路線バスの減便・廃止などに直面する仙台市内各地で、新たな地域交通として乗り合いタクシーを導入する動きが相次いでいる。2024年度は秋保地区(太白区)が市内4例目の本格運行に移行するほか、4地区が試験運行に乗り出す。住民の移動手段を確保する取り組みが進む中、先行地域では利用が伸び悩む例も見られ、専門家は「地域に必要な存在に育て上げる努力が大事だ」と指摘する。(報道部・田柳暁)
地域交通の本格運行か、試験運行を実施する地区、導入を検討する地区は地図の通り。
10地区のうち、4月に本格運行を開始する秋保地区は町内会や経済団体、PTAの関係者らが19年6月、住民組織「秋保地区の交通を考える会」を設立。路線バスの段階的な減便、廃止が続き、バスが通る県道から遠い集落の住民の足を確保する必要性に迫られた。
考える会は21年1月から、予約に応じて運行する「ぐるりんあきう」の試験運行を重ね、運行する区域や時間を広げながら実現可能性を探った。23年度は今年1月末までに延べ約3500人が乗車し、紅葉の時季は観光客も使った。本格運行後は年間約5000人の利用を目標に掲げる。
考える会の及川純一会長(70)は「乗車の実績は順調。利用者数が落ち込まないよう努力を続けたい」と決意を新たにする。
市交通局や宮城交通が不採算路線を対象に減便や廃止に踏み切る状況を踏まえ、市は地域交通の導入を後押し。交通に詳しい専門家の派遣や運行経費の補助といった支援メニューを用意している。
24年度は田子・余目(宮城野区)、岡田・鶴巻(同)、六郷東部(若林区)、郡山・八本松(太白区)の各地区で試験運行が始まる。根白石・福岡など泉区西部も実現を目指す。
市地域交通推進課の担当者は「他の地域からも相談が寄せられている。地域に合った交通の在り方を一緒に考えたい」と話す。
「定着に向け利便性向上を」専門家指摘
21年度に市内初の本格運行を開始した燕沢地区(宮城野区)では課題も浮上する。
週3回、夏場は1日8便、冬場は6便が地区内を走るが、新型コロナウイルスの影響で乗客が当初の見込みを下回り、収支が悪化した。22年度から大人の運賃を1回200円から300円に引き上げた。23年度はコロナ前を上回る利用実績で収支は改善しつつある。
交通政策に詳しい東北工大の泊尚志(なおゆき)准教授(土木計画学)は「通勤や通学、通院、買い物など目的によって行き先は異なる。経由地を変更するといった利便性を高める工夫が常に必要だ」と強調する。
地域交通の利用者はお年寄りが多い。「普段は自家用車を使う世代を含め、地道に利用を促すことが定着につながる。補助金頼みのままでは、いずれ立ち行かなくなる」と訴える。