バルト3国「次の標的」危機感、対露防衛線で連携…国境に施設建設で合意

 ウクライナ侵略を続けるロシアと隣接するバルト3国が、ロシアの「次の標的」になるとの危機感を強めている。3か国は、露軍の進軍シナリオを視野に防衛線の構築で連携するなど国境の守りを固めている。(ベルリン支局 中西賢司、ブリュッセル支局 酒井圭吾)

竜の歯

 エストニア、ラトビア、リトアニア3か国の国防相は1月、露軍地上部隊の進軍に備えて、ロシアとベラルーシ国境に防衛施設を数年かけて建設することで合意した。ロシアはウクライナで兵士と火力を大量に投じた地上戦を仕掛けており、今から準備が必要と判断した。リトアニア南部の国境地帯は、ロシアの飛び地カリーニングラードとベラルーシに挟まれた「スバウキ回廊」と呼ばれる。回廊は延長約100キロ・メートルと短く、有事の際には補給路遮断の軍事標的になるとの懸念がある。エストニアの国防相は「国境線の起点から領土を守る必要がある」と訴えた。

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 エストニアの公共放送によると、同国では6000万ユーロ(約98億円)をかけ、敵の攻撃を防ぐ塹壕ざんごう約600基を来年から建設する計画だ。1基35平方メートルで1個小隊が収容できるほか、「竜の歯」と呼ばれるコンクリート製障害物、地雷、有刺鉄線などを近くに保管し、有事に迅速設置するという。

不法越境

 バルト3国はいずれも1991年に旧ソ連から独立した。軍事力で併合を余儀なくされた旧ソ連の支配から脱した歴史があり、「帝国再興」の野望がにじむプーチン露大統領に対する脅威認識が極めて強い。

 反プーチン政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の側近が3月12日にリトアニアで襲撃された事件について、リトアニアの大統領は「ロシアの挑発行為」との見方を示した。

 バルト3国では既に、ロシアの同盟国ベラルーシを経由した移民の不法越境に悩まされている。ラトビアのエドガルス・リンケービッチ大統領は昨年12月、本紙の取材に、ベラルーシからバルト3国に直近だけで100人超の不法越境があったと明らかにした。

 リンケービッチ氏は「(移民は)モスクワからベラルーシまでの切符を渡され、送り出されている」と述べた。欧州では移民に反発する政治勢力が伸長しており、ロシアが欧州各国で政治混乱を誘発しようとしているとの認識を示した。

 2022年2月に始まったウクライナ侵略後、バルト3国はそれぞれ、国境管理の厳格化を進めている。エストニアは約130キロ・メートルに及ぶ陸上国境のうち、約60キロ・メートルにフェンスを設置した。ラトビアは年末までに現在約90キロ・メートルのフェンスを180キロ・メートルに延長する。リトアニアは対ベラルーシ国境の検問6か所のうち4か所を閉鎖した。侵略前にはカリーニングラード周辺に約45キロ・メートルのフェンスを設けていた。

サイバー攻撃

 サイバー攻撃にも身構えている。エストニアは07年にロシアによる大規模攻撃を受け、サイバー防衛の先進国になったが、ウクライナ侵略後、リトアニアの政府機関などを標的にしたサイバー攻撃が増えている。

 ロシアはウクライナに対し、サイバー攻撃など非軍事的な手段を組み合わせた「ハイブリッド攻撃」の手法を駆使した上で、侵略に踏み切った経緯がある。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアがウクライナを制圧する事態になれば、「次はラトビア、エストニア、リトアニアだ」との見方を示している。

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