社長と根堀部長に呼ばれて僕は社長室にいった。その仕事は壮大な規模であった。何とゴルフ場7つのCI計画を作れというものである。僕には到底できそうもない壮大な仕事であった。たが、よく聞いてみると適当でもいいから、見た目を立派にして、ただ形だけ作ればいいようなのである。僕はまた、アースリースと組んで悪いことをするんだな、とピンときたが気にしないように仕事を進めた。
根堀部長は「一応、1億円の仕事だから、それなりに頼むわ。」といって、いやな仕事にはまったな、という表情で立ち去った。そして僕の仕事が始まった。
適当な写植でゴルフ場のロゴタイプをつくり、適当な言い訳を考えた。ロゴマークは現在あるゴルフ場のものを適当に変形させて作った。さらにアプリケーションツールに関しては必要なイラスト(ティーとかコースターなどすべて)をデザイン会社に発注し、それにロゴマークもどきやロゴタイプもどきを貼り込んで一丁上がり!という、本当に適当なものであった。そういえば、適当なクラブハウスのパースも作ったし、立体のミニコース模型も作ったなあ。
僕はそれを格調高いファイルにまとめ、根掘部長に渡した。根掘部長はそれを一応チェックし、一緒に社長室に向かった。僕は「見た目が立派であるので大丈夫」、ということを説明した。社長は大変気にいったらしく、
「根堀くん、これ俺が直接もって行くから、今月伝票切っといて。」
「1億円でいいんですか?。」
「そうだ。」
社長との会話はこの程度で終わり、この仕事はこれで終わった。しかし1億円とは一体どういうところから出てきた数字なのだろうか。はっきりいってこの仕事、使ったお金は40万円くらいだし、ほとんどが利益。この会社の通常の利益から計算すると9ヵ月分ぐらいの利益を稼いでいるのである。どうせ、ろくなお金なわけないと思ってはいたが、すぐにそれは理解できた。
実はアースリース、このとき最近の土地暴落などで数千億の赤字があり、安西社長の家もすべて担保となっており、空前の灯火となっていたのだ。僕は推理した。佐々木広告社の主な株主はアースリースの安西社長の奥さんである。自分の会社がなくなって財産がすべて没収されても、株主配当で奥さん名義のお金が入ってくるのである。きっと、この1億円をスルーさせるつもりなのだろう。すげえ奴らだと思いながらも、ウラが取れないので誰にもいわずに黙っていることにきめた。