約束手形の決済期限を約60年ぶり改正、120日から60日に…中小企業の設備投資・賃上げ後押し

 政府は、取引の後払いに使う約束手形の運用を約60年ぶりに改める。決済期限を従来の原則120日から60日に厳格化する下請法の運用見直し案を月内にも公表する方針だ。中小企業人手不足や物価高で経営が厳しくなっており、資金繰りを圧迫する日本独特の商慣習を見直すことで、設備投資や賃上げを後押しする。

(写真:読売新聞)

 2月末から意見公募を行い、周知期間を踏まえて11月の適用を目指す。60日を超える手形を発行すると、政府は、法律に基づき指導を行う。

 約束手形は通常、発行する大企業は支払いを猶予できるが、受け取り側の中小企業は数か月にわたって現金にできない。期限を前倒しして受け取る際は、割引料が引かれ、売り上げが実質的に減る。手形の決済を待つ間に当座の運転資金の確保に迫られ、借金をするケースも少なくない。資金繰りを懸念し、設備投資や賃上げをためらう要因にもなっている。

 決済期限を120日(繊維業は90日)とする現在の運用ルールは、1966年に導入された。

 高度成長期の当時は資金需要が旺盛で、大企業でも銀行からの融資を迅速に受けられない場合があり、約束手形を発行する側の資金不足を補うために許容された。バブル崩壊以降、市場がカネ余りの状態になっても見直しは進まず、中小へのしわ寄せの側面が目立っていた。

 政府は2021年に民間企業に対し、決済期限を60日以内に変更するよう要請し、将来は法的基準も変更する方針を示した。だが、強制力がないため実効性を伴わず、支払いの早期化は大きく進んでいない。

 約束手形を巡って、政府は26年までの廃止を目標に掲げている。大手銀行は当座預金口座の新規開設者を対象に、紙の手形発行を停止する対応を始めたが、動きは鈍い。法人企業統計によると、支払手形の残高はピークだった1990年度末の107兆円から2022年度末は23兆円まで減ったが、2年連続で微増している。

 日本経済の底上げには、雇用の7割を占める中小企業の賃上げが欠かせない。成長投資の足かせとなる慣習の見直しは、一層の加速が求められる。

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