英誌の分析「TSMC誘致で日本が成功して米国が失敗した3つの理由」

台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場は順調に開所式を迎えたのに対し、米アリゾナでの工場建設プロジェクトは暗礁に乗り上げている。日米両政府はともにTSMC誘致に熱心だったが、なぜ日本は成功し、米国はつまずいたのか。英誌「エコノミスト」が3つの理由を挙げて分析する。 【画像】英誌の分析「TSMC誘致で日本が成功して米国が失敗した3つの理由」

対照的な熊本とアリゾナ

日本の産業政策の成果が九州で花開いた。2月24日、半導体受託製造の世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)が、日本で初となる生産工場を熊本県菊陽町で開所した。同社はすでに、第2工場を近隣に建設する計画も発表している。 これと対照的なのが、TSMCのもうひとつの大規模な海外展開事業で、その舞台は米国だ。2023年夏、同社はアリゾナ州に建設中の2つの工場のうち、第1工場の生産開始を2024年から2025年に延期した。 今年1月には、第2工場の稼働が当初予定の2026年には間に合わず、2027年か2028年にずれ込むと発表した。さらに、同工場では回路線幅が3ナノメートルという世界最先端の半導体を製造する計画だったが、TSMCはそれより性能が低い製品になるとの見通しを示した。 日本と米国の両政府は、半導体の国内生産の拡大に熱心で、外国企業の協力を求めている。では、なぜ熊本はうまくいき、アリゾナは揉めているのか。

労組からの「反発」

1つ目の理由は、労使関係の違いだ。 アリゾナでは、工場建設に台湾人労働者を投入することめぐり、労組の連合体であるアリゾナ建築・建設労働組合との間で対立が長期化していた。この問題はTSMC側が地元労働者の雇用と訓練を約束したことで、2023年12月にようやく解決した。 他方、日本では労組の活動は比較的まれだ。ストライキによる年間労働損失日数は、米国が100万日以上なのに対し、日本は1万日未満である。

日本では現地に「強い味方」

TSMCの日本での事業が順調に進んでいる2つ目の理由は、現地のパートナー企業の存在だ。 自動車部品メーカーのデンソーソニーの半導体製造部門が、TSMCの日本法人に少数株主として出資している。2024年2月上旬には、トヨタも出資に加わった。3社とも日本国内で大きなプロジェクトを成功させた経験が豊富だ。 さらに、これらの企業はTSMCの熊本工場で製造する半導体の主要顧客でもあると、シンガポール国立大学東アジア研究所の研究者であるリム・タイウェイは指摘する。 一方のアリゾナでは対照的に、TSMCは単独で事業を進めている。同社にとって米国では1990年代以降で初となる大規模プロジェクトであるにもかかわらずだ。

タイトルとURLをコピーしました