ZOZOTOWN「ツケ払い」で新たなる消費者金融問題が勃発

女性モデル紗栄子との交際が伝えられたり、3億円で買った車が事故るなど派手な話題を振りまく事業家・前澤友作さん率いる新興ネットショップ「ZOZOTOWN」。最近になって、そのZOZOTOWNの成長を支える一角が、「ツケ払い」という名のローン事業であることでにわかに騒がしくなっているわけですよ。ツケ払いって言われるとずいぶん古典的で懐かしい商売のようにも見えます。


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利用する人に金融リテラシーがあるとは限らない

ついにはこのツケ払い、テレビコマーシャルも始まりましたけど、結論から言えば未成年者に事実上親の承認なく2か月後に支払いをさせるこのツケ払いサービスは、手数料(金利)を払う形のローン以外の何物でもないんですよね。いったい、このローンは誰を念頭に置いたサービスなのでしょう。決済上限が「5万4千円」という微妙な金額を見ても、5万円ですら2か月先に支払いを先のべしたいと考える、あまりお金のない利用者を想定していることが分かるんで、売り物になっている「リアルタイム与信」がスマホ上で完結するのも一時期流行した消費者金融の無人契約機を彷彿とさせます。

しかも、このツケ払いのサービス元となっているGMOペイメントゲートウェイ社(以下、GMOPG社)がクレジットカード番号を72万件流出させてしまうという不名誉な事件を起こしたりしています。もうちょっと丁寧に個人に関する情報を取り扱ってほしいと願うところですが、それ以上に消費者問題勃発の香りを感じさせるのは、この「2か月後のツケ払いを支払えなかったらどうなるのか」が規約その他では明記されていないという点です。しかも、このツケ払いでは支払先はZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ社ではなくGMOPG社の連結会社であるGMOペイメントサービス社(以下、GMOPS社)が窓口となっており、支払う手数料324円もこのGMOPS社が相手になっています。つまり、ユーザーはZOZOTOWNで買い物したと思っても、代金はGMOPS社が先に支払っていて、後からユーザーはGMOPS社に弁済するというスタイルなわけですね。もちろん、ツケ払いを実施するまでに利用規約に合意することになっていますが、果たしてこの仕組みをしっかり分かって契約している人がどれだけいるのか分かりません。なんてったって、目先の5万円の支払いができなくてツケ払いする人たちにそういう金融リテラシーがあるとは限らないわけですし。

一方、ネットでの騒ぎの広がりを見た前澤友作さん、自身のTwitterでは「キャッシュアウトが先送りされることで、キャッシュフローの改善につなが」るとしたうえで、一部でスタートトゥデイが貸金業に進出したというような批判にはあたらないと愚痴っておられました(現在はツイートを削除)。お客様がワクワクしながら洋服を探して買ってくださった2か月後、そのツケ払いの督促を他社の金融業者にやらせるその姿勢、とても素敵です。

なぜ消費者金融問題は起こり続けてきたのでしょう

見方によっては、このツケ払いで最高5万円という転んでもそこまで痛くない金額で失敗して、「ああ、これはいけない。ローンは恐ろしい」と反省して「借金や後払い系の金融サービスに手を出すのはやめよう」と思ってくれれば、それは勉強料かなと思うわけです。しかしながら、勉強料を支払ってもなかなか人間の行動を変えられないのは、レンタルビデオ屋でついうっかり返却遅れてバカ高い延滞料取られてもまた返却忘れてしまう経験を持つ読者であればお分かりいただけると思います。ズボラな奴はいつまでもズボラなのです。そして、いまカネはないけど商品が欲しいと思う人は、原則として常に金銭の自己管理に問題があるのであって、一度や二度の失敗では自分の欲望を抑えられないから消費者金融問題は起こり続けてきたのでしょう。自分の収入以上にモノが欲しくなる性分の人がいるのは分かりますし、いまはカネがないけど2か月後は何とかなると思ってしまう人はいつまでもお金が貯まらず貧乏であり続け、そういう人相手のビジネスは常に存在するのです。


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もしも本当にどうしても欲しい品物があって、2か月後払いをするというサービスを検討するのであれば、あまり望ましくないことでしょうがクレジットカードの分割払い(2回)をすることで手数料なく支払いをすることができます。この辺は最低限の金融知識だと思いますが、某デパートのカード商法や、クレジットカードのリボ払いのように、金銭的に細かい勘定のできない人に欲しそうなものを見せつけて後払いさせ、割高に買わせることで利益を上げるのが商売とするならば、消費者金融同様に今回もまた世間から手痛いしっぺ返しを食らうことになるのでしょう。

「これこそ未来のフィンテックや!」と騒ぐのには頭を抱えます

ネットを使ったサブプライムローン、つまりは支払い能力がそれほど高くなく、金融リテラシーも低くてクレジットカードを作れない層に5万円を限度額とするローン事業をやる片棒をZOZOTOWNは担いでいることに他ならないわけです。でも、おそらく利用者が多いと見込んだからテレビコマーシャルを放映するまでに踏み切ったのでしょう。つまりは、事業者としてこれはペイすると見込んだことになります。ざっと見て、月間10万人以上の利用者がいるぞ、将来的にも増加が見込めるぞということですね。


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これはもう、お金に対するリテラシー教育をどうするかというところに尽きると思いますし、心理的にもマシュマロテストのような「目の前にあるマシュマロ1個を食べるか、いま我慢して、もらえると宣言されているマシュマロ2個を手に入れるか」という人間の本質に迫るものなんだろうなあと感じます。

ところが、この古来からあるサブプライム向けのローン商法を見て、どこぞの経済人たちが「これこそ未来のフィンテックや!」と騒いでいるのには頭を抱えます。フィンテックとはビッグデータ時代の金融技術のことでして、もちろん組まれるローン1件あたりの金額は小さいからそこまで問題にはならないと思っているのでしょう。でも、ちゃんと与信をやるにはハードルがあります。その電話番号の利用履歴やカード利用状況などを照会できる、個人に関する元データがなければいくら”最先端の”フィンテックでもその人の信用状態をなかなか確認できません。名前と住所と電話番号を入力させるだけのようですが、それにアカウント情報を紐づけたら与信データにできるフィンテックがあるはずもなく、独自で集めた個人に関する情報以外のモノでも組み合わせているのだとすれば文春砲では済まない激震になるんじゃないかと思ったりもします。

なにしろ、そのGMOPS社の親会社であるGMOインターネット社は、2005年の信販会社オリエント信販の買収とその後の過払い金訴訟の過程で処理に地獄を見てきた会社です。社長の熊谷正寿さんも、自腹でGMOインターネット社を支えてどうにか切り抜けるわけですけど、信販会社やサラ金からネットの小口金融で古典的な債権ビジネスへ自前で進出するようになるとは思いませんでした。


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経済とは「情報を持つ者が持たない者から搾取する仕組み」でもある

ネット全盛期になっても、この手の金融商売というのは古典が生きている世界であります。

不動産にせよローンにせよ、経済というのはある種の「情報を持つ者が持たない者から搾取する仕組み」であることが宿命づけられていると思うんですよね。それでも、安心して生きていくためには、情報を持っていない人でもそこまで馬鹿を見ずに心穏やかに生きていける仕組みを作らないと駄目なんだろうなあ、それを諦めては世の中良くはならないんだろうなあと強く感じる次第です。私らがだらしないと、次の世代がツケ払いをすることになりますからね。

(山本 一郎)

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