今から1800年ほど前の中国大陸で魏、呉、蜀が覇権を争った三国時代。日本でも劉備、曹操、孫権らが登場するこの時代は「三国志」として親しまれ ている。しかし、中国では三国時代などを題材にした日本のアニメやゲームが伝統的価値観を崩壊させてしまうとの指摘が出ている。日本のアニメやゲームの文 化が中国人青年を“洗脳”し、自国の歴史への「正しい認識」をゆがめてしまうというのが彼らの主張だ。支配秩序を乱す恐れがあるという観点から中国共産党 に狙い撃ちされる日本のアニメも出始めた。
■「5000年の歴史を持つ大国のメンツは!」と憤慨
中国メディアの騰訊網は 4月11日、「文化侵略?日本のアニメ・ゲームが『三国』に対する認知を破壊した」と題した記事を掲載した。記事は日本のアニメやゲーム業界で三国時代を 題材にした作品が次々と出ていると指摘。「史実に基づかない多くのシーンが、中国の若者の頭に浮かぶようになった」と現状を説明したうえで、「われわれは すでに、日本のアニメ・ゲーム文化によって洗脳された世代の人間なのだ」と嘆いた。
記事は三国時代をテーマにしたアニメやゲームとして「一騎当千」「龍狼伝」「SDガンダム三国伝」「恋姫†無双シリーズ」など取り上げ、「中国の古典名著が異邦人によって書き改められている。5000年の歴史文化を持つ大国のメンツはどこにあるのか」と憤慨してみせた。
■中国社会にすっかり浸透した日本のアニメ
中国の古代をテーマにした日本のアニメやゲームは多く、秦の始皇帝の死による大乱から漢王朝樹立への道を描いた「項羽と劉邦」、宋の時代を舞台に宋江(そ うこう)ら108人の豪傑が活躍する「水滸伝」、戦国時代にやがて秦の始皇帝となる秦王・●(=亡の下に口、下に月女迅のつくりを横に並べる)政(えいせ い)と、大将軍を目指す少年・信(しん)の活躍を描く「キングダム」など枚挙にいとまがない。
中国ではテレビの普及とともに1980年代 以降、日本からさまざまなアニメ番組が輸入された。「一休さん」、「ドラえもん」、「ドラゴンボール」、「聖闘士聖矢」など日本国内でもおなじみの作品を 中国の子供たちは観て育ち、その作品は今はすっかり大人となった中国人の脳裏に刻み込まれている。2000年以降はインターネットで作品の配信も行われる ようになり、日本のアニメやゲームは中国社会に大きな影響を与えている。
■危機感募らす習近平政権が日本アニメを“攻撃”
騰訊網が記事の中であらわにした危機感は、中国社会の中に日本のアニメやゲームの文化がすっかり根付いてしまったことを逆に裏付けるものだが、こうしたなか習近平政権は日本のアニメやゲームなどを狙い撃ちし始めている。
昨年6月に上海で開かれ国際映画祭に合わせて日本の作品が紹介されたが、日本国内でも人気が高い「進撃の巨人」は上映できなかった。この時は、その理由が 明らかにされなかったが、中国文化省は映画祭に先立って、「進撃の巨人」や「寄生獣」など38作品のリストを公表。インターネットでの配信を禁止する措置 を取っており、この影響を受けたとみられている。
38作品をリスト化した表向きの理由は「未成年者の犯罪や暴力、ポルノ、テロ活動をあおる内容が含まれる」というものだが、中国政府や共産党の見解を額面通りに受け取るような人はよほどのお人好しだろう。
■「ドラえもん」にまでかみつく
人間を捕食する「巨人」が支配する世界で、築いた壁の内側で戦きながら暮らす人類がやがて「巨人」との戦いを決意する「進撃の巨人」は、中国共産党の支配 力が着実に浸透している香港に重ね合わせることもできる。巨人=中国共産党であり、人類=香港の人々という具合に。「進撃の巨人」は世界中でファンを獲得 したが、香港でも大きな反響を呼んだ。
昨年春には北京テレビが「名探偵コナン」を取り上げ、「アニメ作品の旗を掲げた、あからさまな犯罪 の教科書だ」と批判。また、2014年9月には成都市共産党委員会機関紙の成都日報が「ドラえもん」にかみついた。成都日報は「ドラえもん」が2020年 東京五輪招致の際に招致スペシャルアンバサダー(特別大使)に就任したことなどに触れ、「ドラえもんは国家としての価値観を輸出し、日本の文化戦略で重要 な役割を果たす」と主張。むやみに親しみを持たないように呼びかけた。
これだけ中国政府や共産党が日本のアニメやゲームの文化に対して警戒感と敵愾心を示すのは「たかがアニメやゲーム」と侮れない発信力があると認識している明らかな証拠だろう。