東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被害を受けた岩手、宮城、福島3県沿岸部の被災者のうち、震災前と比べて暮らし向きが「厳しくなった」と感じている人が2023年の前回調査から4・9ポイント減り、23・3%だったことが、河北新報社とマーケティング・リサーチ会社マクロミル(東京)の共同調査で分かった。新型コロナウイルスの5類移行の影響とみられ、改善傾向が見られた。
[調査の方法]1月26~30日、マクロミルのネットモニター1466人(20~79歳の男女)から回答を得た。内訳は(1)被災3県沿岸部の被災者309人(2)被災3県沿岸部の非被災者220人(3)被災3県内陸部312人(4)青森、秋田、山形3県313人(5)首都圏(東京、埼玉、千葉、神奈川1都3県)312人。被災者は住まいの全半壊や一部損壊など震災や原発事故で何らかの被害を受けた人。仙台市は宮城野、若林区を沿岸部と見なした。
復興実感は「二極化」傾向
今回までの計5回の調査結果はグラフの通り。暮らし向きが「楽になった」との回答は、前回比1・9ポイント上昇し22・0%となり、被災者の復興実感は「二極化」の傾向が続く。「変わらない」は54・7%だった。
「厳しくなった」と回答した被災者からは「働く場所が少なくなった」「商店街がなくなり、活気がなくなった」「コミュニティーが消滅した」などの声があった。
一方、3県沿岸部の非被災者で暮らし向きが「厳しくなった」と答えたのは13・2%、「楽になった」は14・5%。回答者全体でも、それぞれ16・4%、15・6%で、被災者の方が厳しくなったと回答する割合が高かった。
被災者に暮らし向きを項目ごとに尋ねた設問では、「厳しくなった」と答えた割合が「仕事の確保」で前回比7・1ポイント減の20・4%、「地域住民同士の交流活動」で前回比8・5ポイント減の18・4%だった。いずれも、新型コロナの5類移行が影響した可能性がある。
被災地復興の満足度も分野ごとに聞いた。3県沿岸部の被災者では、「道路や鉄道など交通インフラ」の満足度が最も高く、「満足」「やや満足」と感じる割合が66・7%に達した。「満足」「やや満足」と感じる割合は「防潮堤整備」で45・6%、「高台移転や区画整理など住宅再建」で42・7%と続いたが、いずれも半数に達しなかった。
調査を分析した東京都立大の中林一樹名誉教授(災害復興・都市防災)は「住民同士の交流活動の項目が大きく改善した背景には、コロナの5類移行だけではなく、『交流の促進という課題が被災地には残っている』『市街地などの基盤整備が完了しても復興は終わっていない』という被災者の強い思いがあると感じる」と指摘した。
「震災の風化を感じる」は微減 能登地震が影響か
河北新報社とマクロミルによる東日本大震災に関する共同調査では、震災の風化実感についても聞いた。調査を実施したいずれの地域でも「風化を感じる」が2023年の前回調査より微減しており、1月の能登半島地震で震災が思い起こされた可能性がある。
首都圏で「風化を感じる」と回答したのは64・4%で、前回調査の70・2%から5・8ポイント下がった。23年は22年より7・1ポイント上がっていた。
岩手、宮城、福島の被災3県、東北全体でも同様の傾向で、「風化を感じる」はそれぞれ62・9%(前回比4・6・ポイント減)、60・9%(同4・6ポイント減)となった。
風化を実感する人が微減傾向となった一方で、語り部や伝承施設の体験・見学については「行ってみたい」と答える人の割合が減少した。
首都圏で「ぜひ行ってみたい」または「時間があれば行ってみたい」と答えた人の合計は前回比3・2ポイント減の44・2%、東北地方で同1・9ポイント減の44・9%、被災3県で同1・6ポイント減の45・5%だった。被災3県沿岸部の被災者は同0・6ポイント増の45・6%だった。
震災の教訓、被災者の43・3%が「生かせた」
能登半島地震に関連して、「国や被災自治体は、震災など過去の教訓を生かせていると思うか」と質問した。岩手、宮城、福島3県の沿岸部被災者の5・8%が「生かせている」、37・5%が「やや生かせている」と回答した。「分からない」は28・5%で、「あまり生かせていない」は20・1%、「生かせていない」は8・1%だった。
項目別の評価はグラフの通り。「津波からの避難」で「生かせている」「やや生かせている」が計59・2%で最も高く、「宿泊施設などを使った二次避難避難」(44・7%)、「避難所などでの医療支援」(42・4%)、「支援物資の供給」(40・1%)と続いた。「避難所の運営」や「ボランティアの受け入れ」は4割に満たなかった。
伝承施設への再訪を促す工夫を 東京都立大・中林一樹名誉教授
調査結果からは東日本大震災の被災者らが、報道などを通じて能登半島地震に注目していることがうかがえる。報道で、能登地震と震災の比較がされており、「震災は忘れられていない」と思った人もいたのかもしれない。
過去の教訓が生かされたと感じた割合で、項目別では「津波からの避難」の数字が高く出ているのは、NHKのアナウンサーの避難呼びかけも影響しているのだろう。特に被災した人たちは、切実な思いで教訓が生かされるよう願ったと思う。
次いで数字が高かったのは「宿泊施設などを使った二次避難」だが、内実が伝わっていないのではないか。地域単位での避難が実現していない事例が多く、被災者の孤立防止など課題は少なくない。
「支援物資の供給」や「避難所の運営」は震災時にも問題になった部分で、「もっとうまくできるのではないか」ともどかしく感じているのだろう。
風化実感が微減した一方で、震災の伝承体験をしたいと思う人が減少している。伝承施設などは、イベントなどを通じてリピーターを獲得する工夫が求められる。
マクロミルは21日午後6時頃、調査結果の詳細を同社サイトで公開します