7月のとある日、新藤くんから一枚の招待状をもらった。それは彼の結婚式の披露宴の招待状であった。新藤くんは28歳で根掘部長の部の中堅営業マンで。彼は高校の頃から付き合っていた同級生の娘と結婚するそうである。ちなみに彼女は某財閥系の空調関係ではナンバーワンの実績がある会社に勤務している。このことが披露宴の時に波乱の元となってしまった。
大安の日、僕は1時からの披露宴に遅れないよう、早めに式場に着いた。一応会社からは社長、三上部長、根掘部長、千田部長、青竹さん、羽賀くん、それに僕の7人が招待されていた。僕が式場に着いたときはまだ誰も来ていなく、しばらくロビーで待っていた。しばらくして三々五々集まり、社長も来た。僕たちは、式場なのに全員そろっていすから立ち上がり、一同「お疲れ様です。」と、声を上げていた。ここは結婚式場なのである。会社員の性なのだろうか、ちょっと間抜けな気分になった。
そして僕等は式場に入り、自分の席に座った。
「よかった。社長とは違う席だぜ・・・」内心僕はほっとした。
ほどなくして、式次第のとおりに進行して行き、社長の挨拶の時が来た。社長は緊張した面持ちでしゃべり始めた。始めの方はうまく呂律が回っていなかったが徐々にとまともになってきた。が、内容がひどすぎた。
基本的に新藤くん夫婦に対して「おめでとう」の言葉はなく、新婦の会社に対してのお世辞と、まだ我が社の取引先になっていないことに終始していた。「日本一大きな空調関係の会社とお近づきできて光栄だ」とか、「これからは我が社ともお付き合いいただきたい」とか、そんな内容を真っ赤な顔でしまくし立てていた。しまいには新婦の会社の人達からブーイングが出始めた。
しかし社長は「受けた」と勘違いしたらしく、ますます図に乗ってそのようなことを続けて話していた。僕等は本当に恥ずかしくなってきた。こんな会社の会社員だとは思われたくはなかった。やっと、社長の挨拶が終わり一同ほっとした。
そして、今度は新婦の会社の支社長からの挨拶が始まった。その支社長も我が社の社長の話にカチンときたらしく、挨拶の中で、「社長さんも仕事に一生懸命なのは分かるが、このような席では仕事のことはぬきにして、二人の門出を祝いたい」といった内容の事を話していた。僕も同感だ。支社長の話で、しらけていた場が何とか取り繕えたようだった。
何とか式が終わった。僕たちはなんとなく気まづくてその場をすぐ立ち去った。何という人格の持ち主なのだろう、社長は。噂には聞いていたが、結婚式のお目出たい席でも、お金のことしか考えていないのである。金と女にゃきたねぇぜ、と聞いていたがやはり本当だった。
式が終わって、何日か経って新藤くんに打ち明けられたことがある。
式のあと、奥さんの会社の人達のところにいって、「今日はありがとうございました。」って挨拶したら、いきなり胸ぐらをつかまれて、「お前、幸せにしなかったらただじゃすまねぇぞ!。 こんな会社に勤めている奴のところに嫁いでいくのは可哀そうだ!!」って、怒鳴られて本当に恥ずかしかった。相手のご両親にも合わせる顔がないよ・・・。
このとき、僕は「この会社に勤めている聞は絶対に結婚しない。」と心に決めたのであった。
新藤くん、いつまでもお幸せに。