庄子部長はサングラスをかけていたのでクビです。

 最近は仕事も順調にいただけるようになり、少しは余裕も出て来た。今日は取引先が休みなので今日やらなければならない仕事はない。久しぶりの休息日である。出勤してしばらく新聞を熟読していた。そのとき、事務所の玄関の呼び鈴が鳴った。
 ピンポーン
  「は~い、どうぞ!。」
 最近機嫌がいいので思わず明るい声で叫んでしまった。人ってきたのは佐々本広告社の関谷君であった。関谷君は僕が会社にいたときからずっと仲の良かった好青年である。いつも忙しいのだがいったいどうしたんだろうか?。僕たちはしばらく取り留めのない雑談をしていた。話が途切れたとき関谷君が切り出した。
  「八木さん、庄子部長、明日で会社辞めることになったんです。」
  「どうして!」
 庄子部長は僕が会社に在籍していた時、公私にわたってお世話になった豪快な方である。さらに関谷君の直属の上司でもある。僕は本当に驚いた。
  「取締役会で決まったそうです。つまりクビです。表向きの理由が売上が上がらなかったからですが、本当の理由は別みたいですね。僕もこの間、その取締役会に参加させられて話とか聞かされたんですけど、言うことがバカなんですよ。社内でサングラスをかけていたとか、睨んだとか、テニスをする約束をしていたとか、とにかく毎日の小さな揚げ足取りのオンパレード。庄子部長は歯に衣を着せないでしゃべる人だから、いいことはいい、悪いことは悪いってはっきり意思表示するタイブだから、社長や三上部長にとっては目の上のタンコブだったんじゃないですか。
 八木さんがいなくなって、庄子部長もいなくなったら会社で常識のある人達なんていませんよ。僕、これからどうしたらいいんでしょうかね?。」
 この会社は徹底的に自分の好き嫌いで会社の運営し始めたようだ。僕は関谷君にこう言っていた。
 「関谷もどこか会社を見つけて早く転職しろ。じゃないと取り返しのつかないことになるぞ。」
 関谷君は僕の話に頷いていた。しばらくこの話を続け、彼は帰っていった。
 僕を採った根掘部長は僕の退職と同時に左遷され、加藤君を採った庄子部長は加藤君が退職した後クビになった。なんか信じられない出来事ばかりて、軍国主義のはびこる戦時中の日本のようだ。言いたいことも言えず、入りたくない宗教に無理やり入信させられ、背くものはすべてクビ。これが1990年代の広告代理店というものなのだろうか?。きっとこの会社は、世俗から離れたところにある新興宗教の会社なのだろう。
 ちなみに、関谷君は8月には東京の大手の広告会社に無事転職し、忙しい日々をおくっている。

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