東京や大阪をはじめ全国で相次いではしかの感染者が確認されています。海外から帰国したり、観光で入国したりした人から感染したとみられ、専門家は「海外に行く人などはワクチンの接種歴や抗体の状況を確認して、必要に応じてワクチンの接種を検討してほしい」と呼びかけています。
はしかは「麻疹(ましん)」とも呼ばれるウイルスによる感染症で、感染力が極めて強く、飛まつや接触による感染だけでなく、空気感染も起きることが知られています。
先月以降、各地ではしかの感染者の報告が相次いでいて、奈良県では海外から入国した男性が感染していたことが分かり、この男性と接触のあった別の男性も感染が確認されました。
また、今月1日にはアラブ首長国連邦から帰国した大阪府の男性がはしかに感染していることが分かり、これまでにこの男性を含め、同じ飛行機に乗っていた男女合わせて8人で感染が確認されています。
このうち東京都は、大阪府の女性が滞在先の東京で発症したとして、女性が利用した新幹線や飲食店の具体的な情報を公開し、同じ場所にいた人に対し、体調に異変があった場合は事前に連絡したうえで公共交通機関を使わずに医療機関を受診するよう呼びかけています。
国立感染症研究所のまとめでは、国内でのはしかの感染者は新型コロナウイルスの感染が広がった2020年以降は年間数人から数十人程度にとどまっていますが、その前の2019年には世界的に流行し、国内でも700人を超える感染者が報告されています。
感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「アジアやアフリカを中心にはしかが広がっていて、日本にも持ち込まれている。子どものワクチンは確実に接種してほしいし、大人でも海外に渡航する人などリスクの高い人を中心にワクチンの接種歴や抗体の状況を確認して、必要に応じて接種を検討してほしい」と話しています。
都内の5歳未満の男の子がはしか感染
都内の5歳未満の男の子がはしかに感染していることが確認されました。男の子が都内の飲食店を利用していることから、都は、症状が疑われる人は医療機関に相談するよう呼びかけています。
都によりますと、はしかの感染が確認されたのは都内に住む5歳未満の男の子です。
男の子は今月4日に発熱や発疹などの症状が出てその後、医療機関を受診し、詳しく調べたところ、11日になって感染が確認されたということです。
男の子は現在、入院していますが、快方に向かっているということです。
男の子には、海外への渡航歴があり、症状が出た前日の今月3日に足立区内の飲食店を利用していることから、都は、症状が疑われる人は医療機関に相談するよう呼びかけています。
厚労省 “必要な場合はワクチンの接種検討を”
厚生労働省は、母子手帳などで自分がはしかのワクチン接種を2回完了しているかどうかを確認したうえで、必要な場合はワクチンの接種を検討してほしいと呼びかけています。
はしかは感染力が非常に強いため、厚生労働省は、熱やせきのほか目の充血や発疹など、はしかを疑う症状がある場合は、公共交通機関の利用を控え、医療機関に事前に相談して指示に従ってほしいとしています。
また、海外から帰国後2週間程度ははしかの発症の可能性を考えて健康状態に注意するよう呼びかけています。
《はしかはどんな病気?》
はしかは、ウイルス性の感染症で、感染力が極めて強く、重症化したり死亡したりするケースもあり、警戒が必要です。
【感染経路:簡単に感染する】
はしかは、患者がせきやくしゃみをすることで放出された粒子にウイルスが含まれていて、それを吸い込み感染します。
空気感染のほか、飛まつや接触を通じて広がることもあり、感染力が極めて強いため免疫がない場合、感染者と同じ室内にいただけでほぼ確実に感染するとされています。
まわりの人に免疫がなく、感染対策がとられない場合、患者1人から何人に感染を広げるかを示す「基本再生産数」は「12から18」とされ、「2から3」ほどとされてきた新型コロナウイルスなどより、感染力は格段に強いとされています。
今回は同じ飛行機に搭乗していた人で感染が相次いでいますが、去年には、新幹線で同じ車両に乗っていた人で感染が確認されたほか、2019年には、大阪の商業施設でアルバイト店員の感染が確認され、売り場を訪れていた買い物客らに感染が広がったケースがあります。
【症状は:重症や死亡も】
はしかに感染したときに出る主な症状は、発熱やせき、発疹、目の充血などです。
感染症に詳しい北里大学の中山哲夫特任教授によりますと、熱は2日ほどでいったん下がったあと再び上がるのが特徴で、40度近くまで上がり、発熱は1週間ほど続くということです。
発疹は、症状が出始めてから数日たたないと出ないため、最初のうちは、はしかと判断しにくいこともあるということです。
さらに、感染による合併症として肺炎や脳炎が引き起こされ、重症化するケースもあります。
特に脳炎については、およそ1000人に1人の割合で起き、中には亡くなるケースもあります。
アメリカCDC=疾病対策センターによりますと、はしかに感染した子ども1000人のうち1人から3人は、呼吸器や神経系の合併症で亡くなるとしています。
【年月経て重篤な脳炎も】
はしかが治ってから5年ほどたって以降、10万人に1人の割合で「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という病気を発症することがあります。
SSPEは、感染したはしかのウイルスが中枢神経系に潜み、長い潜伏期間を経て発症します。
元気に暮らしていたにもかかわらず、急に日常の行動が出来なくなったり、異常な行動が目立つようになったりすることがあり、亡くなることもあります。
国立感染症研究所によりますと、はしかのウイルスに2歳未満で感染し、4年から8年の潜伏期間の後、6歳から10歳ごろに発症することが多いとされていますが、成人でも発症するケースもあるとしています。
【専門家「特効薬なく侮っていけない病気と認識を」】
中山特任教授は「はしかの最も重篤な合併症は脳炎で、初期症状は熱や発疹が出ているときに、もうろうとして呼びかけても反応しないような状況が続く。はしかは昔から『命取りの病気』と言われる。特効薬もなく侮ってはいけない病気だと認識してほしい」と話しています。
そして、感染が疑われる場合は必ず医療機関に連絡したうえで受診してほしいと呼びかけています。
《はしかの感染防ぐには》
はしかの特効薬はなく、症状に応じた治療をするしかないため、専門家はワクチンで感染を防ぐことが重要だとしています。
【小児の定期接種を確実に】
国内では、はしかのワクチンは、はしかと風疹を予防する「MRワクチン」を、「定期接種」として就学前の子どもが公費で接種できます。
「MRワクチン」は、「定期接種」として、1歳以上2歳未満のときに1回目、小学校入学前の5歳以上7歳未満の時に2回目を接種することになっています。
公費でワクチンを接種するには、決められた期間があり、
▽1回目は2歳の誕生日の前日まで、
▽2回目は小学校に入学する前の3月末までとなっています。
厚生労働省によりますと、昨年度のMRワクチンの接種率は、▽1回目では95.4%と過去10年で2番目に低く、▽2回目は92.4%と、過去10年で最も低くなりました。
日本では、2007年にワクチンを接種していない0歳から1歳の子どものほか、1回しか接種していない10代や20代を中心に感染が広がったことがあり、ワクチンに詳しい川崎医科大学の中野貴司主任教授は「対象となっている人は、忘れず接種してほしい」と話しています。
【実は接種していない人も】
中高年でも、感染を経験しておらず、ワクチンを接種していないか、1回しか接種していない人では、感染した場合は命にかかわることもあるとして、専門家は注意を呼びかけています。
日本プライマリ・ケア連合学会 感染症委員会ワクチンチームによりますと、現在50歳代以上となる1972年(昭和47年)9月30日生まれまでの人は、定期接種が始まっておらず、ワクチンを一度も接種していない可能性があるということです。
それ以降の生まれでも、20代半ば以上となる2000年(平成12年)4月1日生まれまでの人は、定期接種が1回のみだったため、免疫が十分ではない可能性があるということです。
【女性は妊娠前に】
妊娠している女性は、特に注意が必要です。
妊婦がはしかに感染すると、合併症のリスクが高いとされ、流産や早産の可能性も指摘されています。
ワクチンはウイルスの毒性を弱めた「生ワクチン」で、妊娠中に接種を受けることは適当ではないとされているため、妊娠を希望する人はあらかじめ接種を受けることが重要だということです。
【専門家「接種歴や免疫状態の確認を」】
感染症に詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は「母子手帳を見て自分の接種歴を確認したり、抗体検査を受けて免疫の状態を確認しておくことが大切だ。学校の先生や保育士など子どもと接する機会の多い人や海外に長期出張に出かける人などは、特に注意してほしい」と話しています。
世界のはしか感染状況は
日本では、子どもを中心にはしかワクチンの接種を進めた結果、2015年に、WHOから土着のウイルスがいない「排除状態」になったと認定され、国内で報告されるのは海外から入国したり、帰国したりした人が感染していたケースとなっています。
しかし、世界的には感染者がここ数年増加加傾向にあり、WHO=世界保健機関によりますと、去年1年間に世界で報告された感染者はおよそ30万人と前の年のおよそ1.8倍となっていて、中東地域やインド、インドネシアなどで特に増加しています。
渡航医学が専門で海外の感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授によりますと、新型コロナの感染拡大の影響で子どもへのワクチン接種が行き届かない国が増えたためアジアやアフリカを中心に感染が拡大し、その後渡航の制限が緩和されて人の移動が活発になるとともに先進国に感染が広がっているとみられるということです。
濱田特任教授は、アジアやアフリカでは子どもが中心に感染している一方、日本も含めた先進国では大人が感染することが多く日本では20代も感染していると指摘し、その理由としてこの世代ではワクチンを2回接種していない人が一定数いるためではないかと分析しています。
濱田特任教授は「海外に渡航する人や、海外から日本を訪れる人と接触する機会の多い人は、はしかに感染するリスクが高いと考えて、ワクチンを2回接種しているかどうか確認したり、十分な抗体があるか検査を受けたりして、必要があればワクチンの接種を検討してほしい」と話しています。