東京慈恵会医科大学などが、胎児にブタの腎臓を移植する臨床研究を計画し、実現すれば国内初の「異種移植」の例となる。胎児の時に腎臓が正常に作られず、老廃物などが尿として十分に排出できない病気「ポッター症候群」を患うヒトの胎児に、ブタ胎児の腎臓を一時的に移植し、出生後に人工透析が可能になったら、ブタ腎臓を取り出すというものだ。これまでポッター症候群は生存率が低く、中絶せざるを得なかったが、この「異種移植」が実現すれば、命を諦めないで済むようになるという。
「未熟児で生まれてしまうと、腎臓が悪くても透析ができないので、透析ができるまで成長させる。2~3週間だけ、ブタの腎臓が尿を出してくれれば、後はそれを除いても構わない」(東京慈恵会医科大学・横尾隆主任教授)
計画を推進する研究者は、このように説明するが、そもそもなぜブタなのか。横尾氏によると、ブタとヒトの臓器は「大きさも解剖学的な構造も非常によく似ている」。一方で、「わらにもすがる思いで、この治療を希望する」「赤ちゃんの命を救える可能性が。成功を祈ります」といった意見から、倫理的な側面から「胎児を救うためとはいえ、ブタを殺していいのか?」との反応まで、賛否が出ている。
動物の臓器を人間に移植する手術、いわゆる「異種移植」は、これまで世界で200例ほど確認されている。なかでも話題になったのが、2022年1月にアメリカであった、ブタの心臓を57歳男性に移植した例。ブタ心臓を人間に移植するのは世界初で、当時は手術が成功したと報じられたが、術後2カ月ほどで心不全のため死亡した。アメリカでは2023年11月にも、58歳男性に対して心臓移植が行われたが、こちらも術後6週間ほどで亡くなっている。
こうした症例を聞くと心配になるが、ブタの臓器について、アメリカでは違ったとらえ方がされているという。テレビ朝日外報部の中丸徹デスクは、一般的なアメリカ人の感覚として、「よくわからないことは、とりあえずやってみよう。チャレンジしてみよう、ナイストライ!」といった価値観があると話す。
かつて人工透析治療を経験した、映画コメンテーターのマニィ大橋氏は、「腎移植の選択肢は、説明もなかった」と語る。自分で調べて登録するも、提供までは「10年くらい待つ」と言われ、最終的には妻から腎臓の提供を受けた。
「2年ぐらいおしっこが出ず、移植手術をして出た時、涙が出た。人が人らしく生きられる。こんな幸せなことはない。誤解を恐れず言えば、(ブタ移植は)いいこと。僕はいつも妻がくれた腎臓がある位置をさすりながら、日々感謝している。人間でない臓器でも、その生命に生かされる。それは本当に尊いこと」(映画コメンテーター・マニィ大橋氏)
すでに日本でも、ブタの大動脈弁を使用した、心臓の人工弁手術は行われている。膵臓の一部である、膵島(すいとう)の移植も臨床試験を目指している。しかし異種移植の場合、拒絶反応が起きる可能性がある。横尾氏によると、ブタの臓器をまるごとヒトに移植すると、超急性拒絶反応を起こし、約10分で壊死してしまうこともあるという。それでも異種移植を目指す理由について、横尾氏は「世界的にドナーが不足。特に日本は慢性的に不足している」と説明する。日本では、臓器提供希望者のわずか3%しか、実際に臓器移植を受けられないというデータもある。1997年からは脳死下の臓器移植が法律上可能になったが、26年間で脳死臓器提供は約1000件にとどまる(2023年10月末時点)。
そんな中、ヒトへの臓器移植用ブタが、国内で初めて誕生した。明治大学発のベンチャー企業、ポル・メド・テックが、細胞や臓器をヒトに移植できるよう遺伝子操作したブタ3匹が生まれたと発表した。アメリカのバイオ企業から遺伝子改良した細胞を輸入し、作った受精卵をブタの子宮に移植して誕生させたという。
「異種移植の大敵である拒絶反応を起こさないよう、遺伝子を操作したブタが『遺伝子改変ブタ』。まだまだ超えなければいけないハードルはたくさんあるが、遺伝子改変ブタが日本でもスタンダードになれば、異種移植は大きく前進する」(東京慈恵会医科大学・横尾隆主任教授)
遺伝子改変ブタは現状、飼育施設だけで数百億円を要するとされ、法整備や安全性、倫理的にも問題が山積みだ。横尾氏は「アメリカの手術が成功すれば、日本でも一気に普及する可能性がある」と語った。
(『ABEMA的ニュースショー』より)