人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 【写真】人生で「成功する人」と「失敗する人」の大きな違い 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来の地図帳』は、20年後の日本人はどこに暮らしているのか? 人口減少が10年後、20年後の日本のどの地域を、いつごろ、どのような形で襲っていくのか? についての明らかにした書だ。 ※本記事は『未来の地図帳』から抜粋・編集したものです。また、本書は2019年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。 広島市の自然減はまだわずかで、出生率も全国より高水準。しかし、このまま若い世代が東京圏へ流出し続けると──。
広島市内でも大きな差が
私が広島市を訪れる際の楽しみの一つが、路面電車に乗ることだ。街の中を縦横に走っており、交通弱者が増える高齢社会においては魅力的な財産である。 人口は119万5846人(2019年4月末日現在)。広島県全体としては人口が減少傾向を辿る中、緩やかに増加を続けてきた。しかしながら、2017年に自然減に転じており、転換点に立っている。 広島県人口移動統計調査報告(2016年10月~2017年9月)によれば、広島市の自然減は64人で、まだわずかな数字ではある。しかも、広島市勢要覧(2017年)によれば、同市の2016年の合計特殊出生率は1.51で、全国の1.44より高水準だ。 だが、人口規模を維持するために必要な2.07には遠く及ばない。しかも住民の高齢化によって30代後半の女性数が大きく減ったことに加え、亡くなる人が増えてきたため、自然減が進み始めたということである。 それでも緩やかに人口増加が続いているのは、自然減を社会増が穴埋めする状況が続いてきたためだが、こちらも曲がり角にある。 総務省の「住民基本台帳人口移動報告(2018年結果)」によれば、2017年から転出超過に転じ、2018年は661人のマイナスとなったのだ。 なぜマイナスとなったのか? その背景を探るには、これまで広島市の人口を押し上げてきた転入者がどこから移り住んできていたのかを調べる必要がある。 広島市には「200万人広島都市圏構想」という計画がある。同市の都心部からおおむね60km圏内は経済面や生活面での結びつきが深く、山口県の岩国市や柳井市など県境を越えた市町を含む圏域全体での発展を目指す構想だ。 この圏域にある自治体を中心に人の移動が盛んであることが予想されるが、創生本部の人口移動分析概要(2017年)が具体的に数えている。 広島市への転入が最も多いのは、同じ広島県内の市町村だ(1301人の転入超過)。 広島市内でも人口増減には大きな差が見え始めている。日本政策投資銀行が2000年と2015年の国勢調査を比較しているが、総人口と生産年齢人口がともに増えたのは、中区と安佐南区に限られる。ほとんどの広島市内の区では総人口が増えたが、高齢化で平均寿命が延びたことが要因と見られる。 安佐北区や広島市の周辺市町では人口減少が進み始めていることを考え合わせると、広島市に隣接する市町を中心とした郊外から広島市への人口流入が進み、中心市街地を擁する中区や、新興住宅街として発展してきた安佐南区に多様な都市機能を集約させたことで、コンパクトシティ化が進み始めていることを窺わせる。
少ないパイの奪い合い
創生本部の人口移動分析概要に戻ろう。 続いて県外から広島市への人の流れだ。最も多いのは、一部の市町が「都市圏構想」に含まれる山口県で、460人の転入超過となっている。以下、島根県332人、岡山県142人、鳥取県83人である。 このデータからは、山口県だけでなく、広島市と他の中国各県(岡山、鳥取、島根)との交流が盛んであることが確認できる。 ただ、中国4県からの流入は思ったほどではなく、「磁力の弱い磁石」の印象である。広島市に力強い雇用の受け皿となる企業が少ないこともあるが、これらの県の多くは、もともと人口が少なく、集めようにも源泉が枯渇しているということだ。 しかも、岡山市、福岡市、北九州市といった他の政令指定都市へは、山陽新幹線で短時間で往来できる。平地面積が限られており十分な住宅地を確保しづらいことから、少ないパイの奪い合いに勝ち切れていないのだ。 周辺市町の人口が減少しきってしまうと、やがて広島市の人口は減少局面に転じる。 加えて、広島市の未来を大きく左右しそうなのが、東京圏への転出超過だ。 2017年は1704人となっている。むしろこちらのほうが、要素としては大きなインパクトを持つ。 広島県人口移動統計調査報告が、県全体の人口移動理由を分析している。広島市に限定したものではないが、大きな違いがあるとは思えないので紹介しよう。県外転出の年齢階級別では20~24歳が22.4%、25~29歳が15.7%で、20代で38.1%である。これに30代を加えると、20~30代で全体の57.2%を占めている。 これらの年代の転出理由は、「就職」や「転勤」を挙げる人が群を抜いて多くなっている。 15~19歳では「入学・転校」が1876人でトップだが、20~24歳は「就職」が6410人、25~29歳も1394人と、合計でこれを大きく上回る。県内の大学や専門学校などに進学しても就職時に東京圏などに出て行く人、あるいは一度は広島県内で就職するものの数年後に移り住む人が多いことを裏付ける数字だといえよう。 他の政令指定都市と同様に、若い世代の東京圏への流出は広島市における「子供を産める年齢の女性」の人数の減少に直結する。この流れを変えられないと、広島市の人口減少は加速しかねない。 しかも、先にも触れたように、広島市はすでに転出超過に転じている。周辺自治体の人口が減ってきているばかりでなく、こうした市町村の若者が広島市に職を見つけるのではなく、東京へ向かい始めていることも要因であろう。 ひとたび都市としての“ダム機能”に翳りが見え始めたら、仙台市よりも早く“広島パッシング”に陥ることだってあり得よう。 広島市勢要覧(2017年)は広島市を中心とした広島広域都市圏の人口が、2015年の231万3000人から、2040年に196万3000人と200万人を割り込み、2060年には159万9000人にまで減るという見通しを紹介している。 地域の核である広島市に、万が一にも「パッシング」が起こる事態にでもなろうものなら、「広島都市圏構想」そのものの見直しを迫られることになりかねない。