なぜ女性だけが「管理職になりたい」意欲を失っていくのか…その裏にある「思い込み」の正体

すべてのケアワークを妻に担わせ、ペイドワークに無制限に時間を使ってきた中高年男性が多くを占める現在のマネジメント層と、現場の〈共働き・共育て〉を志向するミレニアル世代では、ワーク・ライフ・バランスの感覚に大きな隔たりがある。

公益財団法人21世紀職業財団が行った大規模調査とインタビューでは、ミレニアル世代の「デュアルキャリア・カップル」(それぞれがキャリアを自律的に考えて形成し、仕事も家庭も充実させる夫婦)の本音が明らかになった。『〈共働き・共育て〉世代の本音 新しいキャリア観が社会を変える』(3月21日発売・光文社新書)では、特に表出することの少ない子育てする男性の苦悩、両立のための戦略、そして企業が取るべき対策を提案。本記事では本書の5章より、企業やマネジメント層の問題点を指摘する。【マンションの売却】今いくら?

住友不動産販売【マンションの売却】今いくら?

PR

※本記事は本道敦子・山谷真名・和田みゆき著『〈共働き・共育て〉世代の本音 新しいキャリア観が社会を変える』から抜粋・編集したものです。

※本記事内のインタビュー回答者はすべて仮名です。

保育園のお迎えは「母親の仕事」!?

「育児は母親がするもの」という固定観念を持っているのは、男性に限ったことではない。山口さん(女性・事務系・子どもあり)は、女性にも男性にも「お迎えは女性」という固定観念がある、ということも話してくれた。

「私たち自身にも、周りにも、固定観念があると思います。女性は、保育園のお迎えで早く帰るのが理解されますが、男性がお迎え担当で早く帰るという土壌がないのです。ダメとは言われないのですが、なんとなくそういう雰囲気があります。私自身は男性がお迎えで帰るとしたら素敵だなと思います」

PHOTO by iStock

PHOTO by iStock© 現代ビジネス

現状では、保育園のお迎えは圧倒的に女性が担うケースが多い。子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究(2022年)では、お迎えを週4日以上する女性59・3%、男性7・4%、3日以上女性72・8%、男性11・9%という結果が出ている。そういう状況を見ていると、人はそれが当たり前と思い込んでしまう。

最近は、ダイバーシティ経営を実行する企業も増えてきた。そうした企業で働く小野さん(男性・事務系・子どもあり)はこう言う。

「今までは、なんとなく、お迎えに行くのは女性、という風潮になっていました。しかし、ここ1~2年で『お迎えなので先に帰ります』という男性が増えてきました」

関連するビデオ: わたしらしく生きる 仕事と家庭両立の極意 (広島テレビ ニュース)

about:blank

Video Player is loading.

広島テレビ ニュース

わたしらしく生きる 仕事と家庭両立の極意

職場の風土も少しずつ変わっているという意見には勇気づけられる。

男性のようなきれいなキャリアが描けない

次は、アンコンシャスバイアスが女性の活躍機会を削ぐだけでなく、初期キャリアにおける育成の男女差を生んでいる例をみてみよう。原田さん(女性・技術系・子どもあり)は、同じ技術系の仕事をしている同世代の夫と比較して、「育成」について思うところがある。

「夫の方が、入社以来、キャリアを積み重ねている感じがします。異動して1か月の時も、バリバリやっているように見えました。夫を見ていると、会社として『この人はこういうふうに育てたい』というのがあって、キャリアが計画されているような、きれいな流れが見えるのです。一方、自分は場当たり的に異動したり、役割が与えられている気がします。私をどう育てたいのか、自分から上長に聞いたこともありました。私の異動は、プロジェクトが立ち上がったから異動、という印象。ゴールに向かって積み上げていくというイメージとは違うのです。自分の中で焦ってきています」

「女性はいつ妊娠・出産で長期に休むかわからない」と先回りして考えることで、「女性は長期の育成計画が立てづらい」といった思い込みにつながっているのではないか。原田さんの事例の場合、プロジェクトに任命されるなど活躍を期待されているものの、長期の育成ビジョンは立てづらい、と会社側が考えている可能性がある。

Photo by gettyimages

Photo by gettyimages© 現代ビジネス

女性に対してこのアンコンシャスバイアスがあることで、妊娠・出産にかかわらず全ての女性の育成が疎かになる可能性がある。初期キャリアの段階ですでに男女でのこういった育成の差があるとしたら、管理職を目指す気持ちが削がれていくのは当然の流れだろう。まさしく、社員をディスエンパワメントしている。

これからは、男性でも長期の育児休業を取得する人が増えるだろう。さらに、介護をしている人や病気治療中の人、その他、様々な事情のある多様な人と働くことが当たり前になってくる。定時に出社し、何よりも仕事を最優先にしてくれる社員を標準とした育成計画だけでは、立ち行かなくなる可能性が高い。「何よりも仕事を最優先にしてくれる社員=男性」という思い込みは、結局、多様な社員のモチベーションを削ぐリスクがある。8000本の研修動画が定額受け放題

Schoo8000本の研修動画が定額受け放題

PR

男性に期待される長時間労働

社員をディスエンパワメントする、もう一つの大きな要因として、「働き方」が挙げられる。アンコンシャスバイアスの事例にあった、早く仕事を切り上げる男性が負い目を感じるというのは、バイアスだけでなく、周りの人が実際に長時間労働をしているからである。ワーク・ライフ・バランスを確保するために、長時間労働は避けなければならない。

長時間労働について、村上さん(男性・事務系・子どもあり)は上司の行動がとても大事だと語る。

「上司は、年功序列の組織で仲間意識をものすごく大切にしているのだと思います。仲間意識を大切にすることは、チームワークという言葉に代表されるように、いい部分もありながら、弊害もあります。現に、上が帰らないと帰れないという悪い部分が出ています。上の人は帰らない教育を受けているので、帰っていいのかどうか、わからないのでしょう。そういう中では、強い意思を持っていないと帰れません。上が積極的に帰るべきだと思います」

Photo by gettyimages

Photo by gettyimages© 現代ビジネス

帰れるのに帰らないのは、上司の問題だけでなく、企業としても生産性低下を招く重大な問題になる。上司が受けてきた教育と現在の方向性が合っていないのであれば、企業は上司である人たちにきちんとした教育をしなければならない。

在宅勤務等の柔軟な働き方も、ワーク・ライフ・バランスを確保するため、夫婦がともにキャリアを形成するために必要だが、なかなか進まない現状がある。横山さん(男性・技術職・子どもあり)は、在宅勤務の現状と希望について、次のように話してくれた。

「在宅勤務制度はあり、デスクワークの人たちは活用していますが、この職場では機能していません。子育て世帯のイレギュラーな対応として、もっと充実させてほしいと思っています。子育て真っ最中の後輩には『(リモートワーク希望の)手を挙げてみたらどうか』と言っています。(自分が)育休を取った時もそうだったのですが、パイオニアは大変。戦わないといけない。みんなが取りだしたらいいのですが。はじめに、『リモートワークさせてください』と言うと、『なんで?』と上司に言われてしまいます。理論的に説明しないと承認を得られないのです。最初の人は結構大変なので、『それだったらいいや』となってしまいます」

後藤さん(女性・技術系・子どもあり)も在宅勤務しやすくなることを望んでいるが、上の世代の理解のなさに阻まれていると指摘する。

「在宅勤務にはほとんどなっていません。仕事柄、難しい面もありますが。おそらくコロナ後も、在宅がデフォルトにはならないと思います。そういう雰囲気がないのです。特に男性が子育てのために早く帰ったり、ましてや在宅勤務をしようとすると、子育てを全くしてこなかったバブル世代の人たちの人生を否定することになるので、理解が進まないのです」

Photo by gettyimages

Photo by gettyimages© 現代ビジネス

山田さん(男性・事務系・子どもあり)も、上司によって制度の使いやすさが左右されると嘆く。

「うちの会社はいろんな制度はあるけど、上司に忖度してしまうことがあるので、在宅勤務も上司が率先してやってくれると取りやすくなると思います。『やっぱりあの子は会社にでてこないな』、という目があるような気がします」

男性が長時間労働を期待され、在宅勤務もままならず、子育ての中心は妻であると思われがちな現状においては、”妻のキャリアは夫の職場次第” という問題が発生してしまう。職場の雰囲気一つで、社員の働き方やものの捉え方は大きく変わる。その雰囲気を作るのも変えるのも、企業の姿勢にかかっている。

タイトルとURLをコピーしました