宮城県や仙台市が宿泊税をなぜ導入しようとしているのか、また反対する人の理由は何かについてです。
6日、宮城県大崎市鳴子温泉にホテルや旅館の経営者らが集まり、県と仙台市が導入を目指す宿泊税について話し合いました。
参加者「(湯治客が)やっとお金をためて来て下さったのに、更にその(宿泊税の)料金を取っちゃうのはなかなか難しい」「どこかのコンサルにつくってもらったような計画を出して、金を取ろうというのが気に入らない」
鳴子温泉郷旅館組合5地区連絡協議会藤田謹一会長代理「鳴子温泉郷としましては、今回の県提案の宿泊税に関しましては大反対でございます」
鳴子温泉郷にある旅館組合の協議会は、宿泊税の導入撤回を求める要望書を近く県に提出します。
宿泊税はホテルや旅館などに泊まる人に宿泊料へ上乗せして支払ってもらい、地方自治体がその税収を観光振興などに使います。2002年の東京都を皮切りに、大阪府や京都市など全国9つの自治体が導入しています。
新型コロナが一段落した今、更に多くの自治体が導入を目指していて宮城県と仙台市も6月以降のそれぞれの議会に条例案を提出する方針です。
村井宮城県知事「今、一般財源で観光に充てられる予算は年に頑張っても5億円程度しかない。宿泊税を導入することによって2倍3倍になれば、観光振興のためにやれることが多くなってくる」
病院再編では対立する県と仙台市ですが、成長分野と期待する観光振興の財源については足並みをそろえます。
郡仙台市長「観光政策、ハードソフト両面で拡充すべきだという合意は得られている。
そういう意味では一定程度の財源は必要で、それを元に取り組みを強化していく」
現時点の案では、ホテルや旅館に泊まる人に1人1泊300円を課税します。
仙台市以外の宿泊分は300円全額を県が、仙台市の宿泊分は200円を仙台市が残る100円を県が受け取ります。
修学旅行の扱いについては調整中ですが、県と仙台市の合計で23億円ほどの税収が見込まれます。県と仙台市は、この税収を観光地としての魅力アップや外国語案内の整備など国内外からの観光客の誘致に使う考えです。
背景には観光面での危機感があります。市場調査会社の調査で「是非訪れたい」という人の割合は、仙台市は全国の主要19カ所のうち17位でした。
宿泊税を負担する観光客からは賛否の声が聞かれます。
観光客「金銭的にはちょっと学生にしんどいんですけど、(税収を使って)楽しみが増えるなら私は大丈夫です」「(税収を)どこに使うかを最初に明確にしてれば問題ないのかな」「地域が盛り上がるならいいですけど、マイナスの効果が出るならやめた方がいい」
賛否は観光関係者の間でも分かれています。仙台市の作並温泉にある、岩松旅館の岩松廣行社長は、物価の高騰により宿泊料を値上げしてきた環境の中で、新たな課税は客足に響きかねないと言います。
岩松旅館岩松廣行社長「やむを得ず(宿泊料の)価格改定をさせていただいている。新税投入によって吸収してくれというのは、まったく無理な話ですね」
一方、宮城交通の青沼正喜社長は「物価高で宿泊税は受け入れられやすくなっている」と主張します。
宮城交通青沼正喜社長「今後もインフレは続いていく。価格に対して税に対して許容が進んでいるのではないか」
東北で宮城県が先行すれば、観光客が周辺の県に流れるのではないかと心配する声もあります。
南三陸ホテル観洋阿部憲子女将「(東北6県で)宮城県だけがこういったことを進めていくことは果たしていかがかな。県境(の宿泊施設)の方は、隣りの県にお客様が流れないかとても心配している」
宿泊税は、導入するかどうかに加え仕組みづくりもそれぞれの自治体に委ねられています。中央の経済団体、経済同友会は宿泊税について「受益者負担で観光振興を進められる」と評価し、全国共通の仕組みを国が整え自治体に導入を促すべきだと主張します。
経済同友会伊達美和子副代表幹事「全国共通の基盤を先に整備してしまい、各自治体が取り入れることで早期に全国展開ができる」
これに対し、地方の活性化策に詳しい日本総研の高坂晶子主任研究員は、宿泊税の議論は地元の事情を踏まえるべきだと述べます。
日本総研高坂晶子主任研究員「賛成があり反対があり、導入をめぐる議論は単に時間がかかるだけの無駄な作業とは思われません(導入するなら)導入してまで財源を確保しなくてはならない事情は何か、はっきりさせることが大事」
山本精作記者
「宿泊税は全国的に注目が集まっています。観光客が多過ぎて住民から苦情が出ている地域がある一方、人口減少時代に観光客を増やして地元経済を支えようとしている自治体もあります。状況は地域によって違っていて、どれほどの観光客に来てもらいたいのか、目標達成のためにどのような施策が必要で費用を誰に負担してもらうのか、宿泊税をめぐっては地域の将来像を含めた幅広い議論が必要だと思います」