頭脳をいったいどうやって確保するのか。優秀な人材を作るためには教育への投資が不可欠であるし、海外から優秀な技術者を集めるにしても多額の人件費が必要となる。やはり資本がなければ、発展は困難だ。  中には「債務残高は増大しているが、それに比例して純資産も増大しているから問題ない」という意見もあるが、資産が暴落するリスクをどう考えているのだろうか。  資産価値が下がっても、負債額が下がるわけではない。バブル時は特に借り入れを増やすために、負債が増える可能性もある。  「日本の国民は巨額な資産を持っているので、国全体としては債務が少ない」というのもよく聞く話だ。実際に、日本政府は税金を国の債務返済にあて、国民には「国を守るにはこれしか手段がない」と言い訳をしている。  日本が抱える借金を考えれば、どんなに稼いでも税金として返済にあてられるだけであり、これでは経済成長ができるわけがない。

外国人に対して閉鎖的な国民性を改めよ

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 日本は莫大な借金を抱えており、人口は減少している。この状況を見れば、財政を健全化し、抜本的な少子化対策を行わなければならないのは明白だ。  しかし、今の日本社会は子育てをする人に対して不寛容であり、日本人の女性は出産に対してネガティブなイメージを持っていることが多い。  日本の政治家は、歳出を減らして財政を健全化に導くことを望んでいるようには見えず、無意味なバラマキをやめようとはしない。  こんなことがいつまでも続くわけがないのは、自分の家計に置き換えれば簡単にわかる話だ。もし皆さんの家計が赤字になったら、何を考えるだろうか。劇的に収入を増やすのが難しい状況であれば、支出を減らして赤字を解消しようと思うはずだ。  ところが、日本のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は黒字化にはほど遠い状況だ。このまま財政を健全化させなければ、いつか国債の金利は跳ね上がり、日本円は暴落する恐れがある。そうなれば、日本人が今までのような豊かな生活を続けるのは難しい。  残された方法は、移民の受け入れだ。  アメリカが建国したばかりの頃、ほとんどのヨーロッパ人がアメリカは僻地であり、弱小国であるとみなしていた。しかし、アメリカは大量の移民を受け入れることで──途中、何度か禁止した時期もあったが──大国へと成長していった。  基本的に、移民の受け入れはその国にメリットをもたらし、豊かにさせてきた。世界に影響力を持つGAFA(Google・Apple・Facebook〈現・Meta〉・Amazon)は、いずれも移民をルーツに持つ若者が創業したことで知られている。  移民は新しいアイデアや新しいエネルギー、価値観をもたらす。それがやがて大きな変化につながり、国を発展させていく。  しかし、日本は人口減少傾向が決定的になっている今に至っても「移民が増えると治安が悪化する」という理由で、移民の本格的な受け入れを拒否している。これから労働や介護を移民に頼るしかないことが明らかなのに、気づかないふりをして、現実から目をそむけようとしている。  外国人が犯罪を行うと、外国人に対する批判が盛り上がるし、何か犯罪が起きたときに「外国人の犯行ではないか」という差別的な言動がネット上で書き込まれることもある。  移民の犯罪率が日本人より低かったとしても「移民のせいで犯罪が増え、社会が不安定になった」というでたらめな言論が一定の支持を集めてしまう現状がある。  だが、日本における外国人の数は増えているが、2013年以降、外国人の犯罪検挙件数はほぼ横ばいの状態が続いている。  外国人移民が子どもをつくれば、少子化の解消につながる可能性もある。  日本では1993年に外国人技能実習制度を導入したが、賃金不払いやパワハラなどの問題が絶えず、国際的な非難の的となってきた。2023年には技能実習制度を廃止し、受け入れる外国人を労働者と位置づけた上で、これまで認められなかった受け入れ先の転籍(転職)を一定条件で認めるなど、新たな制度を導入しようとしている。悪くない傾向だと思う。  日本人の多くは無自覚だが、世界には日本で働きたいと考えている人が少なくない。なぜなら、治安も良いし、清潔で食事も素晴らしいからだ。  働く人だけでなく、学生も積極的に受け入れるべきだ。日本で学びたいと考える外国人学生は多い。韓国や中国では大学の数が少なく、競争が激しいために大学に入学できない人も存在する。私は彼らに対して「日本は大学が余っているから、日本で学んではどうか」と提案している。  日本では定員割れして経営難に陥る大学が出てきている。そういった大学は外国人学生をもっと受け入れるべきだ。

日本は「観光立国」を目指すべき

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 日本において将来性がある産業の一つが観光だ。観光は成長が見込める数少ない分野である。  歴史的に見ると、日本は長きにわたって世界から観光大国ではないと思われてきたし、日本人自身も、この国を観光立国へ、という意識が乏しかった。  その大きな理由は外国人に対する閉鎖的な態度にある。観光客であっても、海外からやってくる人を積極的に受け入れようとしてこなかったのだ。  だから、京都などは観光地としてある程度世界に知られた存在ではあったが、パリやローマのような観光都市としての発展を遂げてはこなかった。  現状、日本はまだまだ外国人観光客にとって開かれた国とはなっていない。日本人には外国人に対して良い感情を持たない人が多く、国を挙げて観光客を歓迎しようとするムードは醸成されていない。  外国語を使いこなし、海外滞在経験を持つ若い日本人も増えており、状況は少しずつ変わりつつあるようだが、全体的に見れば改善の余地は多いといえる。  意識の面で外国人を拒絶しているだけでなく、施設や設備が整っていないという問題も残されている。  たとえば、海外からの観光客が成田空港を利用する際は多くのATM機で海外発行のクレジットカードを使用できるが、いざ日本国内で消費活動を行おうとすると、海外発行のクレジットカードを利用できないといった具合だ。今はだいぶ改善されているが、私も閉口した経験がある。  しかし、日本には歴史的な建造物や温泉、茶道や武士道に代表される文化など、外国人の興味を引く観光資産がたくさんある。素晴らしい食べ物や、美しい風景にも事欠かない。  特に現在は長引く円安によって、日本を旅行する外国人観光客は増えている。以前は高額な滞在費や交通費がネックとなっていたが、今はその問題が解消されている。  一度日本の魅力を体感した外国人は、また日本を訪れたいと思うはずだ。日本の魅力に気づく外国人が増えれば、観光産業は発展し、外国人を歓迎する日本人も増えていくようになる。  観光産業を発展させるメリットの一つは、費用対効果が高いということだ。たとえば自動車を生産しようとする場合、設備投資に莫大な費用がかかるし、高度な技術力も求められる。自動車工場では、何百人、何千人のスタッフを訓練し、生産性を高める努力が必要となる。  それと比較すれば、観光地のホテルやレストランは少ない費用で建設できるし、運営もできる。すでに日本は観光インフラが整備されているから、投資はより少なくて済むはずだ。  観光産業の成長が、その国の投資機会にもプラスの影響をもたらすようになる。具体的にいえば、観光客が観光地に行くためには、航空機や鉄道、バス、自動車などの交通手段が必要であるし、ホテルやレストランも必要となる。  また、観光客は言葉の通じない異国を旅行するにあたって、誰かに案内してもらわなければならない。そこで、英語などを話すことができる有能なツアーガイドを必要とする。  つまり、観光業が発展するならば、航空会社やホテル、レストラン、旅行会社などに投資機会が生まれることになる。  今の日本は観光立国に向けて、少しずつ変わっているようだが、観光客を受け入れようとするなら、おもてなしの態度を身に付けなければならない。  日本人は、英語を学んでいたとしても、外国人と積極的に英語を話そうとはしなかった。まずは、この閉鎖的な態度を改める必要がある。  ツアーガイドや観光バスの運転手だけでなく、観光客が訪れる飲食店の店主、家電量販店の店員に至るまで、外国人が来たくなるような適切な態度が求められるだろう。  ・・・・・  【もっと読む】ジム・ロジャーズ氏「これから伸びる『国・産業・投資商品』を教えよう

ジム・ロジャーズ(世界的投資家)

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