<地価公示>秋田・川反、仙台・国分町、福島・栄町…東北の商業地は回復傾向 コロナ5類移行で投資意欲拡大か

新型コロナウイルスの5類移行後、初めて公表された26日の公示地価は、繁華街や商店街に人の流れが戻ったことを反映し、東北の商業地の地価にも緩やかな回復傾向がうかがえた。

 秋田市の歓楽街「川反(かわばた)」がある大町5丁目の変動率は、13年続いた下落から横ばいに転じた。平野太郎不動産鑑定士は「コロナ禍で遠のいた客足が回復していることを受け、下げ止まりと判断した。新たな店舗展開の動きが出てくれば地価の上昇が期待できる」と見据えた。

 東北最大の歓楽街、仙台市青葉区国分町2丁目の2地点の変動率はそれぞれプラス1・1%(前年比2・0ポイント改善)とプラス2・4%(同3・4ポイント改善)で、共にプラスに転じた。国分町はコロナ前まで地価の上昇基調が続いた。西山敦不動産鑑定士は「路面店は埋まりつつあるが、夜の接待を伴う店はまだ回復していない」と分析する。

 福島市はJR福島駅東口に近い栄町がプラス1・2%と堅調さを維持した。駅東口の再開発計画は着工が見通せず、西口では大型店舗の撤退が決まったが、石田英之不動産鑑定士は「東西一体のまちづくりへの期待感が残っている。コロナ後の人の流れの回復も重なった」と指摘する。

 山形県の商業地の変動率は横ばいで、31年ぶりに下落傾向に歯止めがかかった。山形市は繁華街の香澄町、中心市街地の七日町が共にプラス0・5%。月田真吾不動産鑑定士は改善の背景を「隣接する住宅地の上昇に加え、コロナ禍が落ちついたことによる投資意欲拡大も一因」と説明する。

 盛岡市はJR盛岡駅前が前年を6・0ポイント、中心商店街の大通2丁目は1・8ポイント上回った。吉田勇光不動産鑑定士は「盛岡駅前や大通商店街で人の流れが回復しており、近隣でもマンション需要による土地取得の動きがある」と話す。

 青森県の商業地は下落幅が縮小。4月に新駅ビルが開業するJR青森駅前は上昇が続く。住宅地で最高価格の青森市浜田2丁目周辺は大型商業施設の撤退が明らかになっており、久保田聡不動産鑑定士は「今後価格に大きく影響してくると思う」と予想した。

宮城県の全用途は12年連続プラス 住宅需要堅調で上昇幅拡大

 国土交通省が26日公表した1月1日時点の宮城県内の公示地価は、全用途の平均変動率が12年連続でプラスとなった。仙台圏の住宅需要が堅調で、新型コロナウイルス5類移行により個人消費が回復しつつあることなどから、上昇幅が拡大した。一方で東日本大震災の被災地の沿岸部や人口減少が進む農村部では、地価上昇はほぼ見られなかった。

 県内の調査地点は都市計画区域がない七ケ宿、色麻両町を除く33市町村の575カ所。県全体の用途別平均価格と平均変動率は表の通り。全用途は4・7%で、前年(3・9%)を0・8ポイント上回った。上昇は住宅地が12年連続、商業地が11年連続。

 前回と比較できる継続地点562カ所のうち上昇は408カ所(前年比22カ所増)で、仙台市が約73%に当たる298カ所を占めた。下落は106カ所(34カ所減)で、うち102カ所が仙台圏以外の23市町。横ばいは48カ所(9カ所増)だった。

 用途別では、住宅地が上昇292カ所、横ばい36カ所、下落72カ所。商業地は上昇104カ所、横ばい11カ所、下落31カ所。工業地は上昇11カ所、横ばい1カ所、下落2カ所だった。

 市町村別の全用途平均変動率は、最大の富谷市が9・1%。仙台市が7・3%、利府町6・9%、多賀城市が6・8%、大和町6・7%と続き、仙台圏で上昇が目立つ傾向が続いた。

 全用途で下落率が最も大きいのは、川崎町の3・7%。南三陸町2・8%、気仙沼市2・7%と続いた。沿岸自治体は女川町0・8%、石巻市0・5%など。

 仙台市は全5区で上がった。最大は宮城野区の9・6%。若林区7・9%、泉区7・6%、青葉区6・6%、太白区5・9%の順となった。

 市内の住宅地(214カ所)は上昇211カ所、横ばい2カ所、下落1カ所で、商業地は全81カ所で上昇した。工業地は市街地近くに進出する物流施設が増えつつあり、全5カ所でアップした。

<住宅地>子育て世代中心に仙台圏が脚光

 26日発表の公示地価は、子育て世代を中心とした仙台圏での旺盛な住宅需要を反映した。特に、仙台市内と比べ割安感がある隣接自治体への関心が高い。北部(富谷市、大和町)だけでなく東部(多賀城市、利府町)、南部(名取、岩沼両市)に人気が拡散し、仙台市内の供給減少と合わせて活況を見せている。

 住宅地の上昇率トップ5のうち1、2、4位は富谷市が占めた。調査を担当した不動産鑑定士の西山敦さんは「新しい住宅団地も多く、市外から来ても地域に溶け込みやすい。商業施設や幹線道路へのアクセスも良く、価格上昇の波が来ている」と分析する。

 東日本大震災の被災地や人口が減少する地域では下落が止まらない。下落率の大きい10地点を大崎、気仙沼、川崎、南三陸の4市町で占め、9地点で下落幅が前年より拡大した。気仙沼市では、4地区での土地区画整理事業が長期化したこともあり事業者が張り付かず、空き地が目立つ。

 西山さんは「人口の流出や高齢化で需要減が続いていた中、大崎市鳴子温泉地区などでは新型コロナウイルスの影響がダブルパンチになり、立ち直れていない」と説明する。

<商業地>上昇率上位3カ所は仙台駅東口

 新型コロナウイルスの5類移行後、初めて公表された26日の公示地価は再開発を促す助成制度を背景に高機能オフィスの整備が進む仙台市とは対照的に、少子高齢化で人口減少が進む地域は下落傾向が続いた。

 県内の商業地で上昇率の上位3カ所はいずれもJR仙台駅東口で、18・8%の仙台市宮城野区榴岡4丁目(1平方メートル当たり139万円)、16・6%の若林区新寺1丁目(95万円)、14・5%の宮城野区二十人町(97万3000円)。調査を担当した不動産鑑定士の西山敦さんは「仙台駅東西自由通路の通行量は市内で最も多い。賃料水準は西口とほぼ同等」と説明する。

 公示地価の最高額は駅西口の青葉区中央1丁目の1平方メートル当たり458万円で、上昇率は4・6%。商業地価格の1~10位の顔ぶれは昨年同様だった。西山さんは「アーケード街で新型コロナからの回復にやや遅れはあっても、駅前とオフィスは安定している」と分析する。

 下落率の1位は大崎市岩出山の6・1%だった。西山さんは商店街で交通量も買い物客も減り商店が撤退しているとし「周辺の住宅地とほぼ同額の取引も見られる」と解説する

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