男女の賃金格差を研究した米ハーバード大教授が2023年のノーベル経済学賞に選ばれ、男と女の経済格差が注目されている。世界の中でも日本の格差は深刻だ。男女格差を表す指標「イコール・ペイ・デー」によれば、日本の女性が男性と同じ年収額を稼ぐには、年をまたいで4月28日まで117日も追加で働く必要がある。格差を「見える化」してみた。 【図解】男女の賃金格差は、徐々に小さくなってきてはいる
イコール・ペイ・デーとは?
「イコール・ペイ・デー(Equal Pay Day)」は、働く女性たちで作る国際団体「BPW(Business and Professional Women International)」が提唱し、2011年から各国で発表されている。日本では認定NPO法人「日本BPW連合会」が試算し、23年は「4月28日」だった。
計算式は、
男性の平均年収(410万4千円)÷女性の平均日収(8511.7円)-365日=117.16日(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より計算)
24年分を発表したオーストリアが2月14日、スイス2月17日、ドイツ3月6日なので、日本はかなり遅い。それでも過去に比べれば短くなったのだそうだ。
1990年は8月29日、2010年は6月8日だったので、短くなってきたとは言えるが、それでもまだ1年の3分の1近くも余計に働かなくてはならない。
先進諸国の中でも差が大きい
OECDのデータで国際比較をしてみると、男性の賃金を100とした場合に、日本の女性の賃金はOECD平均88を大きく下回る78だ。
なぜ、こんなに差が開くのか。同連合会の名取はにわ理事長は「男性に比べて、管理職が少なく、出産や育児などで勤続年数も短い傾向があるからです」。しかし、それにしても差が開きすぎではないだろうか。
年代を重ねると、さらに格差が開く
2022年賃金構造基本統計調査の従業員千人以上の会社のデータで作成。箱の中の線は中央値。最小値・最大値はそれぞれ第1十分位数、第9十分位数で作成
格差の度合いは年齢によっても違うようだ。「男女の平均でみると格差の実感が伴わないことがある」と、年代別、産業別で格差の広がりを見えるようにしたのが、労働政策研究・研修機構の研究員、田上皓大さんの分析だ。
平均ではなく、分布をグラフにする手法で、大卒の男女で年代別にみてみると、新卒の頃は差がほとんどないのに、年々差が開き、40~50歳代では、女性の上位グループでも男性の中央値に届かないことがわかる。
産業別に見ると、ほぼすべての業種で男性が女性を上回るが、とりわけ金融や保険では差が大きい。総合職と一般職というコース別の人事制度がキャリア形成に影響し、しばしばそれが性別と結びついているからだ。女性は年齢を重ねても、昇給の可能性がある管理職や役員への登用機会が少なく、同じ期間働いたとしても同じだけの給料を得るのが難しいことがわかる。
一つずつの積み重ねで差が開いていく
「仕事内容に違いがあるから」と考えがちだが、田上さんの研究では、男女の差は職務内容よりも、管理職の比率や就業継続率の差の方が大きな要因だった。
「男女でキャリアが異なっていた時代が長く、男女雇用機会均等法や育児休業法、女性活躍推進法などを通じて、『均等』と『両立』の課題を解決しようとしてきた。ただ、まだ、その効果が、男女間賃金差異の大幅な縮小といった形で社会全体を大きく変えるレベルとして現れるまでには至っていない」と田上さん。
男女の役割分業制度が長かったため、「無意識の偏見」が組織の中に残っていたり、女性自身もなんとなく役割意識に基づいた選択をしてしまうこともある。日本BPW連合会の名取理事長は「その小さな選択の差が積もり積もって役職手当の差につながり、気が付けば大きくなっているという面がある」と話す。この男女の賃金格差がシングルマザーの貧困を引き起こしてもいるという。
経済格差に加えて、時間の貧困も…
経済格差に加えて、最近では「時間の貧困」という言葉もある。家事や育児をする男性も増えてはいるものの、まだまだ家事や育児も含めて、女性に負担が偏り、「子育てするだけで精いっぱい」になっているのだ。昇級試験対策や自己啓発などの時間も十分に取れず、管理職登用を阻む事態にもなっている。妊娠・出産を契機に仕事を辞めると、正社員には戻りにくく非正規化するというデータもある。
政府は「女性版骨太の方針2023」などで「2025年をめどに女性役員を1名以上選任するよう努める」と打ち出し、企業の有価証券報告書に男女の賃金格差などのデータを記載することも求めている。
でも、本当に日本の組織、会社、社会が女性を大事に扱っているのか。それは金額の差が物語っている。(デジタル編集部・大森亜紀)