努力しなくなった日本人……9年で2.6倍、日本のデジタル赤字が示す「ヤバすぎる現実」

 日本のサービス収支のうち、「デジタル赤字」は5兆円を超えた。これは原油輸入額の半分程度になる。日本がデジタル化を進めれば、その分だけ赤字が増えるのだが、デジタル化を進めなければ世界に遅れる。日本は八方ふさがりの状態に陥りつつあるが、挽回できるのか。 【詳細な図や写真】デジタル赤字が拡大する日本は挽回できるか(Photo/Shutterstock.com)

日本のデジタル赤字が「9年で2.6倍」

 日本のデジタル関連の国際収支の赤字が年々拡大しつつある。  日本経済新聞の記事によると、2023年の日本におけるデジタル関連の国際収支の赤字は前年から16%増え、5.5兆円に拡大した。2014年の2.6倍だ(図1)。そして、2023年の原油および粗油輸入11.3兆円の半分程度になる。かなりの額だ。  「デジタル赤字」という概念は、もともと日本銀行の資料で分析されていたものだが、若干広すぎるとも考えられる(厳密に言うと、デジタルに関連しないものも含まれている)。  そこで、もう少し範囲を狭めて、国際収支統計の「通信・コンピュータ・情報サービス」だけをとってみる。

日本はデジタル分野で「世界一の赤字国」

 国際収支統計の内訳で見ても、2023年で1.63兆円の赤字と、かなりの額だ。  2021年の値で国際比較をすると、日本は153億ドルの赤字(当時の為替レート1ドル110円で換算すると1.68兆円)。他の国よりもはるかに大きく、世界一の赤字国だ。2位はドイツ(89億ドル)、3位フランス(81億ドル)。このように、日本の赤字額は突出している。  他方で、受け取り超過(黒字)国は、次のようになっている。アイルランド1,936億ドル、インド1,051億ドル、イスラエル404億ドル、イギリス245億ドル、米国167億ドル、中国106億ドル。  米国の黒字は、日本の赤字とほぼ同額。このように、日本と米国は対照的だ。  世界最大の黒字国がアイルランドなのは、米国IT企業の対ヨーロッパサービスの拠点になっているからだろう。これは、アイルランドが奇跡的な成長を実現し、ヨーロッパで最も豊かな国の1つになった原動力だ。  米国は、貿易収支はおろか、経常収支も赤字だ。しかし、最先端の分野においては、黒字になっているのである。

デジタル化が進めば、デジタル赤字が増加する

 クラウドサービスの提供では、米大手3社で世界シェアの66%を占める。日本はデジタル化を進めるべきだが、そのためには、クラウドの利用が必要だ。ところが、そのサービスを米国企業に依存せざるを得ないのである。  ある時点まで、日本企業はクラウド利用に消極的だった。多くの企業(とりわけ大企業)は、独自の社内ネットワーク(LAN)を構築し、情報システムは自社で閉じていた。そのため、クラウドの費用が問題になることもなかった。しかし、最近になってクラウドを使わざるを得なくなってきた。  総務省は、2020年2月、「政府共通プラットフォーム」に、クラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」を採用した。デジタル庁も、2021年10月時点では行政システムのクラウド化に使うサービスについてAWSとGCP(Google Cloud Platform)を選んだ。  企業でのクラウド利用も広がった。それは良いことなのだが、米国のサービスに依存せざるを得ないので、赤字が拡大してしまうのだ。個人のレベルでもそうだ。Windowsを使っている場合、マイクロソフトへの支払いがある。それに加え、2023年からは、OpenAIへの支払いもある。  ドル表示の料金が変わらなくても、最近の円安で、支払額はずいぶん増えた。iPhoneが高くなったと感じるが、ハードウェアだけでなく、サービスも高くなった。  今後、クラウドの利用が減ることは考えられない。むしろますます増えるだろう。そして日本の国内でこうしたサービスを提供することは、残念ながら難しい。値上げされれば従うしかない。こうした状態は、「デジタル小作人」とか「デジタル農奴」と皮肉られている。  日本がデジタル化を進めなければ、世界からますます遅れる。しかし、進めれば、国際収支の赤字が増える。

努力しなくなった日本人…AI時代が「最後のチャンス」

 日本人は、(少なくとも筆者の世代は)子供のころから次のように教えられて育ってきた。 日本は天然資源に恵まれていないので、資源を外国から輸入しなければならない。だから、技術力を高めて、国内で高い付加価値を生産し、資源の乏しさを補わなくてはならない  ある時点まで、日本人はこの教えに従ってきた。日本は、鉄鉱石や石炭、原油を輸入し、それを国内で加工して、自動車や電気製品を作って輸出した。国内の経済活動で付加価値を付けることによって、日本人は豊かになってきたのだ。そして、資源がなくとも、技術によってそれを克服できることを実証してきた。  しかし、いつの頃からか、そうした努力を怠るようになった。円安になれば、何もしなくても企業の利益が増えることを見いだし、それに安住するようになったからだ。  そして、ITというまったく新しい技術体系が現れたときに、それに対応できなかった。本来であれば、デジタルサービスの分野で、日本は黒字を生み出さなければならないのに、世界最大の赤字国になってしまった。これからは、AIの時代が始まる。ここで逆転できなければ、もう挽回はできないだろう。

絶好調の「旅行」でデジタル赤字をカバーできるか?

 サービス収支のうち、「旅行」と「通信・コンピュータ・情報サービス」を示すと、以下の図2のとおりだ。  これらは対照的な動きを示している。  サービス収支の訪日外国人関連の旅行収支は3.4兆円の黒字となった。2023年の訪日外国人消費額は5兆2,923億円となり、過去最高だったコロナ禍前の2019年実績を上回った。  これが「デジタル赤字」をカバーしてくれるのではないか、との考えがある。そうなるだろうか?  それを判断するには、なぜ旅行収支が2013年から急改善したのかを考えてみれば良い。観光地としての日本の魅力が急に上昇したからか? 残念ながらそうではない。円安が進んで、日本への旅行が安くなった、ただそれだけのことだ。言わば、安売りによって収入が増えているだけのことである。  為替レートが円高に振れれば、旅行者は減るだろう。極めて不安定な収入だとしか言いようがない。

執筆:野口 悠紀雄

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