「中国とドイツ」日本がGDPを抜かれて悔しかったのはどっち?巷で聞いた意外な感想

日本の「GDP4位落ち」については、衝撃ながらも「想定の範囲内」と受け止めている人が多いように見える。実際のところ、その内心はどうなのだろうか。かつて中国にGDPを抜かれたときと今回では、その感想はどう異なるのだろうか。巷の意見を集めたところ、意外な側面が見えてきた。(フリーライター 武藤弘樹)

GDP4位転落の衝撃世間の人々はどう感じたのか

 2023年における日本の名目GDP(国内総生産)が、ドルベースでドイツに抜かれ、世界3位から4位へと転落したことが、巷で話題を呼んでいる。労働人口の影響を受けるGDPという指標で、人口の規模が約3分の2のドイツが日本を上回ったという点がインパクトを強めている。体の小さい方の力士(ドイツ)が大きい方の力士(日本)をぶん投げて勝ってしまったような格好である。

 2010年、日本はGDPで中国に抜かれて3位となり、そして今回の4位である。

 筆者は「日本は小さい島国ながらも世界トップクラスの経済大国」という事実を誇りに思う時代に育ち、まだその感覚は胸にあるが、現実を見れば、ことGDPランキングにおいては日本はジリ貧の様相を呈している。近い将来、最短では来年にも第5位のインドに抜かされるとの見通しもある。

 世間を賑わす「日本4位落ち」のニュースだが、今回の「ドイツに抜かれて4位落ち」と、14年前の「中国に抜かれて3位落ち」ではどちらが悔しかったか、あるいはそれぞれどのように感じたかを、世の中の人たちに聞いてみた。

 なお、専門的な見通しや分析は識者に譲るとして、この記事で紹介するのはあくまで一般人の感想であることをご理解願いたい。複数の考え方があることをシェアするべく数人の意見を紹介したあと、そこから見えてきたある発見について解説するつもりである。

悔しかった人、悔しくなかった人それぞれの理由

 まず、ある程度の結論から言うと「悔しい」と公言する人の割合は少なかった。では、「悔しい」という人はどのような理由でそう感じたか。

【中国に抜かされたとき】

・友好的な目で見ることのできない相手に負けたというのが単純に悔しかった。
・中国に対して多くの補助金(ODAなど)を費やしてきたのに、その補助している相手に上を行かれるという理不尽さと、それを許してしまう政府の不甲斐なさが悔しかった。

【ドイツに抜かされたとき】

・自動車製造対決で負けた気がして悔しかった。自動車製造業は両国の基幹産業と言えるので(※あくまで個人の感想です)。

 双方の国民感情について取り沙汰されてきている中国が相手になると、日本国民の思いも一筋縄ではいかないようである。一方ドイツ相手だと「いざ尋常に勝負して、その末に負けた」と冷静に悔しさを噛みしめることができているようだ。

 次に、「特に悔しくない」と考える人は多く、そこには様々な理由があった。その姿勢と傾向を見て、「負けを認めようとしていないだけだ。ただの現実逃避だ。負け惜しみだ」といった指摘も散見されるが、これについてはのちに触れるとして、ここではどのような「悔しくない理由」があったのかを見てもらいたい。

【中国に抜かされたとき】

・中国を、経済力だけでなく国として見たとき「豊か」とは言いがたいので、GDPで負けても国として負けたという気がしない。

・人口があれだけ多いので抜かされても仕方ないと思う。

・低価格な中国製の製品に我々の生活も大いに助けてもらってきている。(中国に抜かされた)当時はたしかに驚いたが順当な結果だったと思う。

【ドイツに抜かされたとき】

・ドイツはドイツで移民問題や物価上昇で大変なので、あまり羨ましいとは思わない。

・なんとなく親近感がある国なので、日本を上回ったというなら素直に拍手を送りたい。

・ドイツは優秀で技術力も高いので、納得の結果である(ドイツ車が好きな人談)。

 中国は地理的にも関係的にも近い分、日本人の中国に対して抱く思いの丈が生々しく、一方ドイツは遠いせいか、それ(日本人のドイツへの思い)がふわっとしているような印象を受けた。

「原因は日本にある」悔しくないという人が挙げる理由

 「悔しくない」と考える人の中で、GDPランキング変動の要因を中国・ドイツの外に見る人もいた。多かったのが「日本に原因あり」の考え方で、具体的な理由として、以下のようなものが挙げられた。

・最近の物価高

・為替、極端な円安進行

・政府の至らなさ

・GDP順位落ちに昨今の働き方改革が関係しているなら、それは喜んで然るべきだと思う。国としての生産性を向上させることより、個人が会社や仕事に振り回されない生き方をするようにできることを優先させたい。

 特に「政府が至らない」と考える人は「GDP抜かれても致し方なし」と半ば諦めている様子が見て取れた。

 また「GDPはそこまで重きを置かなくてもいい指標」といった見方もある。

 たとえば日本商工会議所の小林健会頭は、「4位落ち」が報道された際のニュースで”購買力平価”での比較が望ましいと話している。

 なお、巷にある意見・感想をここまでざっと、おおむね平たく紹介してきたが、数として多かったのは以下である。

・中国に抜かれたとき→中国は人口が多いから当然(悔しくない)。

・ドイツに抜かれたとき→この円安だから当然(悔しくない)。

日本経済が成長し再び活躍することへの期待

 さて、意見を拾っていく過程で同時に感じたのは、今後日本が成長していくことへの期待である。目下のところ、産業立国としてはかつてほどの勢いがなく、今ひとつ精彩さを欠いている日本であっても、その分野において世界で際立った存在感を示せる復権の日を、多くの人は夢見ているようである。

 特に関心が寄せられているのは自動車や半導体あたりで、そこでは政策主導のテコ入れが多く期待されている。

 その根本にあるのは「日本は優秀」という自国への信頼である。今回のGDPランキング4位落ちのニュースをきっかけに、「確かにGDPはドイツにまくられたけど、日本はまだこんなところが――」と、日本のポテンシャルを再発見させるような着眼点が、いくつも指摘されて出てきた。

 これは、その指摘通り、「客観的事実として判断したときにその通り(日本にポテンシャルがある)」ということもあるのだろうが、「日本だってまだ負けていない」という、プライドから来る奮起の意思表明にも思えるのである。

 様々な理由を挙げて「悔しくない」という人に対して、「それは単なる負け惜しみだ」という意見があることについて先に触れた。この「負け惜しみだ」という指摘には、当たっている部分もあると思うが、個人的には「まあまあ、本人が悔しいと思っているならいいじゃないですか」という気持ちである。

 負け惜しみを言うくらいの余地は残してあげたく、同国民に対してそれくらいの優しさ・寛容さを発揮してみたい。

※この立場も、「負け惜しみだ」と指摘する人がいてこそ成立するものなので、筆者だけいい格好をしようとしているわけではなく、要は「みんな不完全な人間同士仲良くやっていきましょうよ」といったところである。

SafeFrame Container

「強み」は産業からカルチャーへ日本人はプライドを捨てていない

 それにしても、今回の調査を通して知ることができたのは、日本人の自国へのプライドの高さである。

 思えば、一昔前のテレビを筆頭とした各メディアでは、日本の良さを再発見するコンテンツが人気を博するようになっていったし、近年世界の列強の中で産業立国として存在感を強く打ち出せなくなった代わりに、観光資源やマンガ・アニメ・ゲームなどのカルチャーが、「日本人が世界に誇れるもの」として感じられてきた。

 まだプライドを失っていない日本は、これからも「経済大国として」の挑戦を続けていくのであろうと予想される。

タイトルとURLをコピーしました