地方に比べて私立が多く高校の選択肢が幅広い東京。「特色がある上、系列大学への入学も視野に入るため、地方に比べて私立志向の生徒・保護者は多い」(大手予備校関係者)とされる。教育無償化に向けた国の議論が停滞しているだけに、私立を含む全高校の授業料実質無償化を決断した首都の動きは際立つ。
一方、豊富な選択肢にひかれ都外から都内私立中高進学を目指す子供は多い。都内の私立高の生徒約18万人のうち、約5万人は都外在住。都の制度が対象を都内在住の生徒に限定していることから、不公平感を訴える声がある。
川崎市在住の40代の男性会社員は、長男を都内の私立中に通わせている。同じく都内の系列私立高への進学も視野に入るが「都の方針を耳にしたときは妻とともに喜んだが、都内在住に限られると分かりがっかりした」と話す。小学生の長女の私立中受験を検討している千葉県の30代女性は、「授業料無償化の対象になっていれば、通学費用を気にせずに都内に進学させたのだけれど」と漏らす。
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「行政としてはどこかで対象の線引きをせざるを得ない」というのは都の担当者。都の幹部は「そもそも国がやるべき施策を自治体が負っている」として、国会での速やかな議論を求める。
教育行政に詳しい千葉工業大の福嶋尚子准教授は「都内と都外在住での不公平感は確かに存在するが、一過性なのではないだろうか」とみる。一方で無償化はあくまで授業料が対象で、国も含め支援対象外の教材代や修学旅行費、通学費用といった「隠れ教育費」の負担は今後も続くため「私立に入学しても無償化の恩恵をそこまで感じられない人が多い可能性が高い」と危惧。入学後の「隠れ教育費」の概要を学校側が積極的に公表する必要性を指摘する。
また、所得制限撤廃でさらに私立に生徒が流れれば、都立高再編につながることも考えられる。福嶋氏は「都立高は所得など家庭の事情で私立に通えない生徒の受け皿になってきた側面がある。都立高再編でそうした生徒の選択肢が狭まるのは望ましい形ではない」と話している。