中国、米国に次ぐ世界3位の自動車市場のインドで、電気自動車(EV)の普及が進み始めた。インド政府はEVの普及を後押ししており、今後も市場の拡大が予想される。アジア各国に比べ、インドのEV市場では中国勢の存在感が薄く、日本も含めた各メーカーが投資を拡大させている。(インド西部ガンディナガル 井戸田崇志、写真も)
■ホンダもSUV発売方針
「まずは今年末にEVの生産を始める。今後も投資を続けていく」
スズキの鈴木俊宏社長は1月上旬、インド西部のグジャラート州で開かれた投資誘致イベントで、州内の工場にEVの生産ラインを新設する方針を明らかにした。EVの生産に向けて総額3820億ルピー(約6800億円)を投じて既存の工場を増強し、新工場も建設する。
英調査会社JATOダイナミクスによると、インドでは2023年、EVの販売台数が乗用車の2%強に相当する約9万5000台となり、22年の約2倍、21年の約6倍に急伸した。乗用車は前年比8・4%増の約414万台で、EVの伸びが著しい。
インド政府は30年までに新車販売の30%以上をEVにする目標を掲げ、補助金などの普及促進策を講じている。スズキは乗用車市場で4割超のシェア(占有率)を握るが、EVでは現地の財閥企業タタ・モーターズに7割を押さえられている。スズキはEVの普及への対応が求められていた。
ホンダも26年までに、インドでスポーツ用多目的車(SUV)のEVを発売する方針を表明している。
■領土問題も影響か
中国メーカーはタイのEV市場で8割のシェアを握るなど、アジア各国で日米欧のメーカーを圧倒している。これに対し、インドでは上海汽車が13・5%、BYDが2・8%にとどまる。中印両国が領土問題を抱え、緊張関係にあることも影響しているようだ。
中国以外の企業は販売拡大の好機とみており、米EV大手のテスラはインドでの工場建設に向けて政府と協議中だ。ベトナムの新興企業ビンファストは、26年に新工場を稼働させる。韓国のヒョンデも32年までに2000億ルピーを投じ、インドでEVの生産体制を構築する計画だ。
EVへの移行が進むにつれ、人口14億人超の巨大市場を巡る攻防はさらに激しさを増しそうだ。