大津波襲来で「死者47万人」南海トラフ、千葉県東方沖の群発地震「『令和の関東大震災』につながる可能性」「能登も前兆の一つ」

2011年3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災からまもなく13年となる。今年1月には能登半島地震が発生、千葉県や宮崎県などで群発地震が観測され、首都直下地震や南海トラフ巨大地震も警戒されている。建物の倒壊や住宅密集地の火災、津波による被害が懸念されるが、都市部ならではのビルやマンション火災、地下街への津波の流入などにより、事前の想定を大きく上回る被害が発生する恐れもあるという。専門家は「一歩踏み込んだ対策」の必要性を強調する。 【表でみる】政府が想定する首都直下地震や南海トラフ地震での死者数 マグニチュード(M)9・0、最大震度7の巨大地震を観測した東日本大震災では、死者が1万5900人、行方不明者が2523人、災害関連死は3802人。ここにきて気になるのは、千葉県東方沖や同県南部を震源とする地震が断続的に発生していることだ。 災害史に詳しい立命館大学環太平洋文明研究センターの高橋学特任教授は「千葉県南部の地震は、東西方向に断層が走る首都圏で発生する大地震の震源の一つと想定されている。プレート(岩盤)のひずみがたまっており、『令和の関東大震災』につながる可能性がある」と指摘する。 政府が「30年以内に70%」の確率で起きるとする首都直下地震の被害想定では、冬の夕方に発生する「都心南部直下地震(M7・3)」の場合、最大死者が2万3000人にのぼる。うち火災による死者が7割(約1万6000人)、建物全壊・焼失棟数が最大約61万棟としている。 一方、過去200~400年間隔で発生してきた「関東大震災タイプ(M8級)」の別の想定では、死者は最大7万3000人(火災や揺れによるものが各4割、津波が約2割)、全壊・焼失棟数が約133万1000棟としている。 関東大震災では、火災被害が目立った。元東京消防庁麻布消防署署長で、市民防災研究所理事の坂口隆夫氏は「多くの家庭で火を使う正午近くに発生したため、東京市(当時)の約5割に延焼が拡大した。約4万人の避難者が集中した両国では火災旋風が発生、1時間で3万8000人が亡くなるなど想定外の条件が重なった」と解説する。 元日の能登半島地震では、事前の県の想定を大きく上回る被害となった。石川県輪島市の「輪島朝市」では200棟以上が火災に見舞われた。

坂口氏は「輪島朝市では、津波警報のため住民による初期消火もできなかった。断水の影響で消火栓や、電柱などの倒壊で防火水槽も使えず、地盤が隆起したため河川のくみ上げも困難だった。首都直下地震でも帰宅困難者や避難者がどこに集中するか予測は不可能だ。繁華街の雑居ビルやマンションの室内の出火もあり得る。住民による備えができなければ、火災で想定の2倍以上の死者が出ると考えるべきだ」と指摘する。

南海トラフ巨大地震への警戒も高まっている。

前出の高橋氏は「1月に地震があった能登から、同じ日本海側の福井や鳥取、瀬戸内海の広島、九州の豊後水道へと複数の断層が連なっている。能登も南海トラフの前兆の一つとみることもできる」と話す。2月下旬に愛媛県南予で最大震度4の地震が2回発生、今月に入って宮崎県でも地震が相次いでいることも不安要素だという。

南海トラフ巨大地震では、関東から九州にかけての太平洋沿岸で10メートルを超える大津波が襲来するとされる。政府は2012年、全国で死者は約32万3000人、そのうち津波による死者が23万人との想定を発表した。

政府が想定する大地震の死者数 地震 首都直下地震 南海トラフ巨大地震 全体 2万3000人 32万3000人 内訳 火災 1万6000人 1万人 津波 ― 23万人 建物倒壊 6400人 8万2000人 ※政府有識者会議などの資料をもとに作成。首都直下地震は冬の夕方に都心南部直下地震(M7.3)が起きた場合、南海トラフ巨大地震は冬の深夜に起きた場合の各死者数の最悪シナリオを想定

津波が地下街へ流入するリスク

高橋氏は「東日本大震災では津波の犠牲者は複数の自治体で人口の1%程度、多いところで9%程度だった。これを南海トラフにあてはめ、関東も含む太平洋沿岸を中心に試算すると、到達時1メートルの津波だけで約47万人近くの死者が出る恐れもある。津波が高くなればさらに被害は大きくなる」と警鐘を鳴らす。

政府が想定する関東大震災タイプの地震では、東京湾内の津波は2メートル以下としている。だが、東京や大阪など都市部ならではのリスクがあるという。

水害に詳しいリバーフロント研究所審議役の土屋信行氏は「地下街に水が滝のように流入すると、深さ20センチ程度でも足を取られて地上への避難がままならなくなる。地下街で計り知れない数の死者が出る恐れもある。被害想定やハザードマップを提示するだけでなく、浸水域の居住を制限したり、地下街の入り口に浸水の度合を明示するなど、さらに一歩踏み込んだ対策が必要だ。『想定超え』は当たり前と知るべきだ」と強調した。

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