結局、豊田章男会長の未来予測が正しかった…アメリカで「日本製ハイブリッド車」が爆発的に売れている理由

アメリカで電気自動車(EV)の販売不振が顕著になっている。ジャーナリストの岩田太郎さんは「バイデン政権はEV販売に高い目標を掲げているが、実際にはまるで売れていない。その代わりに売れているのは、日本製のハイブリッド車だ」という――。 【写真】大幅に値下げしたヒョンデ「IONIQ 5」 ■EV販売の減速が止まらない  米国では昨年後半から電気自動車(EV)の不振が顕著に見られるようになったが、2024年に入り、さらに鮮明化・定着化している。  EV各社は赤字や収益率低覚悟の値引き、毎年2月の国民的スポーツイベントであるNFLのスーパーボウル中継への広告出稿、さらに廉価モデルの市場投入などテコ入れを図っているが、販売の減速が止まらない。  昨年の今ごろは、EV販売が右肩上がりという論調ばかりであったが、そのころには想像すらできなかった「2024年のEV販売台数が前年割れ」の可能性すらメディアで指摘されている始末だ。  一方、トヨタをはじめとする日本勢のハイブリッド車は飛ぶような売れ行きである。  なぜ米国でハイブリッドが爆売れするのか。理由を探ると、EVとの比較における経済的・環境的な合理性が認識され、消費者ファーストの使いやすさが圧倒的な支持を受けていることがわかる。 ■「EVブーム」は減速している  米自動車調査企業コックス・オートモーティブの発表によれば2023年には118万9051台のEVが新車登録された。これは前年比46%という大きな伸びであり、新車登録全体の7.6%に相当する。  しかし、前年比の伸び率で見ると、2021年には前年の32万台から66万台と倍増。2022年にはさらに98万台へと1.5倍に伸びた。そのため、2023年の数字はあまり元気がないように見える。  一方で、調査企業各社の2024年EV販売成長予測では、前年比20~30%の増加と、より減速が見込まれている  新車登録台数の予想はおよそ150万台となっており、全体におけるシェアは10~11%に達する。EVブームは減速しているものの、成長そのものは続くとの見立てだ。

■「EV販売は前年割れ」の衝撃予測  ニューヨーク市のタウン誌『ニューヨーク・マガジン』は2月14日、「以前なら考えられなかった、『EV販売は2024年に前年割れするのか』という疑問が出ている」とショッキングな見出しを付けた記事を配信した。  同記事をざっくりと要約すると、以下のようになる。「米国では2020年以来、年を追うごとにEV新車販売の記録が更新されてきた。2024年も伸長が予測されているが、それは過去の増加傾向が今後も続くとの大ざっぱな前提の上に組み立てられた推論に過ぎない」というのだ。  事実、全米ディーラーにおけるEVの平均在庫日数は2023年12月末に113日分と、内燃機関車の69日分と比較して1.6倍のレベルに達している(顧客に直接EVを届ける米テスラを除く)。  この理由は、2022年10~12月期より、ガソリン車やハイブリッド車の売れ行きがEVよりも良くなったためだ。つまり、適正水準を超えるEV在庫は一過性の現象ではなく、長期的トレンドである。 ■大寒波でEVが動けなくなった  大幅な値引き、高金利環境にもかかわらず0%に近いEV購入ローンの低金利、一部の北米産モデルに適用される連邦政府・州政府からの最大7500ドル(約115万円)の購入補助金など、さまざまなインセンティブがあるにもかかわらず、EVの多くのモデルは在庫が積み上がっているのである。  こうした中、米国における2024年1月のEV販売台数は7万9517台と、前年の8万7708台を下回った。  米国の一部を襲った大寒波で消費自体が押し下げられたこともあるが、その寒波でテスラをはじめ多くのEVが動けなくなったというニュースが大きく報じられた。その心理的影響もあった可能性がある。  それに加えて、米メディアが連日のように「EV販売減速」を報じている。高価格・充電施設の不足・修理や保険代金の高さ・長い充電時間・リセール価格の暴落など、EV所有の欠点が大きくクローズアップされたことで、購入をためらう消費者が増えている可能性も考えられる。

■フォードのEV販売は11%低下  こうした中、フォードのEV販売は2024年1月、前年同月比で11%低下。一方、韓国のヒョンデのEVは42%増加、その傘下の起亜も57%の伸びなど明暗が分かれた。  だが2月中旬現在、「負け組」のフォードはEVピックアップトラックの「F-150 Lightning」2023年モデルを1万2500ドル(約188万円)もの超大幅値下げ、「勝ち組」のヒョンデも「IONIQ 5」の2024年モデルを7800ドル(約120万円)も値引きしている。  このように、EVのインセンティブは過去1年間で平均取引価格(ATP)の6%から18%と3倍に引き上げられている。にもかかわらず、一般消費者の反応は弱い。  バイデン政権は2032年に新車販売の67%をEVにするという目標を打ち出している。年間約1500万台の米新車市場において、67%は1005万台に相当する。  2023年のEV販売実績は119万台なので、10年以内にEV販売台数を8倍以上に引き上げることになる。そのためには、毎年30%近い高成長をコンスタントに維持する必要がある。 ■バイデン政権にも目標緩和の動き  コックス・オートモーティブの予測では、米新車販売におけるEVの割合は、2023年の8%から2024年に10%へ伸び、2025年には15%に達するという。  一方、米調査企業J.D.パワーの予測はさらに楽観的で、EVの割合は2024年に12%、2025年に18%だという。  2社とも、年率30%の拡大をクリアするという予想で、バイデン政権の「2032年の新車販売の67%がEV」という目標が実現できると見ている。  だが、当のバイデン政権はそう見ていないようだ。  バイデン政権は2027年~2032年に乗用車排ガス規制を強化する計画を打ち出していたが、2027年~2030年分に限り、年間の排ガス削減基準を従来案より緩和する見通しだ。

■事実上「EV以外のクルマは売るな」  バイデン政権の厳しい基準を満たさないクルマは、1台の販売につき、最大4万5268ドル(約679万円)という極めて懲罰的な罰金が課される。事実上「EV以外のクルマは売るな」ということだ。EV補助金という「アメ」に対する「ムチ」である。  だが、政府が国民の買うモノを決めるのは、市場経済において消費者の選択の自由を奪うことになる。  その「消費者」から見ても、あるいは売れないEVを赤字覚悟で作らなくてはいけない「メーカー」から見ても、EV在庫が積み上がる「ディーラー」から見ても、このバイデン政権の計画は非現実的なものだ。  どれだけ多くのEVを作っても、消費者が買ってくれなければ「取らぬたぬきの皮算用」だ。  事実、バイデン政権はその急進的な政策が消費者・メーカー・ディーラーすべてから反発を受けている。前述の排ガス規制計画の緩和は、そうした反発の結果、譲歩を迫られた形だ。 ■マジョリティ層に売れていない  裕福さで上位10%ほどに相当するアーリーアダプター(初期導入層)によるEV購入は一巡している。一方、一般的な購入層であるアーリーマジョリティ層や、それらの消費者からさらに遅れるレイトマジョリティ層は、現状たくさんあり過ぎるEVの欠点が大きく改善されない限り、EVの購入を急がないだろう。  そうした傾向が、EV販売の減速と在庫の積み上がりとなって表れている。  2025年から2026年には、多くのメーカーからEVの廉価モデルが出揃うと見られている。また、充電スタンドの数も順調に増加し、航続距離など性能も改善されていくだろう。  だが、アーリーアダプターと違い、一般消費者はトータルな保有コストや利便性を重視する。そうしたマジョリティ層の大半にとって、EVはライフサイクルの環境合理性や経済合理性において、明確にハイブリッド車を凌駕するには至っていない。

ハイブリッド車は51.4%も増加  こうした中、米国で販売実績を着実に伸ばしているのが、ガソリンエンジンを持つハイブリッド車である。  1月のハイブリッド車(充電は車の運転やブレーキエネルギーの回生のみ)の販売台数は9万970台と、前年同月から51.4%も増加しており、販売台数が前年割れしたEVと好対照を成している。  なお、米国において飛ぶ鳥を落とす勢いで売れているハイブリッド車の販売台数の53.6%を占めているのが、日本のトヨタ自動車である。  これに加えて、プラグインハイブリッド車(内燃機関を持ち、バッテリー充電は外部の充電器から行う)が2万5741台売れたため、合わせて11万6711台が登録されたことになる。  EVの7万9517台に対して、ハイブリッド車はおよそ3万7000台もの差をつけている。  オンラインのクルマ購入アプリCoPilotのパット・ライアン最高経営責任者(CEO)は、「一般消費者はハイブリッドを選好しているため、販売が白熱している」と解説する。2023年通年でも、新車販売台数においてハイブリッド車がEVよりも優勢だ。  一般消費者も、意識の高いアーリーアダプターと同様にエコなクルマを求めていると思われる。だが、EVの欠点がいまだに大きすぎることから、ガソリン車の経済性と利便性とバッテリーのエコさを兼ね備えたハイブリッドタイプに流れていると見て間違いないだろう。 ■EVの代わりにガソリン車を購入する動きも  「EV不人気」という現実を目の当たりにして、米自動車大手ビッグスリーのゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティスなどもEV生産計画を縮小し、ハイブリッド車開発に大きく舵を切っている。  米レンタカー大手のハーツに至っては、保有するEVの3分の1に相当する2万台を売却し、代わりにガソリン車を購入するという。  米マーケティング企業のGBKコレクティブのジェレミー・コースト社長は、「一般消費者は、EVに乗るためにEVを購入するのではない。クルマは彼らの予算とライフスタイルのニーズに合致している必要がある」と指摘する。  単にEVの価格が下がり、充電ステーションが増えても、トータルなエクスペリエンスの満足度が低いままであれば、EVシフトは起こらないのだろう。  米ニュースサイトのアクシオスが12月6日付の論評で、次のようにまとめている。「自動車メーカーがピカピカの魅力的なEVを推しているのに、消費者は内燃機関車からハイブリッド車への乗り換えを選択している。EVシフトのペースを決めるのは、政治家や規制当局やメーカーではなく、当の消費者だ」。この見立ては当たっているように見える。  さらに2月28日には、米ニュースサイトのビジネスインサイダーも、「ハイブリッド車推進に関して、トヨタは常に正しかった。(米国の自動車の都の)デトロイトは、トヨタに謝罪する必要がある」と見出しを打った記事を掲載した。一部の米国人は、自分たちがトヨタを「時代の流れに逆らう反動的な会社」と批判していたことを反省し始めている。  こうして見てくると、少なくとも「この先10年間で米国ではEVシフトが完了する」とする論調は誇張が多いと思える。  1月の新車販売でEVが前年割れする一方で、ハイブリッド車が前年同月から大幅に増えている足元の傾向は、今後も続くのではないか。  トヨタ自動車の豊田章男会長の「EVの市場シェアは最大でも3割、残りはハイブリッド車など」という未来予測のほうが、より現実的であろう。 ———- 岩田 太郎(いわた・たろう) 在米ジャーナリスト 米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。米国の経済を広く深く分析した記事を『現代ビジネス』『新潮社フォーサイト』『JBpress』『ビジネス+IT』『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などさまざまなメディアに寄稿している。noteでも記事を執筆中。 ———-

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

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