ドイツ人経済学者が解説 日本経済を世界4位に転落させた「自滅行為」とは

低成長を続ける日本経済が回復する兆しはなかなか見えず、世界3位を維持してきた名目GDPも2024年2月にドイツに抜かれた。欧州議会の顧問などを務める経済学者ダニエル・グローは日本経済低迷の原因を独自に分析し、欧州諸国に「同じ失敗をするな」と警鐘を鳴らす。 【画像】ドイツ人経済学者が解説 日本経済を世界4位に転落させた「自滅行為」とは 日本はもっと、よくなっていいはずだ。 労働者の教育レベルは高く、かつよく訓練されているし、社会全体としての投資額は多くの先進諸国を上回っている。たとえば日本における研究開発費はGDPの3.3%を占め、最近まで米国よりも高かった。にもかかわらず、日本経済は相対的に低迷しつづけている。 1980~90年代の日本は世界第2位の経済大国だった。その地位は、無敵とも思えた産業分野に支えられていた。ところがいまは世界第4位に甘んじている。人口1億2300万人の日本が、わずか8300万人のドイツに遅れをとっているのだ。 ではなぜ、日本経済は低迷から抜け出せないのだろう。それを理解するため、ビデオカセットレコーダー(VCR)の例を考えてみよう。

日本の「異常な数値」

精密な機械部品を必要とするVCRは、日本が誇る製造業の技術力を象徴する存在だった。欧米企業はその優れた品質や価格に太刀打ちできず、日本は世界のVCR市場をほぼ独占した。最盛期の1980年代半ばには、日本は何千万台ものVCRを生産・輸出し、その価格を高く設定することで大きな利益を得ていた。 だがVCRのアナログ技術は、1990~2000年代に広く普及したデジタル技術の前に廃れていった。VCRの利益は下がり、まもなく多くの企業が製造をやめた。現在、VCRを製造する企業は日本に1社も存在しない。 テープレコーダーやウォークマンなども同様の道をたどった。こうした家電は日本の輸出産業の要だった。だが半導体を使ったデジタル家電は、日本の強みだった高精度の技術力をもはや必要としなかった。 アジア各地で部品を製造し、中国で組み立て、米国がソフトウェアを提供するという生産スタイルのほうが安くつくようになると、日本の輸出品への需要は減りつづけ、その価格も下落した。 経済学者は一般的に、特定の国の輸出品の価格をそれ単独でみることはなく、輸入品の価格とのバランスで見る。この比率を「交易条件(輸出価格を輸入価格で割った値)」という。 日本の交易条件は先進国のなかでも異常な数値を示している。1980年代半ばには160%近くだったが2000年代前半に急落し、2008年には100%を下回った。同じ期間のEUと米国の交易条件はだいたい100%前後で安定しており、プラスマイナス10%以内という狭い範囲で推移している。それと比較すれば、日本の特異さがわかるだろう。 日本経済に対しては人口減少より、この交易条件の悪化のほうがずっと重大な影響を及ぼしている。たしかに日本の人口は高齢化し、縮小している。一方、1995年から現在までの米国の人口増加率は日本より25%高いだけだが、GDPの成長率は300%以上だ。 日本の生活水準は向上しているがそのペースは遅く、消費活動も他の先進国と比較すると総じて活発とは言えない。生活費の違いを考慮した上で国民ひとり当たりのGDPを比べると、米国に追随する欧州を日本が追っている。

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