ハイブリッド車の「エコ度」は十分か 米で論争勃発

米国でハイブリッド車(HV)の人気が高まるにつれ、環境活動家たちがその「エコ度」に疑問を投げかけている。

米国でこれまでで最も厳しい排出ガス規制が導入される可能性を前に、HVの真の環境性能を巡って議論が起こっている。

HVはガソリンエンジンと電池動力を併用しており、概して米国人が通常運転している乗用車やトラックよりも燃費がはるかにいい。トヨタ自動車などHVのメーカーは、その人気は歓迎すべきことだと主張。トヨタの宮崎洋一副社長は、カーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出ゼロ)を達成するための重要な選択肢の一つだと述べている。

一方、活動家や一部の規制当局者は、世界が野心的な二酸化炭素(CO2)削減目標の達成を目指すのであれば、HVでは不十分だと反論している。

米消費者団体「パブリック・シチズン」の上級政策顧問で、元ロードアイランド州議会下院議員のアーロン・レガンバーグ氏は「ガソリン駆動車をもっと道路に走らせ、それが気候にとっていいことだと言うのは、誤解を招くだけだ」と話す。

市場のHVシフトは、トヨタに思わぬ恩恵をもたらし、フォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)などの自動車メーカーが、ガソリンと電気を併用するモデルを増やす動きを促している。

パブリック・シチズンは12月、トヨタがHVを「ハイブリッドEV」として売り込んでいることや、「electrified mobility(モビリティの電動化)」や「beyond zero(ゼロを超えた新たな価値)」といった宣伝文句は消費者に誤解を与えているとして米連邦取引委員会(FTC)に申し立てた。北米トヨタは、同社のマーケティングは自動車業界で標準的な用語を使用しているとしている。

パブリック・シチズンは、オレゴン、ニューヨーク、ロードアイランド、イリノイなどの州の司法長官に対し、この問題を調査するよう働きかけている。各州の検事局の担当者は、調査の可能性やその進捗(しんちょく)状況についてコメントを避けた。FTCはコメントの求めに応じなかった。

今春には環境保護局(EPA)の規制案に関する決定が下される予定だ。昨年提案された新たな基準は、車両平均排出量を2032年までに26年型車と比較して56%削減することを求めている。

トヨタ、ホンダ、フォードなどの自動車メーカーを代表する団体は、この規制を阻止するロビー活動を展開している。自動車メーカーの予測によると、基準を満たすためには32年までにEVの販売比率を67%に引き上げる必要がある。したがって、この規制はメーカーにHVやその他のガソリン車からの性急な移行を強いることになり、消費者はより高額な車を買わされる結果になるとメーカーは主張している。

北米トヨタの政府渉外責任者を務めるスティーブン・チコーネ氏は米販売店宛てのメッセージで、EPAの「過酷なEV義務付け」は実際には環境に悪影響だと述べた。

「EVに移行することは可能だが、そのスピードはもっと現実的であるべきだ」。チコーネ氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が閲覧したメモでこう述べていた。環境活動家などから「多くの非難」を受けているものの、「われわれは引き下がってこなかったし、これからもそうだ」

HVは通常、ガソリンのみを動力とする車よりも大気中に排出するCO2が少ないことが調査で明らかになっている。EVは走行中にCO2を排出しないが、米国では通常、EVを充電するための電力の少なくとも一部を、天然ガスあるいは石炭による火力発電所でつくっている。また、EVとその電池を製造する際には、純ガソリン車を製造する際よりも多くのCO2を排出する。

米エネルギー省の調査によると、2022年のさまざまなエネルギー源の全米平均値を使用して計算した場合、EVが1年間に排出する温室効果ガスはCO2換算で2727ポンド(約1.2トン)だった。これに対し、HVは6898ポンド、純ガソリン車は1万2594ポンドだった。

マサチューセッツ工科大学(MIT)が2019年に行った調査で純ガソリン車、HV、EVの3種類を同様の車で比較したところ、同じような結果が示された。

こうしたHVと純ガソリン車との排出量の大きな差を受け、1990年代後半に登場したHVの先駆けとなるトヨタ「プリウス」は、環境保護団体やハリウッドの業界人にもてはやされるようになった。

しかし現在、そうした団体はEVの方がより良い選択肢だと主張。HVは、自動車メーカーがEVへの迅速な移行を避けるための言い訳に使用されていると述べている。

パブリック・シチズンのレガンバーグ氏は、消費者は気候への影響を気にしており、彼らは自分のHVが実際よりもEVに類似したものだと誤解させられていると話す。「世界最大の自動車メーカーとして、トヨタがこの点について大きな影響力を持っているのは明らかだ」

ハイブリッド車の「エコ度」は十分か 米で論争勃発

ハイブリッド車の「エコ度」は十分か 米で論争勃発© The Wall Street Journal 提供

ノルウェーの消費者保護当局は2019年、トヨタが同社のHVを「自己充電式」と称し、充電料金がかからないかのように宣伝したとして措置を取った。トヨタが意味していたのは、HVのガソリンエンジンの作動によって発電した電気の一部を電池にためて後で使用できるということだった。ノルウェーは、この宣伝は誤解を招くものだと指摘した。

トヨタは、人々がEVを購入する気にならない限り、EVによって排出ガスは削減されないとし、現在は多くの消費者、特に米国では充電の問題やEVの高い価格が懸念されていると指摘している。

自動車販売サイト「エドマンズ」のデータによると、昨年米国で販売されたHVとプラグインハイブリッド車(PHV)は約140万台だったのに対し、EVは110万台だった。HVの販売台数は前年比63%増、EVは同51%増だった。

トヨタは、車載電池に使用される希少鉱物は供給量が限られており、HVはそうした鉱物の使用量がより少ないとも指摘。また、HVによって、純ガソリン車をさらに路上から排除できるとしている。

米中西部の40以上の自動車・多目的レジャー車(RV)販売店で構成される団体「キューンズ・オート・アンド・RV」のスコット・キューンズ最高執行責任者(COO)は、EVの環境性能に関するさまざまな用語や数字が消費者を混乱させていると指摘する。

キューンズ氏は、HV需要の多くは、完全なEVに乗り換える前にちょっと試してみたいと考える人たちからのものだとし、EPAは消費者の準備ができていないうちにEV販売を義務付けるべきではないとの見方を示した。

「われわれ現場で販売する人間は、売れているものを売らなければならないだけだ」と同氏は述べた。

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