かつてのUSBと言えば、HDDなどの接続に向いた高速なUSB 2.0と、マウスやキーボードを接続するための低速なUSB 1.1という、ごくシンプルな区分でしかなかった。コネクタ形状こそ複数あってややこしかったものの、この時点でUSBが分かりづらいと感じていた人は、ほとんどいなかったのではないだろうか。
しかしその後、USB 3.0や3.1の登場、さらにコネクタ形状が同一ながらスペックが異なり外観からは違いが判別できないUSB Type-Cの登場によって、ユーザーから見て非常に分かりにくい規格へと変貌してしまった。今やUSBという規格を隅から隅まで正しく説明できる人は、ほとんど存在しないと言っても過言ではないだろう。記事を要約する(AI)3行まとめ
ここではUSBのバージョン表記にまつわる、ユーザーとして知っておきたい知識について、最新の「USB4 Version 2.0」までを含めた、2024年夏時点でのまとめをお届けする。 技術面の細かい注釈は省いているため、詳しい人から見ると細かい点を省略しすぎていると感じられるかもしれないが、ユーザー視点を中心とした記事ということでご理解いただきたい。
記事目次
(1) 平穏だった「USB 2.0/1.1」の時代
(2) すべての元凶? USB 3.xの「Gen表記」
(3) 新登場の「マーケティング名」は事態を打破できるか
(4) 表記の混乱を反省しているかと思いきや……
平穏だった「USB 2.0/1.1」の時代
まずは簡単に、ごくシンプルだったUSBの表記がややこしくなるまでの経緯を振り返ってみよう。昔話が交じるので、現在の状況だけを知りたい人は、この章はスキップして次の章に進んでもらって構わない。
USBが登場するまでのケーブルは、抜き差しにあたってPCの電源をいったんオフにしなくてはいけなかったり、SCSIのように終端抵抗(ターミネータ)を接続しなければ動作しなかったりと、さまざまな制約があった。
そこに登場したUSBは、制約の少なさに加えて電源供給にも対応、さらにハブを使って分配できる利点もあり、従来のケーブルを瞬く間に置き換えていった。これが概ね2000年前後の話だ。
あらゆる用途に使われるようになったことで、より高速にデータを転送したいというニーズは当然出てくる。それ故、USB 1.1(12Mbps)に加えて新たにUSB 2.0(480Mbps)が登場し、HDDを始めとするストレージにも用いられるようになった。2008年に登場したUSB 3.0が普及し始めるまでの約10年あまり、このUSB 2.0/1.1を中心とした時代が続くことになる。
ちなみにUSBは転送速度の高速化と並行して給電能力も大幅に向上しているが、バージョン表記について説明する本稿では取り上げない。また「USB Standard A」や「USB Type-C」といったコネクタの形状も、USBのバージョンと直接的な相関関係はないので、こちらも詳しい紹介は別の機会に譲りたい。
USB Type-A/Cのコネクタ
おなじみUSB Aコネクタ。本来は「USB Standard A」という表記が正しいが、最近はUSB Type-Cとの対比で「USB Type-A」と表記されることも多くなった
USB Type-C。表裏のないリバーシブル形状が特徴。2024年現在、スマホに関してはかつてのMicro BからこのUSB Type-Cへの置き換えがほぼ完了したと言っていい
すべての元凶? USB 3.xの「Gen表記」
さて現在の「USB=さっぱり分からん」という風潮を作り出した“戦犯”は、USB 2.0がさらに高速化した、USB 3.0→3.1→3.2にかけての表記ルールの変更だろう。
このうち2013年に登場したUSB 3.1では、1つのバージョンの中に複数の転送方式が存在するようになり、それぞれ速度が異なることから、個別の表記が必要になった。これがそもそもの混乱の始まりと言ってよい。
ここでUSB 3.1の速度差を表すために採用されたのが、末尾に「Gen 1」「Gen 2」といった世代(Generation)を表記するルールだ。具体的には以下の表の通りで、たとえばUSB 3.1には、転送速度5Gbpsの「USB 3.1 Gen 1」と、転送速度10Gbpsの「USB 3.1 Gen 2」の2種類がある。
USB 3.1の転送速度一覧
USB 3.1は転送速度5Gbpsの「Gen 1」と転送速度10Gbpsの「Gen 2」が存在するが、Gen 1は従来のUSB 3.0の名前を変更しただけに過ぎない
ややこしいのは、このUSB 3.1の登場にあたり、それまでのUSB 3.0(転送速度5Gbps)の名前を「USB 3.1 Gen 1」に変更し、USB 3.1の中に含めてしまったことだ。呼び名をUSB 3.0からUSB 3.1 Gen 1に変更しても、すでに世に出ているパッケージやカタログの表記をすべて書き換えるのは不可能で、その結果、世の中に「USB 3.0」と「USB 3.1 Gen 1」という2種類の表記が混在するようになってしまった。
さらにそのあと、より高速なUSB 3.2が登場した時には、USB 3.1の時と同様にそれまでの規格を「USB 3.2のGenいくつ」へと変更する措置が取られたほか、データのやり取りを1つのレーンで行なっていたのが2つのレーンに増えたことを示すために「Gen 2×2」といった「x2」という表記を導入し、難解度はさらにワンランク上がってしまった。ユーザーは完全に置いてきぼりである。
USB 3.2の転送速度一覧
初出となるのは転送速度20Gbpsの「USB 3.2 Gen 2×2」だけで、後は従来のUSB 3.1が名前を変えただけだ
この結果、ユーザーはこうした表記が出てくるたびにネットで検索しなくてはならなくなり、現在にいたっているというのがこれまでの流れだ。
「USB 3.x」という表記ルールはこのUSB 3.2でストップし、このあと紹介するマーケティング名を採用したことで、従来よりも比較的気にしなくて済むようになったのが、唯一の救いと言っていいだろう。
ちなみに豆知識として知っておきたいのは「Gen 1はすべて5Gbps」「Gen 2はすべて10Gbps」といった具合に、「USB 3.x」の部分は無視して「Gen」の値さえ見れば、転送速度が判別できるということだ。これは単純に、従来の呼び名を変更する時、Gen xの部分はズレないように移し替えたことによるものだ。知っておくと役に立つこともあるだろう。
手っ取り早い速度判別方法
実はUSB 3.xの「x」の部分は無視し、Genの値だけを見れば転送速度は判別できる。ちょっとした豆知識だ
なおPC Watch編集部はこれまで、USB 3.0/USB 3.1を含む表記を用いていたのを、この2024年9月からUSB 3.2ベースの表記に改めたとのこと。メーカーでも現在多く採用されている表記ルールで、見た目にも分かりやすいだろう。具体的には以下の通りとなる。
従来および最新表記の比較
新しい表記ルールではUSB 3.2ベースの表記が用いられている
新登場の「マーケティング名」は事態を打破できるか
さて、現在もっとも新しいUSBである「USB4」では、過去の反省もあってかGen表記は対外的には表示されなくなり、「USB 20Gbps」など転送速度をそのまま表示する、マーケティング名なるものが定められた。
USB4ケーブル
「20Gbps」という転送速度と、「240W」という供給電力が印字されている。USBの規格策定を行なっているUSB-IFの認証を取得した製品はこの共通フォーマットを用いている
たとえば20Gbpsの場合、従来のUSB 3.2 Gen 2×2の可能性もあれば、新しく登場したUSB4 Gen 2×2の可能性もあるが、ユーザーにとっては速度さえ分かれば仕組みはあまり重要ではないため、対外的には速度を前面に出すようになったというわけである。ようやく利用者視点の表記ルールになったと言っていい。
またケーブルにも、これら転送速度を明記するルールが定められた。USBの規格策定を行なっているUSB-IFの認証を取得した製品は、この共通のフォーマットを用いているため、信頼の証とみなせるだろう。
USB4を含めたマーケティング名
「USB4 Version 1.0」については後述
もっとも技術的な話をするには、このGen表記が不可欠なケースもあるので、Gen表記自体が完全に消滅したわけではない。製品パッケージやメーカーサイトの製品ページなど、ユーザーが目にするところでは、これらマーケティング表記が主に使われるので、ユーザーとしてはあまり気にせず済むようになるというだけだ。
表記の混乱を反省しているかと思いきや……
……と、ここで話が終わればよかったのだが、実はすでに反故にされた約束もある。実はUSB4が登場した時点で、将来的に上位の規格が登場した場合も「USB 3.x」のような小数点表記はしないと明言されていた。これまでのような分かりにくさが解消されると、胸をなでおろしたものだ。
ところがその後、転送速度を80Gbpsまで引き上げたUSB4の新しいバージョンが登場するにあたり「USB4 Version 2.0」という新しい表記ルールが加わり、それに伴って従来のUSB4は「USB4 Version 1.0」という表記に変更されてしまった。 確かに小数点以下の表記ではないものの、実質的に「USB4.1」「USB4.2」と何ら変わらない上に、過去に遡って表記を変更するなど、完全にGen表記の二の舞である。
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この「USB4 Version 2.0」の命名の裏には、USB5を名乗るほどのドラスティックな技術的変更がなく、かと言って小数点以下の表記はいまさらしづらいといった理由が考えられるが、ともあれツッコミどころ満載である。最終的に前述のマーケティング名で「USB 80Gbps」と表記されるようになれば、直接目にする機会は減りそうだが、それにしても、といった感はある。
このあたり、規格を策定しているUSB-IFが根本的に理解していないのか、それとも分かっていながら意思を統一できない状況にあるのかは不明だが、過去の混乱を反省しているように見えて(実際しているのだろう)、にも関わらず行動が伴っていないのは、ある意味でショッキングだ。今後また同じような混乱が繰り返される可能性は少なくないだろう。
ともあれ、筆者は2022年に執筆した本稿の前バージョンで『黒歴史とも言える「USB 3.x」が過去のものになり、本稿のような解説記事もまた不要になっていることを願いたい』と結んだのだが、道は予想以上に険しそうだ。現状ではひとまずマーケティング名の浸透と、ケーブル本体への速度の印字が広まることを期待するしかない。