平均年収は756万円→1398万円に爆増…製造業なのに超高収益企業「東京エレクトロン」の儲けのカラクリ

日本株を牽引する7つの有力銘柄「セブン・サムライ」のひとつ、東京エレクトロンとはどのような企業なのか。企業アナリストの大関暁夫さんは「時価総額はトヨタ、三菱UFJに次ぐ国内3位、平均年収は1398万円の超優良企業だ。背景には『付加価値の高いビジネスモデル』と『業界内トップのポジショニング』がある」という――。

平均年収1398万円の「超優良企業」

東京エレクトロン(TEL)という会社をご存じでしょうか。半導体製造装置メーカーという一見地味な製造業であり、一般消費者には決して知名度が高くない企業かもしれません。しかし同社は、今年2月に時価総額でソニーグループやNTTを抜き、トヨタ、三菱UFJフィナンシャルグループに次ぐ国内3位となった超優良企業なのです。

さらに特筆すべきはその平均年収の高さです。2023年3月時点での平均年収1398万円(平均年齢43.6歳、平均勤続年数15.6年)を聞けば、サラリーマンなら誰もがうらやむ好待遇企業であると分かります。同社がなぜここまで好待遇の優良企業であるのか、その秘密に迫ります。賃貸物件を探すなら【SUUMO】

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まず東京エレクトロンの平均給与の推移ですが、2014年3月期に756万円だったそれは、18年に1000万円の大台を超えると(1076万円)、右肩上がりを続けて現在1400万円に迫るところにまで来ているのです。その伸びたるや9年間で約2倍弱。世の中が長期化するデフレ経済下で苦しみ、バブル経済崩壊後上がらない賃金が社会問題化している中で、そんなことなどどこ吹く風。このご時世に、高度成長期並みの給与の上昇カーブを描いているのは、脅威という他ありません。

1963年に「商社」としてスタートする

では東京エレクトロンとは、どのような会社なのでしょうか。まずはその歴史を紐解いてみます。同社は1963年、東京放送(TBS)の出資を受け、総合商社に勤めていた久保徳雄氏、小高敏夫氏によって創業されています。同社は当時の最先端技術であったIC(集積回路)に将来性を感じ、主に海外メーカーの代理店として拡散炉、リークディテクタ、IC製造機器等の納入・販売を手掛ける、商社でのスタートでした。

単なる商社ビジネスにとどまらず、差別化をはかるべく修理や機械の改良などのニーズに応えつつ技術的なノウハウを積んだことで、自社オリジナルの拡散炉を製造するに至り、70年にはメーカーへの第一歩を踏み出しました。

80年代に入ると、蓄積技術とノウハウを活かして、商社からメーカーに完全脱皮します。半導体装置製造という領域に特化し、世界への輸出にも踏み出します。さらに、より専門性を固めるために、半導体製造の「前工程向けの装置」に注力します。その結果、前工程4つの基幹工程のすべての製造装置を作る世界唯一の企業となり、90年代以降、業界に君臨する道を歩むことになるのです。

「トップクラスの世界シェア」を実現できたワケ

半導体業界というと、90年代前半まではNEC、富士通。東芝、日立といった日本の名門企業たちが世界のトップを占める日本のお家芸的領域でした。ところが、90年代半ばには米国に抜かれ、2000年代にはアジア勢にも抜かれて、今や米インテル、韓国サムスン電子、さらには台湾TSMCなどの後塵を拝することとなっていいます。

海外の各社は専業メーカーとして多額の技術開発投資を続けてきました。それに対して、日本の各社は総合電機メーカーであり事業の一部門としての取り組みであったがために、思い切った投資ができなかったことが世界から大きく後れをとった原因になった点は、各社が認めるところであります。【無料】欲しい人材をお試し検索

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このような中にあって東京エレクトロンは、半導体製造の前工程向け装置製造専業である強みを十二分に活かします。流れの早い業界にあっても多額の研究開発投資と設備投資を続けることで、日本の半導体メーカーと同じ轍を踏むことなく発展の道を歩んだのです。

結果的に半導体製造装置分野で2万件を超える特許を有し、前工程における成膜、リソグラフィー、エッチング、洗浄という4つの基幹工程、すべての製造装置づくりを手掛ける最先端ノウハウを持つ専門企業としての地位を確立。多くの製品群でトップクラスの世界シェアを誇っているのです。

価格競争になりにくいビジネスモデル

半導体製造機器に関しては、東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENホールディングスなどの専業企業が林立し、世界シェアは3割を超えてトップの米国に肉薄しています。そのような中で東京エレクトロンは2位のアドバンテストの約4倍の売上高をあげ、断トツの業界トップにあります。これにより、業界のプライスリーダーとして価格競争からは隔離された世界にあるわけで、この点はビジネスの収益性から見逃せないところです。

さらに、年間出荷機器台数約6000台の機器は、そのほぼすべてがオーダーメイドです。一度同社に発注した企業からすれば億単位の高額な機器を追加導入する際には当然先行導入機との相性検討に慎重にならざるを得ないという事情があります。すなわち、競合との価格競争になりにくいビジネスモデルである点もまた、収益性の確保に大きく寄与しているといえるのです。

このような業界事情の積み重ねもあって、同社は営業利益率で約30%という高い水準をキープしています。つまり、高額給与水準の源泉は付加価値の高いビジネスモデルと、業界内トップのポジショニングにあるといえるわけです。

半導体製造機器の市場は、右肩上がりの成長

半導体業界には3~4年ごとに好不況を繰り返す「シリコンサイクル」と呼ばれる特徴があります。半導体業界の好不況の原因は、その製造サイクルの長さゆえに需要の変動に合わせ機動的に供給量をコントロールしにくい、という問題でもあります。新たな機器の需要伸張時には半導体需要も一気に盛り上がるものの、その需要が落ち着いても生産ラインがすぐには止まらないために、供給過剰が起きて半導体不況が発生するのです。

しかし、半導体製造機器業界は、自動車関連やIT機器関連など次々と誕生する新たな製品向けの半導体製造機器需要が継続的に生まれています。そのため、半導体ニーズが続く限りにおいて「シリコンサイクル」とは無縁な一定ペースでの需要が期待できます。

しかも、特にこの10年においては、IT化やDX化進展の流れもあって半導体製造機器の市場規模は右肩上がりに成長して、年間1000億米ドルを超える規模にまで達しています。2025年には1240億米ドルが見込まれる(米SEMI)絶好調な状況にあるのです。このような市場の成長もまた、業界のリーディングカンパニーである同社の成長と給与水準の飛躍的な伸張を後押ししてきたわけなのです。

2015年、「新生TEL」として再出発を宣言

東京エレクトロンの給与水準がこの10年弱で飛躍的に伸びている理由として、以上のような市場要因とは別に、もうひとつ社内的な要因もあるとみられます。それは、同社も認める2015年の大きな転機となった出来事が関係しています。業界の世界首位である米アプライドマテリアルズとの経営統合断念という大事件です。

同社内は業界の巨人企業誕生に湧き立ち、経営統合に突き進んでいました。しかし、この計画は米独禁法の関係で、突如断念せざるを得ないという事態に転じてしまったのです。ここで社内が意気消沈することを懸念した経営陣は、経営統合による世界一を目指した社内エネルギーの振り向け先をつくるべく、大胆な中期経営計画と財務モデルを策定し、CIも導入しました。

「新生TEL」としての再出発を宣言して、社内を鼓舞したのです。同社のホームページにもこの年が新たなスタートであると明確に記されており、筆者はこの時のパワーがその後の東京エレクトロン再成長の大きな礎となったとみています。

生成AI開発でも大きな需要が見込まれる

2月にバブル経済期の最高値を超えた日本の株式市場ですが、米ゴールドマン・サックス証券がそれをけん引する7つの有力銘柄を、「セブン・サムライ(七人の侍)」と名付けて公表しました。トヨタ、スバル、三菱商事の大手3社と共に、東京エレクトロンはじめ半導体製造装置メーカー4社が選ばれた点は特筆に値します。

IT機器や自動車関連の半導体需要は依然として旺盛な状況が続く見通しであるのに加えて、俄然注目を集める生成AI開発にも半導体大きな需要が見込まれており、半導体製造機器業界は今や日本経済をけん引する存在にもなりつつあるといえるでしょう。東京エレクトロンにはその業界リーダー企業として、失われたバブル後の30年を取り戻すべく、引き続きサラリーマンの給与水準の引き上げをけん引していってほしい限りです。

———- 大関 暁夫(おおぜき・あけお) 企業アナリスト スタジオ02代表取締役。1959年東京生まれ。東北大学経済学部卒。1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門のほか、出向による新聞記者経験も含めプレス、マーケティング畑を歴任。支店長を務めた後、2006年に独立。金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。 ———-

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