YouTube激変で赤字転落「UUUM」 背景に「損したくない」Z世代の感情?

 YouTuberのマネジメントを手掛けるUUUM(東京都港区)が過去最高の赤字を計上した。2023年5月期通期の売上高は230億円(前期比2.1%減)、営業損益は1億9000万円の赤字(前期は9億7100万円の黒字)、最終損益は10億5300万円の赤字(同4億4800万円の黒字)に転落。減収の要因の一つは、YouTubeショートの再生回数増に伴い、それらを除く長尺の動画の再生回数が当初の想定を下回ったことだ。

UUUMの公式サイトより

 YouTubeショートとは、最大60秒までの縦型の動画。いわばYouTube版のTikTokだ。主に若年層がタイパ(タイムパフォーマンス)を重視するようになり、長尺のコンテンツを敬遠する傾向にある。そのあおりを受け……いや、そのような風潮を生み出した要因そのものかもしれないが、TikTokのように短尺で完結するコンテンツの需要が高まっている。

「損したくない」Z世代の感情が影響?

 動画配信サービスが普及し、われわれの周りには動画コンテンツがあふれている。「動画配信ビジネス調査報告書2022」(インプレス総合研究所)によれば、28.9%が3カ月以内に有料の動画配信サービスを利用したと回答。15年の同調査では7.7%だったので、7年間で約4倍に増加した。「21年度動画視聴に関する利用実態調査」(MMD研究所)を見ると、10代、20代のおおむね7割が動画視聴サービスを利用していることが分かる。

 膨大な数の動画があるので、動画配信サービスはタイパを追求できる機能を提供している。例えば、YouTubeやNetflixには倍速視聴機能が付いている。

 YouTubeに限っていえば、動画投稿主がチャプター機能を使えば、視聴者は動画の流れをチャプターで事前に把握可能だ。また、動画のコメント欄や概要欄にある再生時間指定(「3:05 ここおもしろすぎ」のようなコメント)を使えば、その動画のハイライトに簡単に飛べる。プラットフォームの機能が、動画の消費効率を高めているといえるだろう。

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クロスマーケティング「動画の倍速視聴に関する調査(21年)」によれば、全体の34.4%が倍速で視聴したことがあると回答している。なかでも20代は49.1%とほぼ半数が倍速視聴の経験があった

 このようにコンテンツが多く、手早く消費する手段も整っているからこそ、1本当たりの動画にかける時間は短くなっていく。しかし、いくら投稿される動画が短くなろうとも、ハイライト機能で視聴すべきところが分かったとしても、実際に面白いか分からない動画を再生し、だらだらと視聴した結果、面白くないと感じた場合、消費した時間は無駄だったという評価になる。

 特にZ世代をはじめとした若年層は「欲求を満たしたくとも全ての欲求は満たせない」と理解しているからこそ、支出したコストに対して高い効用を求める。Z世代のいう「損」とは、従来の費用対効果に見合わない消費結果に加えて、他の消費機会を奪われたこと(機会損失)や、自分が一切関与していなくとも他人が得をしている状態も指す。

 「こんなつまらないモノを消費しなければ、他に楽しいものが消費できたかもしれないのに」「皆はタダでもらっているのに、私は定価で買った」といったように、実際に損失が生まれていなくても、マイナスの感情を避けたいと考えており、損を回避することが消費を決定付ける大きな要因になっている。

 このような背景から、YouTube動画よりもショート動画のように手短に終わり、かつ動画が大して面白くなくともさほどダメージのない、短尺動画の方が心理的負担が少ないともいえるわけだ。実際、UUUMでも直近の3~5月にかけては、ショートの再生数が通常の動画の再生数を上回る水準にまで増加したという 。

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ショートの再生数は増加傾向=UUUMの決算説明資料より

 YouTubeショートは「見るつもりはなかったけれど、惰性でだらだらと見れてしまう」という特徴から、スキマ時間に動画を見る層を獲得しやすい側面もある。少ない労力で作成でき、バズることも多々あるため、登録者数の少ないYouTuberがショート専用の動画投稿に力を入れるようになった。

 しかし、自身のチャンネルで配信している普段の動画とショート動画に、必ずしも親和性があるわけではないため、「ショートの動画は見るが、普段の動画は見ない」という登録者も少なくない。YouTubeショート動画だけに力を入れると、チャンネル登録者数が増加したのに、収益がほとんど変わらないという現象が起きてしまう。

YouTuberや事務所は今後どうする

 タイパ志向に基づく短尺動画の需要はますます拡大していくと思われる。現状、多くの有名YouTuberが、数年前と比較すると同じような企画をやっているはずなのに、動画再生数が伸び悩んでいる。特定の事務所、特定のYouTuberに限った話ではなく、YouTuber全体の問題といえるかもしれない。

 一方、ヒカキンさんが今年1月に投稿した動画「YouTubeチャンネルの収益が下がっているのか検証」によると、1200万回再生以上のヒット動画を連発させていた20年に比べて、22年の収益は上昇していたと語っている。ヒカキンさんは、要因として広告単価の上昇と1再生数当たりの収益の増加を挙げている。逆境をものともせず、収益が増加しているヒカキンさんがいるのも確かだが、UUUMのように一部のトップクリエイターのアドセンス(YouTubeから受け取る収益)頼みの構造になっている事務所は、稼ぎ頭が失速すると大きなリスクになる。

 かといって、YouTuberが自身で企画したグッズなど、P2C(Person to Consumer)商品を展開し、ファンの応援消費を喚起するブランド戦略は、視聴者層の経済力に左右される。人気YouTuberのファン層は若年層が多いため、過剰なグッズ販売は負担が大きい。

 アドセンスやグッズに頼らずとも収益を伸ばすには、「芸能人と同様、YouTuberはインフルエンサーの位置付けであり、事務所にとっての商品である」ということを再認識することにあるだろう。ベネッセコーポレーションが昨年12月に発表した「小学生がなりたい職業」は、YouTuberが3年連続で1位だった。YouTuberというインフルエンサーが、現代のコンテンツ市場で大きな影響力を持っていることは言うまでもない。YouTuber事務所は、自社の看板であるYouTuberを活用し、いかにしてインフルエンサーマーケティングの領域を開拓、拡大していくかが求められるだろう。

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