熊本県の人口4万3000人の町に台湾の巨大な半導体企業が進出してきました。IT機器から家電まで、多くの製品に欠かせない「半導体」の世界的企業の登場に、町の暮らしや経済には大きな変化が生まれています。 【写真を見る】時給1800円のバイトも! 4万人の町に「半導体」の世界的企業進出 地元民「めちゃくちゃバブルっすね」 ■無人駅で通勤ラッシュ 熊本の町で何が? 喜入友浩キャスター: 「一気に通勤客が出てきました。長い列をなして、電車から降りてきます」 東京の通勤ラッシュの光景ではありません。熊本県の無人駅です。バスにも長蛇の列。人口4万3000人の菊陽町を中心に今、異変が起きているのです。 地元の飲食店では… 飲食店の客 「町の雰囲気、めちゃめちゃ変わりましたね。活気もあるし」 「もう熊本はめちゃくちゃバブルっすね」 スーパーには「台湾食材コーナー」が… スーパー店員 「こちらのパイナップルケーキとピーナッツ類が売れています」 喜入キャスター 「今、台湾の方、この店で増えていますか」 スーパー店員 「確実に増えていると思います。結構、大量に買われるんですよ。とってもありがたく思っております」 町が変わった原因を、地元の人たちに聞いてみると… 菊陽町や大津町の人たち 「TSMCが」「TSMC関係とかで」「TSMCだって」 台湾の巨大企業「TSMC」。 アップルやインテルなどの顧客から注文を受け、「半導体」を生産する世界シェアトップの企業です。IT機器から家電まで、暮らしに欠かせない様々な製品に「半導体」は使われています。 業界の巨人が半導体製造が盛んな熊本に進出。その余波が広がっているのです。 キャベツ畑の近くに来週開所する新工場の建設費は約1兆円。既に300人以上の転勤者が台湾からやってきました。 ■休日返上でのホテルの建設ラッシュも 小さな町の通勤ラッシュは過熱し、マンションなどの建設ラッシュも始まっています。 喜入キャスター: 「きょうは祝日なんですが、工事が行われています。何を作っているんでしょうか。全国的に展開するホテルですね」 そのすぐ先でも… 喜入キャスター: 「こちらも建設工事が行われていますね。『東横イン阿蘇くまもと』と書かれています」
国内外からやってくる出張者を狙って、休日返上でホテルが建てられていました。 今あるホテルは満室状態が続いており、新たに台湾出身の従業員を雇ったところもあります。 エアポートホテル熊本 蔡孟君さん 「このホテルは台湾人がいっぱい泊まっていますから、サポートしています」 台湾からの出張者は1か月から半年ほどの長期滞在が多く、体調不良になるケースもあります。 蔡孟君さん 「病院の案内をします。症状を聞いて『どこどこ病院があります』と案内します」 ■賃金相場も上昇 工場の清掃の時給の最高は1800円 世界のトップ企業の進出は、地域の雇用にも大きな影響を与えています。 半導体関連企業 採用担当者 「3年前までは大体(半導体の)エンジニアは月25万円という市場だったんですけど、今、ざっくり月30万円ぐらいです。やはり、(TSMCの)進出で、(人材)獲得の難易度が急に上がってしまった」 県内の半導体関連企業は、激しい人材獲得競争にさらされています。 さらに… 喜入キャスター: 「半導体の工場が立ち並ぶ地域のハローワークです。熊本県の現在の最低賃金は898円。全国的には低い水準です」 ところが、その状況がTSMC関連では全く異なります。 喜入キャスター: 「工場の清掃、最高は時給1800円があります。社員食堂の調理補助は1300円以上ですね」 新工場での仕事は都市部並みの高給が並びます。 ■台湾で半導体技術者を養成 大学に「日本人用コース」 一方、TSMCの地元・台湾でも新たな動きが… 台湾のシリコンバレー・新竹市にある大学。台湾初の半導体学部に「日本人専用のコース」を新設しました。日本の技術者を台湾で養成するのだといいます。 明新科技大学 劉國偉学長 「日本に今(半導体製造を担う)人材がいると思いますか?いないのです。そこで、私たちは日本のために人材を育てようと思いました。TSMCや台湾企業のためでもあるのです」 半導体の技術を学ぶため、18歳で日本からこの大学に飛び込んだ松田さんです。
明新科技大学2年 松田堂志さん(20) 「すごく競争意識というか、他の人よりもいいものを作ろう、他の人よりも頑張ろう、そのために何も惜しまないという精神の人が結構たくさんいるので、僕はそういうところがすごいと思っています」 夢を実現するために、台湾で勉強を続けています。 松田堂志さん 「半導体を使った『空飛ぶスケートボード』を作りたくて、僕は今、ここで半導体の勉強をしているので」 TSMCは2月、熊本に第二工場を建設する計画を発表しました。年内にも工事を開始する予定です。 ■巨大半導体企業、なぜ熊本に 巨額の補助金も 山本恵里伽キャスター: そもそもどうして熊本にTSMCが工場を建てることになったのでしょうか。 喜入友浩キャスター: 大きく2つ理由があるようです。まず1つは熊本の「きれいな水」です。 半導体の製造には大量の純度の高いきれいな水が必要だということです。 山本キャスター: 熊本市の場合は水道水が100%地下水で賄われているので、蛇口をひねったら天然水を飲むことができます。だからそれが半導体製造にも適しているから、元々、熊本は半導体関連企業が多い地域なんですよね。 喜入キャスター: 水を大量に使うということで今後、水環境がどう変わるか、それは注意しないといけないと。 山本キャスター: 有限ではありますから、対策はしていかないといけないと思います。 喜入キャスター: 理由の2つ目が「補助金」です。 TSMC第1工場の建設費は約1兆円ですが、約半分を日本政府が補助しています。今後建つ、第2工場と合わせると約1兆3000億円を日本政府が補助しているということになります。 news23ジャーナリスト・経済担当の片山薫記者は「1つの企業、特に海外企業への税金の投入は異例。費用対効果も不透明」だとしています。約1兆3000億円、単純計算で1人1万円ぐらい払っていると。 ■「産業のコメ」誘致合戦が激化 半導体バブル? 山本キャスター: ただ、日本としてこれだけの補助金を出しているということは、メリットを見越しているからということなのでしょうか。
喜入キャスター: 背景にはやはり半導体不足があります。 いろんなものに使われている半導体は「産業のコメ」とも言われていますけれども、2020年以降、半導体が不足しているという状況なんです。ですから日本政府としても自国で安定的に供給できる工場を持ちたい狙いがあったので、TSMCを誘致したということになるんです。 こういった動きは世界に広がっていて、TSMCの誘致合戦がありました。日本だけでなく、ドイツ、アメリカにも今後TSMCの工場が建つ予定です。 山本キャスター: そうなると、台湾としては技術の流出という懸念はありませんか? 喜入キャスター: たしかに懸念する声も上がっているんですが、昨今の台湾の情勢、中国との緊張関係がありますから、その中で半導体を通じてドイツやアメリカと関係を深めていくことで守ってくれるのではないか、ある意味、半導体で同盟を作っていくような動きが台湾にはあるということです。 山本キャスター: 熊本だけの話ではなく、日本全体の話というふうに認識しないといけないですね。