新卒3人入社、このバカを採ったのはどこのバカだ?

 桜にはまだちょっと早い春だった。今日は朝から見慣れない奴らが来ている。そういえば新卒を採ったとは聞いていた。目の前にいるのは。金持ちそうなデブと、単なる現代っ子、それと水商売風の茶色の髪のオネーサンである。
 9時を過ぎ社長が出動して来てやっと朝礼が始まった。各自自己紹介を終えて席に着いた。デブは渡部といい、現代っ子は村山といい、水商売風の女は野又というそうだ。なんかしょうがない奴らであった。三人はとりあえず空いている席に座らされた。
 突然、社長が部長たちを呼び、会議が始まった。そうなのである。社長は採用したのはいいが、どこの部に配属するかなど、何ひとつ決めていなかったのである。きっと、部長たちに至っては、新卒を採ったことなど何も聞かされていなかったに違いない。
 また、始まったと僕は思った。この会社の特徴で、いきあたりばったり。
 突然、羽貴君が社長室に呼ばれた。羽賀君は根掘部長のもとで新田自動車の中古車を担当している、ちょっと自閉症ぎみの男性である。会議が終わり、社長室から全員出て来た。突然羽賀君が机を片付け始めた。なんと、転部だそうである。羽貴君は根掘部長のもとから180度方針の違う三上部長のもとへと移ることとなった。勘のいい人たちには、あからさまに退職を迫られていることは明白であった。単なる嫌がらせであろう。
 こんな騒動の後、新人たちの配肩先が決まった。渡部と野又は根掘部長のところへ、村山は三上部長のところへと。
 僕は仕事の関係上、根掘部長の所とは関係が深く、渡部、野又とはその日のうちに一緒に仕事をすることとなった。話して行くうちに渡部は単なる金持ちの息子で、親の会社を継ぐのがいやだからここを受けたと言う。そして、ボンボンに育てられているので、先輩もあったもんではない。先が思いやられる。
 さらに野又である。根っから水商売のオネェーちゃんになるために生まれて来たような性格である。もう、男に上手に媚びる。水商売が大嫌いな僕にはとても耐えられる人間ではなかった。
 一週間ほどたったある日である。野又は何を勘違いしたのか、仕事にレザーのミニスカートをはいて来た。これには全員呆れた。彼女が言うには。モデルになりたいそうである。「なったらいいさ」と僕は思った。
 取引先からも、なんだかんだといわれていた。なんでこんな奴らを採用したのであろうか。採ったのは社長である。入を見る目がないのは分かっていたが、これではあんまりである。
 ちなみに、野火のデスクは入社当日、社長のデスクにびったりくっついて置いてあった。秘書にでもするつもりだったのであろうか。 女と、金に狂っている会社である。こんなことがあっても社内ではあたりまえのことになりつつあるのがすこし怖い、と僕は思っていた。
 追伸、渡部は2ヵ月後、親の会社を継ぐといって退職した。さらに、転部した羽賀君は成績不良ということでクビになった。
 その後社長は
 「渡部が辞めるんだったら、羽賀をくびにしなくてもよかったなぁー。」
と、皆に聞こえるような大きな声で独り言を言っていた。

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